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【詩】世界一高い塔のつくりて

誰よりも高い塔をつくろう
世界一、高い塔をつくろう
一番とは良い言葉だ
わかりやすくて誇らしい

それじゃあ、どうすれば一番になるのだろう
どこまで、高くすれば一番になれるのだろう

最初の一歩は軽かった
高く高く、誰よりも高く目指せばよかった
見上げれば、追いつく誰かがいた
追い越せば、やっと一番に近づいたと思った

いつのまにかひとりになった
見上げても誰もいない
見下ろせば誰かがこちらを目指してる

誰よりも高く
何よりも高く

ひゅうひゅうと吹く風を
心地よく思わなくなったのはいつからだったろう
鳥の声すら聞こえなくなって
ひとつきりの胸の鼓動だけが聞こえる
脈が音を立ててる

ひとりだ
たったひとりで上を目指してる
どこまでもどこまでも上を目指してる
どこまで、、、
自分では決められなかった

まだまだ上を目指すのかい

頭上から光がさした
やさしい声に涙がにじむ
まばゆくて目を閉じた

そうして
そのまま思い切って
飛び降りた


世界一高い
塔が残った

てっぺんの部屋にはやさしい声をした何かが住んだ
雲が部屋のあちこちで踊った
鳥が巣をつくり
高山植物が根を張った
動物たちが入り込んで
あたたかな場所をつくった
はるか下の方では人が住みついた
高い場所をめぐって話し合いをしている
誰が一番、上に行くか長い時間をかけて話し合いをしている

塔をつくったひとはここにはいない
塔から離れた場所で小さな小屋をつくり住んでいる
はるかなる時の流れの中で大きくなった
とびきり大きな木のそばで暮らしている

自分のつくった塔をはるか遠くから眺めている



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