色ー”3つの黒”編
カラスのような黒。カブトムシのような黒。
同じ黒という名前だけれど、印象はまるで違う。
色の印象には名前だけでなく、その風合いがとても重要になってくる。
建築に使われる色も風合い、特に材質感がその印象を大きく左右する。
コールタール塗料の黒。渋墨塗料の黒。カラーガルバリウム鋼板の黒。
この小屋には3種類の異なる黒色が、外壁という同じ役割で存在する。
カラーガルバリウム鋼板というのは近年住宅の屋根や外壁で見られるようになった建材である。金属の板で貼られている部分は現代的で、近年改修がなされたと一目で分かる。イマドキっぽく、モダンで、カッコいい。そんな印象。(↓カラーガルバリウム鋼板貼りの外壁)
コールタールは昭和の時代に馴染み深い塗料だ。雨や日光から保護する目的で木製の電柱などに塗られていた。この小屋の外壁としてもともと使われていた杉板にも塗られていた。この材料を再利用してある部分で見られ、色褪せてすすけた黒色になっている。古めかしく、味があって、なんだか懐かしい。(↓コールタール塗料が塗られた杉板貼りの外壁)
渋墨塗料はさらに時代を遡って、城壁などに用いられてきた伝統的な塗料。今回の改修にあたって新たに杉板を貼ったところに塗ってある。本来なら渋墨を塗ったあとに柿渋塗料を塗って黒い色を定着させるのだが、コールタールの褪せた黒に段々近づけるため、ここでは敢えて柿渋塗料が塗られていない。ツヤのないマットな黒は、渋く、重厚感が漂っている。
(↓渋墨塗料が塗られた杉板貼りの外壁)
馴染むことと馴染ませないこと。
このバランスこそがこの小屋の改修を語る上で欠かせないすばらしい点である。もちろん外壁にもその絶妙なバランス感が現れている。
昔からあった素材を再利用するだけでなく、馴染ませるために昔からある塗料を採用し、退色させた正面部分。この建築が歩んできた歴史を物語っている。一方、建物の妻側(*)は一面ガルバリウム鋼板の外壁。これによって、いわゆる“小屋”から脱却し、新たな機能を持った“何か新しい建物”へと生まれ変わりを予見させてくれるのだ。
(*妻側:屋根の三角形が見えている側のこと。)
またそれらが、建材の特性を活かした場所に使用されていることも素晴らしい。軒の出と大きな駐車場に面した南側には木材(コールタール、渋墨)の外壁、軒の出が少なく壁の面積が大きい東面の妻側や、日の当たりづらい北側には、木材と比べて風雨などの自然環境による劣化が少ないガルバリウム鋼板を使うなど、適材適所で素材が使われている。
古い建築を改修する際には、オリジナルに寄せていくことが必ずしも良いとは限らない。受け継いだものに馴染ませる素材と引き立てる新しい素材とを組み合わせる。色を統一することで全体をまとめながらも、素材を分けて風合いを変えることで、ひとつの建築から様々な印象が浮かび上がってくる。
褪せた黒いコールタールの歴史を、渋墨の杉板が受け継ぎ、黒いガルバリウム鋼板の未来へとつなぐ。3つの黒に込められた願いのようなものを感じずにはいられない。
この小屋を改修している素敵なご夫婦はこちら↓
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