混乱後の市場は誰のものか

全体として企業の資金繰りは悪化

新型コロナウイルスによる流動性不足は著しい。ダイアナ妃が愛用したライフスタイル関連の会社英ローラ・アシュレイは経営破綻。米ボーイング製造会社は138億ドルをクレジットラインで引き出し、流動性を確保した。ソフトバンクは4.5兆円の資産売却と現金化を決定した。また株価が急落する中で、自社株買いで株主への利益還元を確保する動きも見られる。営業停止や需要縮小から企業は一時的にキャッシュ獲得手段を欠いており、債券発行などで対処しようとしても、リスクフリーレートの乖離(スプレッド)は大きくなるばかり(現在、日銀は社債の大幅買い入れを宣言したが)。投資家はリスクオフに走り、下落する株発行による資金調達はそこまで見込めない。最後の手段は銀行からの借入になるが、銀行は銀行でキャッシュを欲していることに加え、リスク資産対安全資産(国債など)の比率は銀行監督強化から基準が決められているため、やたら貸し出しを増やすことはできない。現在のような事態だと特に、信用創造には他の資産の減少もしくは資本を募る必要がある。後者は、レポレート(オーバーナイトで国債を担保に現金を受け取る時の金利)がとても高く、貸し出すにもコストがかかる。銀行監督の指標などを定めるバーゼルは3月末、貸出債権を厳しくする規制の導入を見送ったと発表。その他対策として、FRBはレポ市場への多額の資金注入を行うなど、質的、量的緩和をすすめている。日銀も最近になって、国債、社債の大量購入を宣言。やはり危機時は中銀が最後の貸し手として存在意義を強める。

一部のトップ企業はチャンスと見るかもしれない

株価が下がり、自社株買いできない小さな企業は大企業に買収され、市場の独占化が進む可能性がある。過去の三回の不況では、各セクターのトップ企業の株価は平均4%増加した一方、ボトムの企業のそれは44%低下した。今回の場合、生産停止なども相まり、一時的には利益は下がると考えられるが、その後は類似した軌道を辿ると思われる。
ただ、IT産業は別である。コロナ禍での在宅者増加に伴い、facebookを介したメッセージのやり取りは感染拡大以前よりも50%増加、アマゾンはオンラインショッピングの需要増に応えようと雇用を拡大させ、株価は史上最高値を記録。一方、コロナ前から不健全性をあらわにしているユニコーン(と呼ばれるスターアップ)企業は窮地に立たされている。多くの投資家が安全資産に逃げる中、ユニコーンのキャッシュの調達は困難を極めている。Limeと呼ばれる、アメリカのスクターシェアリングを進めるスタートアップは米国の緊急事態宣言を受け、活動を休止。WeWorkのような共有ワークスペースサービスも痛手を負う。このような状況だと、大企業は優秀な人材を抜き取ることや買収がとても容易になる(買収についてはスタートアップ企業の株価が下がっているため)。これにより、IT企業の独占化が進んでいく。現在、これに対し政府も打つ手段がほとんどない。コロナのような前代未聞な事態への対応に追われていることに加え、経営が悪化する企業が多い中、それをディスカレッジするような行動(独占禁止法違反から巨額の罰金を科すなど)を政府は取りにくい(実際のところ、中国企業による外国企業の買収に対しては注視し、必要あれば防止しているようだが)。まだ不確実性が多いが、コロナ収束後の市場景色はその前とだいぶ異なるかもしれない。

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