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『西村邸』のこと―デザインのこと④ブランディング

ニュースに出ていた、大阪メトロのひげの話。いろいろすっとばして、企業が従業員の評価をひげで下げることに関しては、ぼくはアリだと思っています。(事前のコンセンサスは大前提ですよ。)

ただ、それを語る文脈は「文句つける客がおんねんからからしゃーないやんけ。」よりも、「自分たちの組織を、こういうふうにお客様に見せたいので。」とする方がかっこいいんじゃない?今日はそんな、ブランド―ブランディングの話です。


もうかなり「ブランディング」という言葉は身近になってきましたよね。組織や商品の話はもちろん、個人というレイヤーで「セルフブランディング」なんていう使われ方もします。
でも改めて「ブランド」ってなに?と聞かれたら、よくわからなかったりしませんか?もともとファッション系の用語のイメージはあるけど…(ちなみに語源は「焼き印」らしいです。)

今回もインターネットで検索してみましたが、ぼくはしっくりきませんでした…
これ、コトラーの定義する「ブランド」だそうです。現代マーケティングの父!

―ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ

「区別するための記号の組み合わせ」とあります。まぁ…そうかな。
ただ「A社は赤、B社は青なので、弊社は黄色で行こう!」これをブランディングと呼べるのか、ぼくは疑問です。

今週語ってきたデザインの文脈に即して言えば「主体にとって適正なデザインを定義し、それを継続すること。」これがぼくの考えるブランディングです。

ぼくは、最初に勤めたデザインプロダクションのクリエイティブディレクター(五十嵐さん。めっちゃかっこいいおとうさんで、いまも憧れています…)に、「ブランドは一貫性と継続!」と叩きこまれました。そのあといろいろなブランディングを語った本も読んできましたが、この教えは大きく動きません。ぼくの考えるブランディングの肝は「続けること」です。


社会の変化の速度がどんどん加速する中で、インマーケット的なビジネスのおいかけっこは苛烈になる一方です。デザインもそう。
A社とB社に対抗して―という理由で選ばれた黄色は、黄色いC社が台頭してきたとき、コロッと緑色に変わります。このとき自社がそれまで黄色で積み上げてきた実績はふりだしに戻り、お客さんとの関係構築を一から始めないといけない。こういった後ろ向きなトライアンドエラーを繰り返すことは、ブランド構築ではありません。

目的の本質は、区別してもらうことではなく、認識してもらうこと。そのために、自分たちの存在を発信し続けていくことです。

実際の過程で競合との比較をしないわけではありませんが、不確実性の高い外の環境に要因を委ねるのはとても危険です。
なにより、無理なく自分たちの存在を発信し続けるには、まず自分自身が納得していないといけません。自分たちはこういう存在であり、まず一番にお客さんに伝えたいことはこれだ、というのを掘り下げます。今週最初にお話しした、主体にとっての適正を探るデザインの過程が、ブランディングの第一歩なんです。

その結果「自分たちは赤色だな」となったら、それはそれでいいと思います。A社には無い他の要素を掘り出せばいいんです。絶対あります。

で、核心までいけた!となったら、それに基づいた表現を決める―デザインに落とし込む。このデザインによって、こういうふうにお客さんに見てもらいたい、というところです。
そしてこれを細部まで徹底する。商品パッケージなら、店頭の小さなPOPひとつまで。サービスなら、使うボールペンや従業員の仕草まで。これが一貫性です。何か新しいことを始めるときも毎回、「これは自分たちらしいか??」を問います。


いま、世の中で多くの人に「ブランド」として認識さているものは、これをずっと続けることで、世の中に「ブランド」だと認められたものです。「ブランディング」というのはその過程―「一貫性と継続」を指します。
よく「ブランドを『育てる』」という言い方をされるのですが、それも過程に重きを置いているからですね。
こうして丁寧に育てられたブランドが、すなわち永く続くデザインになるのは必然です。カロリーメイト、パッケージ見るたびにかっこええなぁ、とため息が出ますね笑

メトロなんかは公共性の高いサービスですし、「こういう人もおるから…」という消極的視点に立つことを否定はできませんが、「ブランド」を志す人にはぜひ、「自分のブランドにひげはふさわしいか??」という積極的な視点で、自分たちにかかわるものを考えてみて欲しいです。

ぁ、あと余談ですが、上等なもの使えばいいってもんでもないです。引き出物とかで集まった上等だけど不揃いなタオルよりも、100均の白いタオルで統一する方が、ブランディングとしては強いと思いますよ。


今週の「デザインのこと」は、これで終わりです。
最初にデザインプロダクションに入ったのも偶然と言えば偶然なんですが、いまもやっぱり、こういうこと考える仕事が一番わくわくします。
『西村邸』もブランドの素材はあるので、オープンまでにもう一段階、デザインのクオリティ上げたいなぁと思っています…。

来週は「整理のこと」の予定。今週もお付き合いいただき、ありがとうございました。あなたの週末に、よいデザインとの出会いがありますように。

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