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【自主ゼミ】産学官共創学習ゼミ第八回 2023/11/20

早くも第8回の折り返しに差し掛かった産学官協創学習デリゼミ。

(興味のある方はホームページをチェック!途中参加も可能です。)

今まで起業家・コンサルなどビジネスの分野で活躍されてきた方々を講師としてお迎えしてきましたが、今回はアカデミアの世界で研究者としてのキャリアを歩まれてきた辻孝先生にご講演いただきました。

過去回の様子についても、noteにてその様子を発信しています:

↑本ゼミのスポンサーでもある東大OBのシリアルアントレプレナー・井野先生が講義をしてくださった回

↑医療×ITで学生起業した吉永先生が講義をしてくださった回


それでは、本題に入ります。

世界に先駆けて三次元器官再生を実現

辻孝先生は、1990年代当時まだ再生医療の概念が唱えはじめられて間もない黎明期より、最も困難であるとされた3次元器官再生を研究テーマとして選び、世界に先駆けて生体内での機能的な器官の再生を実現された研究者です。

- 器官原基法について
再生医療というと2012年にノーベル賞を受賞して世間を賑わせたiPS細胞を頭に思い浮かべる人も多いかもしれませんが、辻先生の発明・発展させた技術は「器官原基法」と呼ばれ、四つの山中ファクターを作用させ体細胞を幹細胞に戻す前述の手法とはアプローチが異なります。

予備知識として、生物の受精卵は、発生初期に「上皮性幹細胞」と「間葉性幹細胞」の二つの幹細胞に分かれ、それらは相互作用をして各器官の初期形態である「器官原基」を作ります。歯も毛髪も目も心臓も、全てこのプロセスをたどり個々の器官へと分化していくのですが、辻先生はこのメカニズムに注目しました。

「発生初期に2種類の細胞がコミュニケーションすることで自律的に器官へと分化するならば、その状態を再現することで器官原基を作り、3次元器官でも再生をすることができるのではないか。」

そこで辻先生らは、上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を高密度で密着させると、機能的な器官の再生が可能になることを発見しました。幹細胞は器官によって胎児からしか採取できないものと成体からも採取できるものとに分かれますが、現在は毛包・歯・涙腺・唾液腺などの器官についてマウスで臨床試験が行われその安全性と有効性が確認されており、原理的には他の器官についても応用が可能だとされています。

現在はその技術をもとにベンチャー企業「オーガンテック」社を立ち上げ、グローバル市場を視野に社会実装が進められようとしています。

3次元器官再生は研究開発から医療目的までさまざまな領域での応用が考えられますが、とりわけQOLの向上・高付加価値産業としてのヘルスケア市場は今後ますます規模が拡大することが見込まれており、ここにおいてオーガンテックは再生医療界で次世代のトップランナーになるとも言われています。また現在の医療業界のトレンドとして、国民医療費の削減につながる未病(=未だ病気ではないが健康が損なわれつつある状態)の研究についても注目が集まっています。この点、後ほど詳述します。

理化学研究所の創設経緯を辿る

今回の講演は、辻先生が現在も研究室を持たれている理化学研究所の歴史からお話が始まりました。

理化学研究所の歩みについて説明する辻先生

戦前、シリアルアントレプレナーの渋沢栄一やアドレナリン発見の功績をもつ高峰譲吉、うま味成分発見の池田菊苗など近代日本の革命家たちによって起草された理化学研究所は、皇室・政府・民間からの寄付金により設立されました。そして、結核の特攻薬などと噂された「理研ヴァイタミン」の販売などを通じ潤沢な資金を得て、一財団法人としては巨大な研究エコシステムを有していました。

これこそ、昨今日本が国をあげて推し進めようとしている、「科学技術に基づくベンチャー創出」の原型ではないでしょうか!?

ベンチャー精神は、すでに近代日本に存在していたのです。

辻先生は、オーガンテックを核として幅広い応用可能性をもつ再生医療の技術を事業ごとの会社を立てて社会実装し、「第二の理研」とも言えるコンソーシアムを作り出すことを計画しているのだと語ります。

カギはR&D市場にあり

企業のR&D(=研究開発:Research & Development)は消費者からは見えにくいものの、市場としては非常に大きいです。とりわけ生命科学・医療の分野においては欧米のメガバイオ企業がこの部分を掌握しており、研究をするにもまず必要な機械や資材をそうした企業から購入しなければならない、という状況にあります。

オーガンテックは、組織・器官再生における技術的優位性を武器に、パイプラインの最上流にあたるこのR&Dの分野で、グローバルマーケットに商品を売り出そうとしています。インテルが多くのPCに入っているように、縁の下の力持ちでもいいから、産業全体を支える日本発バイオベンチャーとなると辻先生は仰いました。それが、オーガンテックの目指すところです。

近代日本のベンチャー精神を思い出せ

辻先生の話を聞き、ベンチャー企業の創出を通じた基盤技術の社会実装にこそ、日本再建の道があると改めて感じました。かつて渋沢栄一が東京・築地精養軒に集めた実業家120名を前に高峰譲吉が大弁説を振るったように、令和の日本においても産学官が束になって事を推し進めれば、それは決して不可能ではないはずです。日本の研究の未来は暗い、と言われて久しいですが、希望に満ちた辻先生の話に、参加していた学生一同は奮い立ちました。私個人としても、サイエンスを究めて日本の未来を切り拓く研究者になりたい、と強く思いました。

さて、次回の講師は、辻先生と共にオーガンテック立ち上げに尽力されているコンサルタント・近藤嵩さんです。優れた科学技術がそこにあった時、いかにして資金調達をしてそれを事業化すれば良いのか。今まさに世界を飛び回り一大プロジェクトを担当されている近藤さんのお話が楽しみです。

文責・神野

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