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映画『オリヲン座からの招待状』に見る、町を受け継ぐ信念―『西村邸』のこと|町のこと③

こんばんは。遅くなりました~。「町のこと」の3回目。今日もよければおつきあいください。

去年の11月、近くにある静観荘という旅館に挨拶に行きました。

近くも近く。西村邸から徒歩1分。奥庭から間近に見える距離です。ここは本当に昔からある旅館で、ぼくの小さい頃も既に、ひなびた感じのたたずまいでした。西村邸と同じく、大正初期の建物だそうです。

「近くで宿をやる予定なんです。」と。
祖父も祖母も小学校の教師をしていたので、奈良町のいまの上の世代には、「西村先生の~」と言ってくださる教え子の方も多いです。
30年以上前にご実家の静観荘を継がれた、主人の増森さんもそう。そんなこともあってか、『西村邸』のやろうとしていることを、あたたかく迎えてくださいました。

正面のガラス戸の向こうを見ながら、こんなふうに話してくださいました。

「ずっと奈良町見てきてな…ほんまに来てくれる人増えましたよ。昔はからっきしでしたから。」
「昔は観光の案内してくれる場所もなかったから、外国の人らもみんなウチ訪ねて来はってな。英語ロクにわからへんのに笑」
「ぼくもよぉわからんまま継いで、結局ここまでやってきましたわ。」
「つなぎ役はできたんちゃうかなと思ってますよ。若い人が次やってくれるん、楽しみにしてますよ。」

この「つなぎ役」という言葉に、身が引き締まる思いがしました。
そうか、自分はつないでもらったのか、と。つながった先にこれから立つぼくたちが、何を伝えていくのか。これからの奈良町の先に、何を見てもらうのか…。


『オリヲン座からの招待状』という映画があります。浅田次郎の小説が原作です。

昭和の京都、若い夫婦がいとなむ小さな映画館「オリヲン座」。そこに無一文でやってきて、「働かせてください!写真(映画のこと)すきです!」と映写技師の主人に弟子入りをする青年。やっと認めてもらえ、3人になったオリヲン座も束の間、主人が早々に他界してしまい、なんとか映画館と未亡人を支え続けようとする青年…、的なストーリーです。

ぼくはこの映画を、東京で付き合っていた女の子のすすめで、6年ほど前に見ました。見たのはまだ付き合う前だったので、見る動機には煩悩も多分にあったでしょう!!

部屋でひとりで見終わってそのまま、 女の子のことを考える余裕もなく、15分間泣き続けました。

後にも先にも、そんな泣いた映画はありません。15分てあります?最近みたけど、やっぱりめっちゃ泣きました。

(ここから若干ネタバレです)

最後のシーンは平成の時代。青年も未亡人も歳をとり、オリヲン座を続けられなくなる。昔の常連さんを招いての最終興行。先代が一番好きで、青年が初めて上映した作品。それをもう一度かける前に、お爺さんになった青年はお客さんに向けて、こういうふうに挨拶をします。

(経営が苦しくなる映画館を守るため)「ピンク(※エロいのですね)かけよ思たこともあります。せやけどなぁ、そしたら子どもらが映画見られへんようになるしな。なんとかリバイバルかけつづけてきました。」

地元に住む、ある男の子と女の子との関わりも、ストーリーの大事なところなんです。家が荒れていて帰りたくない2人にとって、オリヲン座は唯一の拠り所だったんです。

このあと続けて、映画館を閉めることを「男として、人間として、映画人のはしくれとして」恥ずかしいことだと詫びるんですが、それがまた、彼の信念の強さを浮き彫りにします。プライドをもってオリヲン座と、京都の町、文化を守ってきたことを感じるんですよね。たまらないシーンです。

ちなみにこのあと、もう一段階泣けるんですが―てか書いててまた泣けてきましたが、それは伏せておきますね。おじいさんを演じるのは原田芳雄さん。ぜひ見てみてください。


静観荘のご主人の「つなぎ役」という言葉の向こうに、勝手ながら、このシーンをとても重ねてしまいました。

形あるものはいつか消えてしまうし、価値観だって遷り変わる。失われるものに固執することはバカらしい。時として醜悪ですらあると、思うこともあります。

ただ、町の、誰かの何かをまもってきた人の信念は、受け継いでいきたい。町とそこにある文化を守るということの価値は、短い歳月でははかれないんだと思います。

ぼくが増森さんから受け継ぎたいのは、奈良町の何だろう。まだ正解はわかりませんが、ひとまずそれを『心地よい鄙(ひな)び』と表現することにしています。

本当にいろんな人が住んで、いろんな人が訪ねてきてくれるから、まちづくりって難しいですよね。最大多数の最大幸福なんてわかるはずもないから、自分が信念を丁寧に伝えていくことが一番なのかなと思います。


今日はそんな感じでした!読んでくださってありがとうございます。
昨日ひきこもってたせいか、朝からしんどかったのですが、無事書けてよかった…笑 また明日ものぞきに来ていただけたら嬉しいです。

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