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23歳に受けた面接の話

23歳。私は学生時代、就職活動をせず、そのままアルバイトで不動産屋の営業に勤めていた。就職をしたくなかったわけではない。エントリーシートを手書きするのがとにかく嫌だっただけだ。

就職活動はしていなかったが、大学時代に演劇ハマっていたこともあり、マスコミへの想いは募らせていた。今さらテレビ・新聞・ラジオは無理でも雑誌ならいける。出版社なら入れる。雑誌の編集部の電話番号というのは本の背表紙のところに書いてあった。そこに電話をして猫の手も借りたい編集部を見つければいい…変な自信だけはあった。

夏になり、本格的に就職活動を開始。実際、背表紙の電話番号に電話という暴挙などできるはずもなく、地道に就職雑誌とインターネットで求人募集を探していた。当時は転職サイトもできたばかり。うまいこと検索しないとリクナビにすら到着できない時代。会社概要のページに求人募集を載せている会社が多いということに色々な出版社のサイトを見て気づいた。「経験者に限る」と書かれていない会社概要の求人募集に片っ端からメールを送るという就職活動を実施していた。反応は薄い。面接まで行っても未経験の壁が大きいうえに、マスコミの専門学校も出ていないド素人は相手にされなかった。

編集素人が露呈した面接で救ったものは…

「迷ったら進む」
大学時代に妙な自信を付けていた私はめげなかった。
そんな中、見つけた青林堂という出版社。「ガロ」というサブカルチャー雑誌を出しているという。特に経験者に限った募集ではなかったのでメールを送っておいた。

ほどなく履歴書持参で面接をすると連絡が入る。当時勤めていた不動産会社の営業の合間を縫って面接に臨んだ。

出てきたのは小柄で小太りな社長。編集未経験であることを伝え、編集に興味があることを伝えた。

社長「おまえ、こういう雑誌が好きなのか?どういう漫画を読んでる?」

私 「漫画は読みます。こち亀とかドラゴンボールとか…」

社長「うちの作品は?」

私 「名前を聞いたことある人もいましたが、読んだことはないです」

社長「読んだことないのかよ!」

こんなやり取りをしばらく続けた後、社長はしびれを切らし、声を一段大きくして
社長「お前、なんにもわからずここに来てんのか」

返す言葉はない。その通りだ。終わった…

ふと見上げると応接スペースの壁に馬の写真が飾られている。競走馬だ。

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もう落ちたと半ば諦めていることもあり、開き直って

私 「社長、競走馬持っているんですか?」

社長「お、わかるのか?」

私 「中学生の頃から興味を持ってレースはずっと見ています」

社長「〇〇△△(馬名)って知ってるか?」

私 「聞いたことあります!(実際は聞いたことない)」

社長「2勝して今度の週末に出るんだよ。オープンで〇〇△△(馬名)ってのもいるよ」

私 「すごいですね!馬主席で観たりすることもあるんですか?」

社長「あるよ。お前行ったことあるか?」

話がひとしきり盛り上がる。競馬ならある程度は話はできる。

社長「お前、競馬はわかるのな。面白いな」

一笑いしたのち、一言

社長「うちさ、明日大掃除するんだよ。その掃除手伝ってくれるなら入れてやるよ」

晴れて未経験の編集者見習いが誕生した。

「運」をモノにするということ

ここでの編集経験があったので次の編集プロダクションにも転職できた。さらに、その後のインターネット業界への転職にもつながった。

競走馬の写真を見つけなかったら…見つけても社長に伝えられなければ…人生にたらればは禁物だけど、自分自身の人生や運命はこんな些細なことで構成されている。そしてそれは「運」という言葉で説明されることも多い。

ここでの「運」は壁に競走馬の写真が飾ってあったことだ。この「運」をモノにするにはこの事実を社長に伝える必要がある。

「迷ったら進む」

大学時代に培ったこのマインドのおかげだ。もちろん、このマインドのせいで、早合点の勘違いだったり、勇み足は山ほど体験していた。でもめげなかった。そのおかげで私は未経験を炙り出されて委縮してしまうようなシチュエーションでも図々しく社長に競馬の話を持ち掛け、運をモノにすることができた。

この「運」をモノにする機会は私の人生には大なり小なり他にもたくさんある。私のスタンスはこれだと思い、43歳になった今でも迷った末に大会社を辞め、転職を決めた。
「迷ったら進む」…これを裏切るわけにはいかない。

幸運の女神には前髪しかない

普段からの行動で運をモノにできるかが、決まる。

幸運の女神はある程度平等に人の前に現れるような気がしてならない。


皆さんの人生もまた、幸運の女神の前髪をつかむための、それぞれの技と決意に溢れているに違いない。

実際に幸運をつかむ、その瞬間が訪れることを祈って。


<その後のnote>














































































































































































































































































































































































































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