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東京大学情報基盤センター nodes vol.2

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東京大学情報基盤センターの広報誌 nodes です。2022年3月にリニューアル創刊、9月に創刊2号が発行されました。印刷版の請求、ご感想、ご意見は https://www.it… もっと読む
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記事一覧

東京大学情報基盤センター nodes vol.2 (全体一気読み版)

巻頭言 データ利活用の波は日常生活にも押し寄せており、DX(デジタルトランスフォーメーション)やビッグデータ、AI、IoTといった用語をメディアでも頻繁に目にします。学術研究の世界では古くからデータの蓄積・利活用が行われてきていますが、莫大な情報から新たな知見を引き出すカッティング・エッジなデータサイエンスの手法を導入することで、無数の研究領域がさらにブーストされる時代になっています。今号のnodesでは、データ科学・データ利活用にフォーカスした計算機資源である「mdx」を特

nodes vol.2 巻頭言

巻頭言 データ利活用の波は日常生活にも押し寄せており、DX(デジタルトランスフォーメーション)やビッグデータ、AI、IoTといった用語をメディアでも頻繁に目にします。学術研究の世界では古くからデータの蓄積・利活用が行われてきていますが、莫大な情報から新たな知見を引き出すカッティング・エッジなデータサイエンスの手法を導入することで、無数の研究領域がさらにブーストされる時代になっています。今号のnodesでは、データ科学・データ利活用にフォーカスした計算機資源である「mdx」を特

幅広い分野の研究者ニーズを満たす データ活用社会創成プラットフォーム mdx

特集 幅広い分野の研究者ニーズを満たす データ活用社会創成プラットフォーム mdxSociety 5.0 時代に求められるデータ活用プラットフォームを目指して 「Society 5.0」は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のことです。2016年に国が策定した「第5期科学技術基本計画」※2の中で日本の未来社会のコンセプトとして提唱され、以来、アカデミアと産業界はSoc

ゼロカーボンを目指す地域と技術をつなぐ情報基盤の構築

mdxを利用した研究の紹介1 ゼロカーボンを目指す地域と技術をつなぐ情報基盤の構築自治体の悩み  気候変動への対応が急がれる中、日本でも総人口の9割近くにあたる自治体が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています。しかし、実現のための具体的な施策や計画を策定している自治体は多くありません。その大きな理由として、新しい技術や仕組みの導入が必要なことはわかっていても、技術へのアクセスや評価が難しいことがあげられます。そこで私たちは、技術導入を支援する情報基盤を構築

オープンデータから日本全国の人流をつくりだす

mdxを利用した研究の紹介2 オープンデータから日本全国の人流をつくりだす早くから「人流」の重要性に着目  新型コロナウイルス感染症との関連で「人流」という言葉が広く知られるようになりました。しかし、私たちが「人の流れプロジェクト」を始めたのは、それよりずっと前の2008年です。人々が時々刻々移動していく有様をとらえた人流データは、防災や防犯、マーケティング、交通・都市計画などに役立つだけでなく、さまざまな分野の研究者にとって重要なデータインフラとなります。そのため、人流デ

医学分野の論文から日本語言語モデルを構築する

mdxを利用した研究の紹介3 医学分野の論文から日本語言語モデルを構築する言語モデルとは  言語モデルは、膨大な量の文書に含まれている情報をなるべく効率よく圧縮して、いろいろな処理で活用できるようにしたものです。最近、文書の自動要約、対話システム、機械翻訳などの性能が格段に向上していますが、その背景にはここ数年で言語モデルが急激に発展したことがあります。  実際、最近の巨大言語モデルには、文脈を考慮した単語の意味、文法、単語と単語の関係(日本の首都は東京)など、さまざまな知

情報システム利用者の「困った!」を解決〜教育のオンライン化に貢献する学生サポーターたち

nodesの光明 情報基盤センターサービスの裏側情報システム利用者の「困った!」を解決 教育のオンライン化に貢献する学生サポーターたち 学生のサポート活動を見守ることも、教育の一環だと考えています Q uteleconでの玉造先生のお立場は? A 学生サポーターの皆さんは、次々にやりたいことを提案してくれます。それを思う存分できるように自主性を尊重しつつ大学側の責任者として支援しています。 Q サポート業務の運営上、心がけていることは? A 教育の一環ととらえ、学生サ

大型データから解き明かす土星衛星の大気環境

飛翔するnodes大型データから解き明かす土星衛星の大気環境タイタンの大気は生命材料がつくられる出発点 ─まず、タイタンの大気を調べる意義について教えてください。 飯野|多種多様な分子を含む分厚い大気に覆われているタイタンの環境は、昔から地球に似ていると言われてきました。タイタンの大気は主成分が窒素で、その次に多いのがメタンです。大気中ではこの窒素とメタンを起点としてさまざまな化学反応が起こり、複雑な分子がつくられています。やがてこれらは雲となり、雨となって地上に降り注ぎ、

プロジェクト md“X”

nodesのひろがりプロジェクト md“X”  皆さんは2000年から2005年にかけてNHKで放送されていた「プロジェクトX~挑戦者たち~」をご存知でしょうか。仕事に対して熱い情熱と使命感を抱き、前人未踏の“夢”を実現させてきた「名もなき人々」に焦点を当てたドキュメンタリー番組です。私が特に魅了されたのは、この番組が1人の異才・天才を取り上げるのではなく、さまざまな職種・立場の面々が一丸となって、いくつもの困難を乗り越えていく姿を丁寧に描いていた点です。  今号で特集され

スパコン導入の舞台裏

nodesのひろがりスパコン導入の舞台裏 「富岳」による新型コロナウイルス感染症関連のシミュレーション動画をご覧になった方も多いと思います。最近、スパコンについて報道される機会が増えました。しかし、スパコンがどのように導入されるかはご存知でしょうか。  東京大学でスパコンを導入する場合は、公的機関を対象とする政府調達の手順(仕様書作成→公告・入札→開札・納入)に従います※1。仕様書には導入が必要な背景、ハードウェアなどの技術的要件、保守など性能・機能以外の要件などを詳細に記

0と1で超巨大システムを操る

nodesのひろがり0と1で超巨大システムを操る  HPC(高性能計算機)向けシステムソフトウェア研究開発の醍醐味は、0と1の羅列で構成されるソフトウェアで最先端の超巨大システムを自在に操れること。思う通りにシステムが動作した時の達成感は格別で、モノづくりのおもしろさを実感するひと時です。  着任後、最初の任務は、Wisteria/BDEC-01のシミュレーションノード群とデータ・学習ノード群をつなぐ通信ソフトウェアWaitIOの研究開発でした。プロセッサも結合ネットワーク

モノとその繋がりの科学

nodesのひろがりモノとその繋がりの科学  大学で新しく学ぶ数学分野の1つにグラフ理論があります。グラフというと表計算の結果をまとめる図が思いつきますが、ここでの「グラフ」は別の意味で、「モノとその繫がり」を表します。「ネットワーク」と同じ意味で、こちらのほうがなじみがあるかもしれません。日頃よく目にするグラフは例えば電車の路線図で、駅(モノ)と路線(繫がり)を表しています。  グラフ理論は約300年の歴史がある分野ですが、長い間研究されている理由の一つに遍在性(どこにで