【UFP Equity Track採択第1号】誰も見たことのない未来の情報体験を提供するKepler社 CEO 坪井浩尚さんインタビュー ~ 仏道・サイエンス・アートの横断 ~
こんにちは!
UTECでRAをしている野間円です。
今回は、UTECの新しい取り組み「UTEC Founders Program(UFP) - Equity Track」に採択されたKepler社のCEOである坪井浩尚さんにインタビューしました。
「Keplerとしては、まだ詳細な部分を公にできていません。HPの公開もこれからなんです。」
とのことなので、注目の新しいデジタルデバイスを提供するKepler社のストーリー、必読です👀!!
※この記事は6分で読めます。
――さっそくですが、Kepler社の発足と、開発のきっかけについて教えてください!
きっかけは、2017年に弊社のプロダクトであるKaperを用いたMagic Calendarを発表後、大きな反響があり、また多くの商品化を望む声や協業のお声がけもいただいたことです。
それでKeplerを設立し、量産化に向け研究開発をスタートさせました。
ディスプレイ技術者にとって、紙のようなディスプレイは究極のデバイスであり、長年の夢であると言われています。このことは、紙のように周囲光を使って表示を行う反射型ディスプレイや、電気泳動式の電子ペーパーなど数多くのペーパーライクディスプレイが開発されてきた歴史から見てもわかりますよね。
ただ、これらの技術は印刷物の質感や表示特性の観点においては、紙の質感にほど遠く、新たな価値を生み出すに至ってはいないんです。
そこで、これまでとは全く異なる観点・理念で情報のインターフェースを再定義することで人に優しい「究極のデバイス」を実現したいとの思いから本業を始めました。
――身近なペーパーライクなデバイスとしてはamazon社のkindleが思いつきます。また、スマホのディスプレイもとても綺麗な画質が表示できますよね。
Keplerの技術は、他のディスプレイと何が違うのでしょうか?
kindleやスマホディスプレイはとても身近ですよね。でも、それらとKaperは、実は全然違うんです。
デジタル情報と人とを繋ぐインターフェースであるディスプレイの技術分野では、これまで、表示画像の輝度、コントラスト比、色再現性の三つの基本特性を向上させることを価値として開発が進んできており、この結果、ディスプレイの表示性能は飛躍的な向上を遂げてきました。
ですが、私たちはこの世界をコントラストや輝度、解像度といった特性だけで認知しているわけではありませんよね。
日光や電球といった周囲光の反射によって、その時間・その場所によって表情豊かに移り変わる色彩、光沢、影など、無意識に感情に訴える「感性価値」として認識しています。
一例として、「ディスプレイの表示画像」と「紙の印刷物」では、同じ写真であっても、「発光体」と他方は「物体」として、それぞれ全く異なる存在として認知されてきました。
同じ赤色でも、ディスプレイは環境に依存せず同様の分野やスペクトルにて光を放出しますが、物体は環境の明暗や波長の変化に追随し、その場所、その時間によって様々に表情を変えていますよね。
このように、これまでのディスプレイはその環境下において、物の実体を表すことができない。このことは紙と比較して、デジタルデータの信頼性や審美性を獲得しづらいという問題にも繋がっているんです。
弊社では、これらの課題を解決し、その場所・その時間に存在する紙や物体と同一の表示特性を実現することに成功しました。これにより、人が紙の印刷物を見たときに感じるアナログな感性価値を満たすだけでなく、紙の手触りや重さ、凹凸まで再現することで、デジタル技術の利便性を融合させたこれまでにない先進的な技術を創出することができます。
実際、こんな感じです。
――ええ、本当に見分けがつかない!
そう、上は普通紙の印刷画像、下はKaperによる情報質感技術による表示なんですが、同じように見えるはず。
Keplerでは、これらの感性価値を表現するため、デジタル情報そのものに質感や物性を与えることで、あたかもその環境下にある物体として私たちが感じとることのできる「DIGITAL OBJECT」という概念を提案してきました。
具体的には、私たちに身近な紙の印刷物と同様の質感を有する画像表示を可能とするディスプレイを実現することで、デジタル情報と物質とを隔てる境目を取り除き、あらゆる画像や動画を表示するディスプレイの利便性と、紙が持つ感性価値とを融合した、これまでに例をみないヒューマンフレンドリーなデバイスを実現することができるんです。
――なるほど。境界をなくし、本物の紙のような表示を実現したのですね。
そうなんです。
また、最近は、発光型のディスプレイを長時間見続けるという機会が増え、目の疲労が深刻な問題となっていますよね。
目の疲れが生じにくい電子ペーパーディスプレイも実用化されていますが、表示品位や操作感が従来の発光型ディスプレイに対して劣っており、将来の電子教科書の実現に大きな問題となっています。
その目の疲労の主な要因は、①環境の明るさとディスプレイ輝度の乖離、②ディスプレイ表面への環境光の映込み、③狭い視野角特性による質感表現の欠如と言われています。
弊社技術では、環境の明るさに応じた最適な表示画像の明るさや色を制御することが可能であり、また紙の様にどこからでも見やすいという特徴があります。
紙と電子ディスプレイを使った学習を比較すると、明るさや質感の違いから、記憶の定着など学習効果に大きな違いが生じることが報告されているんですよ。つまり紙の明るさや質感を再現することで、「目に優しく、学習効果が高い電子端末」を提供することが可能になり、これまでの紙の印刷物を超えた新しい体験をユーザーに提供することができます。
――ちなみに坪井さんのデザインフィロソフィーに「Meaning Driven Design」とあったのですが、どういう意味ですか?
意匠やスタイリングからモノの形を考えるのではなく、達成されるべき意味からデザインを考える手法のことを「Meaning Driven Design」と呼び、デザイン理念としています。
例えば、鏡のデザインを意匠から考えると、フレームの形状や材質、色や厚みといった形がデザインの対象となりますよね。一方で、鏡の「意味」を考えてみますと、鏡の前に立つのは、他者の目に映る自分を確認することが目的と言えます。
しかし、毎日鏡の前に映る自分の像は、右手を上げると左手を上げるように反転しているので、他者の見ている反対の像を毎日見ているという矛盾があります。
そこで、この鏡は、レンズ光学を設計に応用し、本来光が反射し結像する正反転距離に光を反射するように光学設計を施しています。
また、目と目の距離の視差、瞳の大きさ、像の歪みを、その数式に取り込み補正をかけることで、この鏡では、電気を使わず、自然界の物理法則のみで、他者から見た自分が映るんです。
――すごい!使ってみたいです!
ところで、坪井さんはとても技術や光学にお詳しいですよね。多摩美術大学ご出身ですが、エンジニアリングにはもともとご興味があったんですか?
はい、昔から物事の成り立ちに興味を持っていて憧れはありました。
一見、デザイナーは絵を描くのが仕事だと思われがちですが、インダストリアルデザインの仕事では、技術と形とを正しく折り合いをつけることが求められますので、技術や製造の知識は不可欠なんです。
――完全にイメージが変わりました。デザインとエンジニアリングは、一見離れているように見えて、実は大きく重なる業界なんですね。
――ところで、ご経歴に「大学を出た後に仏道の道へ」とありますが、どんなきっかけだったんですか?
実家が曹洞宗のお寺なんですよ。卒業制作展中に私は頭を剃ってすぐに仏道修行に入りました。
――仏道修行は想像もつかないです。そこでのご経験からKeplerにつながる考え方があるのでしょうか?
まさにつながっています。
仏教では自分の身体や意識と対外環境とを分け隔てず、一体と説きます。
西洋哲学では明暗や白黒、生死を正反対に区別されるものと考えますが、仏教では正反対に意味づけるためにはまさにもう一方の存在が不可欠であり、一方が単独して存在するものと定義すること自体に意味をなさないと考えます。
――なるほど。ということは、先ほどの「境界をなくす」という、Keplerで目指したいデジタル情報の変化にもつながるんですね。
そうですね。私自身は物質と現象、実体と仮想、サイエンスやアートも区別せず溶け合った世界の構築に未来があると考えています。
この情報質感技術はその第一歩目で、近い未来に実現しようとしている情報体験をたくさん妄想しています。
――ところで、UFPへの応募のきっかけはなんでしたか?
知人のつながりで、UTEC坂本さんを紹介してもらったのがきっかけでした。
ちょうどUFP募集が始まったところで、今までのUTECでの投資領域と比較して、よりファンダメンタルな技術、リスクの大きな領域の投資をできるようになったということをUTEC林さんに教えてもらって、何の疑いもなく応募しました。(笑)
――UFPのプログラムや、UTECに期待することを教えてください!
今いただいているハンズオン支援や人材の紹介はありがたいと感じています。特にファイナンスの世界は、わからないことが多いので、とても頼りになります。
また、UTECさんからの資金調達そのものが他のVCや協業メーカーさまの信頼を得られるきっかけにもなっています。
我々が今後、より大規模で世界的な挑戦をするにあたって、長く伴奏いただけるよう日々成長して行けたらと思っています。
――現在は少人数体制ですが、今後採用したい人材像はありますか?
「世の中をより良く変えたい」という気概を持っている方や、こういった技術に興味を持っていただける方を広く募集しています。
スキル面では、今は特にソフトウェアエンジニアの方や、BizDevの専門スキルを持った方の採用を進めたいと考えています。
――最後に、今後の目標を教えてください。
原理検証はできていますが、まだこの技術が量産されるまでには長い道のりが待っています。まずはしっかりと技術や製品を磨き上げ、ユーザーの皆さまの新しい体験価値に還元することが目標です。
まだまだ歩き始めたばかりですが、是非今後、Keplerにご期待いただけたら嬉しいです。
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