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ショートショート:動く写真

その写真は動いていた
誰がなんと言おうと動いていた
動画のようだったので
誰も写真だと思わなかった

ただひとりだけ
写真が動いてると言った少女がいたが
何を言っていると笑って誰も相手にしなかった

壁に掛けられ
額縁に入れられ
飾られているのに
誰もおかしいと思わなかった

もしかして
そういった仕掛けがあるのだろうか
映像が流れるのは不思議ではない
壁にかけるテレビがあるくらいなのだ
額縁に入った映像など
それほど変わったものではない

誰にも相手にされなかった少女は
写真の方へ近づいてしげしげと眺める
少女はどうするのだろうかと思っていると
写真の中から手が伸びてきた

あっという間もなかった
少女はその手につかまって
あっさり写真の中に入ってしまった

慌てて少女のもとに向かった
急いで写真の方を見た
その写真はただの写真だった
ぴくりとも動かないただの写真だった

触ってみようと手をのばしたら
手をふれないで下さいと窘められてしまった
少女はどうなってしまったのだろう
写真の中を探したがどこにも見つからない

近くのひとに聞いても
少女の存在を誰も知らなかった
少女はどこに行ったのだろう
動く写真はどうなったのだろう

写真はなぜ動いていたのだろう
写真はなぜ動かなくなったのだろう

動く写真に気づいたのは自分と少女の二人だけ
もし自分が先に近づいたら
少女よりも先に写真を見に行ったら
そうしたら、あの手は自分に伸びてきたのだろうか
伸びてきた手を自分はあっさりつかんだのだろうか

わからない
わからない
わからない

わからないまま月日は流れ
また動く写真に出会う



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