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情緒が安定している子としていない子の違いとして保護者の向き合い方がどれだけ影響するのか?

長年にわたり、子どもとその保護者を見守ってきた方からの「情緒が安定していない子の保護者は、子どもと向き合っていない」との指摘は、実際に多くの共感を呼ぶでしょう。しかし、情緒の安定性が保護者の関わり方だけに依存しているのか、それとも他にも影響する要因があるのかについては、科学的な見解を交えて考えてみたいと思います。

はじめに:情緒が安定している子どもと保護者の関わり


情緒が安定している子とそうでない子の違いは、確かに保護者の向き合い方が大きく関わると言われています。保護者の関わり方が子どもの情緒発達に影響するのは、心理学的にも多数の研究で示されています。しかし、一方で他の要因もあるため、一概に「保護者の関わり方がすべて」と断言するのは難しい部分もあります。

1. 保護者の関わり方と情緒安定の関係


心理学の研究によれば、親子の関係は子どもの情緒や心理発達に多大な影響を与えることがわかっています。特に、親子の「アタッチメント(愛着)」は、子どもが安定感や安心感を持つ上で非常に重要です。

たとえば、アメリカの心理学者メアリー・エインズワースが行った「ストレンジ・シチュエーション実験」は、母親と子どもの愛着スタイルが子どもの情緒安定に関与することを示しました。安定した愛着を持つ子どもは、困難な状況に直面したときに情緒が安定している傾向があり、逆に愛着が不安定な子どもは情緒が不安定になるケースが多いとされています。

2. 具体的なエビデンス:保護者との関係が情緒安定に与える影響


さらに、カナダの研究では、子どもと保護者の相互作用が子どもの情緒安定にどれだけ影響を及ぼすかが調査されています。この研究によると、親が子どもと積極的に関わり、感情的なサポートを提供することで、子どもがストレスを感じた際にそれをうまく処理できる能力が向上し、結果として情緒が安定すると報告されています。また、特に幼少期における親の安定したサポートが、将来的な情緒発達に長期的な影響を与えることもわかっています。

3. 保護者が向き合わない場合の影響


一方で、保護者が子どもに十分に向き合わない場合、子どもは情緒的に不安定になるリスクが高まると言われています。心理学では、このような状況を「情緒的ネグレクト」と呼び、子どもの自己肯定感や安心感の低下、さらには対人関係や学業成績にも影響が出るケースが多く報告されています。

たとえば、アメリカの心理学者ドナルド・ウィニコットの「十分に良い母親(Good Enough Mother)」という理論は、親が完璧である必要はないものの、基本的な愛情や安心感を提供することで、子どもが情緒的に安定すると示唆しています。逆に、このような基本的な安心感が欠けると、子どもは不安やストレスを感じやすくなるのです。

4. 他の影響要因:遺伝や環境の影響


ただし、情緒の安定性には保護者の関わりだけでなく、遺伝的な要因や社会環境も関係します。例えば、子ども自身の性格や気質、また学校や地域社会からのサポートも情緒に影響を与える要因です。特に、最近の研究では、情緒の安定に遺伝が影響を与える割合も少なくないとされています。

したがって、保護者の関わり方が情緒安定に大きく影響を与えるのは確かですが、周囲の環境や遺伝も無視できない要素であることも理解する必要があります。

5. 親子関係の改善に向けて


情緒が安定していない子どもが増える背景には、現代社会特有のストレスも関係していると言われています。仕事や家事で多忙な保護者にとって、子どもと向き合う時間を確保することは容易ではありません。しかし、短時間でも子どもと「しっかり向き合う」時間を作ることが、情緒安定に貢献します。

例えば、親が子どもの話に耳を傾け、共感し、理解する姿勢を見せるだけでも、子どもは安心感を感じやすくなります。また、家族での時間を増やすことや、家庭内での会話を増やすことも効果的です。

6. 終わりに:保護者の向き合いが生む情緒の安定


情緒が安定しているかどうかは、保護者が子どもと向き合っているかどうかに深く関わっています。しかし、子ども自身の性格や外部環境も大きく影響するため、親子の関わりが「すべて」ではないことも確かです。

大切なのは、親が子どもに適切に向き合い、愛情を持って接することが、子どもの情緒発達において大きな支えになるということです。

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