【詩】落ち椿

血のしたたるような紅が
夕明かりの中から浮かびあがる
いちまい、にまい
散ればいいのに
潔しとばかりに
首から落ちる
ぽとりと落ちる

だあれも褒めちゃくれないよ
潔しと思うのは自分ばかり
冷たい地面の上でことりと転がる
それでいいよと言わんばかりに

せめて月明かりが慰めてくれればよいものを
朝から重く垂れこめた
薄黒い雲が降らす雪
しんしんと冷え込む真夜中に
傘もささずに誰かくる

吐く息の白さは雪にも負けない
積もり始めた雪が足をぬらす
頭の上に白く積もる
着物の上に散らばる白を払うひと
暗闇に浮かぶ木々をみる

永遠の緑を放つ葉の下から
紅の花がにこやかだ
花たちと遊ぶ時間などないよ
さっさと家に帰るんだからね

追いすがるような紅を
振り払うように前を向き
ふと足元に目をやれば
白と緑と黒の世界に
浮かび上がるような匂う紅

蹴りそうになって
踏みつぶそうになって
つんのめった
白い真綿を被ったような紅
こちらには目もくれない

瞬きをする間に雪は降り積もる
紅を覆い隠していく
落ちたばかりの紅がほのぼのと明るい
その明かりが消えてしまう
白にかき消されてしまう
どうにもこうにももったいなく
そっと拾い上げた

紅の上に積もった白は
そのまま払わずに持って帰ろう
寝ずの番
首を長くして待つあのひとに見せてやろう

それまでどうか
笑っていておくれ
君を見れば
きっと笑顔になるだろうから
帰りを待つひとが
微笑むだろうから

寒い夜を
雪の降る夜を
明かりを消さず
部屋を暖める
あのひとの
心をほっと照らすだろうから





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