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旅に失望した主人が開く、旅の宿―『西村邸』のこと|旅のこと①

こんばんは。2月も後半に入りました。
春節と、奈良瑠璃会というイルミネーションイベントも終わり、奈良への観光の方も2週間ほど途絶える季節になります。雪も降らない、ただただ寒いだけの奈良。ですが、ゆっくりお寺を回りたい方はには、かえっておススメかもしれません。

そんな中で書く、旅のこと。旅行者のための宿をやるので、避けては通れない話題なのですが、まずは正直に、ぼくの旅に対する考えを打ち明けておこうと思います。

ぼくは、そこまで旅行経験は多くありません。
中学生くらいまでは、両親に国内外いろいろなところに連れて行ってもらいましたが、大学生の間は長期休暇もサークルの活動なんかに明け暮れていました。これは持論ですが、旅行が好きになるかどうかって、大学生のころ自力での旅行にどれだけ行って、どれだけ旅行することに慣れたかが分岐点だと思います。

社会人になってようやく、国内の小さな旅行にちらほらと行くようになりました。最初のゴールデンウィークに行ったのは、長崎の五島列島。3年目にはアメリカに行くため、写真が小学生のままだったパスポートを更新しました。
それでもやはり、ぼくより旅行が好きでバンバン旅行に行く友人が、100人はいます。

いくつかの旅を経験した上でのぼくの考え―包み隠さず言うと、旅という行為はそこまで価値のあるものだと思っていません。

いやあるいは、自分にとっての未知の体験だった旅に対する、「信仰」が強すぎたのかもしれません。初めて見る風景とか、異文化交流とか、そしてよく言われる「自分探し」とか。普段出会えない刺激的な何かが、旅先にはあるんじゃないかという期待をしすぎていたのかもしれない。

旅をしてわかったのは、結局世界は地続きで、どこへ行こうが1日は24時間だということ。カフェで飲むコーヒーが、コーヒーの概念を覆すことはなかったし、Wi-Fiをつなげばスマホにはいつもと同じ画面が現れる。そして、遠く離れた地に「本当の自分」なんてものは当然転がっていない。
旅というのはつまるところ、ただ移動と宿泊、観光を消費しているだけ。「いつもは家の近くのマクドナルドに行くけど、今日はちょっと離れたモスバーガーに行ってみようかな。せっかくモスに来たんだから、スープとモスチキンも頼んじゃおうかな!」さすがに極端すぎるけど、その程度のことなんだ、と。遅ればせながらそんな当たり前のことに気づいて、旅に対する失望があったのかもしれません。

ただ失望すると同時に、また別の可能性を感じてもいます。
それは、旅の過程で何かが見つかるとすれば、それは旅先の環境ではなく自分自身の中にある、ということ。

自分が旅先―普段と異なる環境に身を置いたとき、そこでも続けてしまったことは何か。忘れられなかったことは何か。日々触れるものと形こそ違えど、同じようにいいなと感じるものはなにか。
そこに耳を澄ましてみると、日々の中で埋もれていた、自分の生活や価値観の本質が垣間見えるかもしれない。食べること。眠ること。身体を整えること。旅先でも必ず使うもの。知らない町で目が行くもの。やらないと落ち着かない習慣。そういうものです。

ぼくも去年の2か月間、住み込みのアルバイトという少し特異な旅の形ではありましたが、普段と違う北海道で暮らしてみて、「ああ、自分はこれを大切にしたいんだな。」ということを改めて見直すことができました。ぼくはまだ、そこに旅の可能性を期待しているかもしれません。

「暮らすように旅する」というフレーズ、AirBnB/民泊が流行りだした頃からでしょうか―よく目にするようになりました。最近は一棟貸しなんかのラグジュアリーなスタイルを指すことが多いように感じますが、この言葉の持つ力の抜けた感じは好きです。
「せっかく〇〇に来たんだから!」と張り切らなくていい。普段と違うことをしようとしなくていい。旅先でも変わらない自分を、ちょっと落ち着いて見つめ直すのも面白いんじゃないか。そういう旅の一面を語ってくれている気がします。

西村邸も、旅のお手伝いをしながら、暮らしの中に何かを伝えたい、という場所です。旅という非日常の中で、日常の本質を見つけてもらう。
身も蓋もないですが、奈良の大仏を見て、鹿と触れ合ったところで、あなたの人生はきっと変わりません。むしろ、家に帰ってからの日常の中で大切にしたくなるような、つつましやかな気づきを提供したい。
そんなふうに考えながら、旅不精なぼくは、宿をやってみることにしました。

今日はこんなところです。自分としては「旅」に関する一番言いにくいことを、週の最初に吐き出しておきました。こんな感じで、連載最後のテーマにお付き合いいただけたらと思います。今日も読んでくださって、ありがとうございました。

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