つきよ
皆既月蝕でしたね、この前
僕はというと観劇をしていて外に出たのがちょうど見えるんでないかと言う時間
余韻に浸っていたのでもはやつゆ知らずって頭でした
帰りの電車では読みかけていた電子書籍をようやっと読み終えました、一年ぐらいかかったかな、無料の古典、難しかったけど興奮した
電車に乗るまでの夜道
夜道に僕を通り過ぎていく子供達は塾帰りで、各々の元気さで蠢いています
ある一人の少年、空を見上げて
「・・・・・・!」
と、サイレント映画、何と言ったかは聞き取れなかったけれどとにかく驚いて喜んで、発見していた
発見少年の輝きこそ地上の星と呼ばせて欲しいぐらいの蠢きで、こういうことは記憶に残るもんです、赤ん坊が笑ってくれたり思春期が手を繋いでいたりとかね
僕は全然わかんなかった
本当に全然わかんなかった
「そんな空かい?
曇っていて、なんなのかわからんぐらいぼやけたお月様だけど、満月でもないしなんか暗いし
不思議ちゃ不思議だけど」
無礼者すぎる
時は電車に乗ったところにモドります。
僕はようやっと読み倒した、前編後編にわたる大冒険を見事読破したぞと意気揚々とTwitterを開き、万感の思いで指をなぞらせつっついたその刹那
この夜に流れてくるは、月、月、月、朋
つぎつぎと現れる月の写真付きつぶやき
「今回の皆既月蝕は、さらにスーパームーンでもありました!」
海馬が爆発したように思い出した、そのピークの時間までも
そして火の手は数分前の記憶、少年の輝きに引火する
「彼が空に発見した輝きとは!とどのつまり!」
自らがシンソウを月とめるまでもなく、自らにシンソウを月つけられた
わかりやすく言います。
エラく感動した彼の表情に抱いてた疑問符がピンと感嘆符に伸びたわけです
あの子の齢は10も無かったかと思う、ちっこかったし、まだゲートが見える距離をかけている命には、「曇っていてとても明瞭に見えてない初めての皆既月蝕は、普段とは違う色で、スーパームーンで、皆既月蝕で、いつもの月じゃなくて、なんか見えて、すごい!」
だったわけです
僕がもしも劇場を出たあと、月蝕のことを思い出せて、月を探したとして、でも人生何度目かの皆既月蝕で、見本みたいな写真を頭で比べてしまって「ほぉ、今回はこんな感じですね、すげ」ぐらいで踵を返したかもしれない。
あの子がいなかったら、そんな自分の面黒い冷静を後から、他人みたいに考えようともしなかった
感動してくれたおかげで感動できた、彼に感動した
僕もかつては彼だったはずだと、過去を見ずして信じてみる
彼は僕になるな、未来を見つめて信じてみる
次回スーパームーン皆既月蝕は12年後、僕は36で彼は青春時代
またすれ違いざまに感動連鎖したい
今度は先に見つけたりして
ではでは