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【読書】「にっぽん怪盗伝 新装版」どんな看板をかかげますか

 「にっぽん怪盗伝 新装版」は、池波正太郎さんの短編作品を集めたのもです。どの短編も泥棒が主人公のお話。鬼平犯科帳シリーズで出てくる長谷川平蔵が関わる事件もありますが、そうでない短編もあります。

 どの短編も面白いですが、「白浪看板」は印象に残っている作品のひとつです。

 まず、“白浪”といわれて、どれだけの方がぴんとくるでしょうか。恥ずかしながら、私はさっぱりわからず、のちに解説を読み納得した次第です。

 “白浪”は、盗賊の異名です。講談、歌舞伎などの一系統で、白波物としてずいぶん好まれたようです。

 はい、「白浪看板」といいますので、そのまま、泥棒の看板と連想しました。実際、作中では、泥棒をやるにあたって三つの掟を守っています。

・女性を犯さない
・人を殺さない
・困っている人から奪わない

 この三つを自分だけでなく、手下にも徹底的に叩き込み守らせます。万が一、自分か手下のひとりが破ったら頭領がおとなしく自首することになっています。

 普段、頭領は、固い仕事をしていますが、何年かに一度は大きな盗みを働きます。そのために、手下を使ってあれこれ仕込みをしているところでした。

 この短編には、もうひとり、看板を掲げる女性がでてきます。身なりはみすぼらしく、片腕しかない女です。その日、食べるものにも困る乞食です。頭領は、財布を落として困っている男と出会います。かわいそうに思いながらも通り過ぎようとしたとき、女乞食が、男に財布を返してあげる場面を目にしました。

「その日の暮らしにたいそう困っているようだ。なぜ、財布を拾って届けたのだろう」

 頭領は妙な感動と胸の内に広がった謎を解きたいがため、女乞食に鰻をごちそうします。食べながら、女乞食に疑問をぶつけますと、自分のような乞食は、人様からもらいものをして生きている、それなのに、人様のものを盗むようなことはしてはいけない。だから、落し物は拾って届けるようにしている。これは自分だけでなく、ほかの乞食もそうだ。さらに、これは乞食のかかげる看板だと、女乞食はきっぱりと答えました。

 女乞食の言葉に心打たれた頭領は、さらに、女乞食の身の上を聞いていきます。この会話があったのち、頭領は盗みをやめ自首することに決めました。なぜなら、頭領の手下が女乞食の腕を傷つけたことが分かったからです。

 “看板”といっても、様々な看板があります。

 のちに自首した頭領は、長谷川平蔵から「泥棒のかかげる看板は、ただの見栄だ」と言い放たれます。乞食女がかかげる看板とはずいぶん違うと言われてしまうんですね。

 このお話にはふたつの看板が出てきます。それぞれ別の看板をかかげています。

 どちらの看板も、それこそ命がけで守ってきた看板です。



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