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背中の痛み(右肩甲骨の下)の原因を医師が解説

「どちらも緊急度が高く、思いっきり命に関わります」
肩甲骨の下の痛みって、いろんな内臓も関わるし筋肉や神経も関わるし診断が難しい部位なんですね。その辺りを徹底解説です!

※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
ときどき出てくる「ふんぞり男」とは、その名の通り、ふんぞり返って態度がデカい患者さんです。


見過ごされがちな背中の痛み、その真実とは!?

今回は背中の痛み、特に右肩甲骨あたりの痛みの原因をお届けします。
この辺りの痛みがピンポイントにある人はもちろん、その辺りがなんとなく痛いという人にも、ぜひ見ていただきたい内容です。

背中の痛みは、ずっと同じ場所がピンポイントで痛い人もいます。
しかし多くの場合は、痛みが「移動したり」「出たり消えたり」と掴みどころがないことが多いです。

実は背中の奥には大切な臓器が多くあります。
ときに「命が危ない!」という最初のサインが「背中の痛み」として出ることもあるため、この場所の痛みは、非常に悩ましい症状です。

今回の記事では「この辺りが痛いなら可能性としてはこれらが高いだろうなぁ」と、僕が独断と偏見でつけたTOP5を紹介します。
ですが、医学論文をもとに、しっかりと解説を交えて紹介していきます。
ランキングは可能性の高さで決めました。

そのため、いきなり第5位に重症すぎる重い話が出てきますので、ぜひ最初から最後までご覧いただけると良いかと思います。
そして「病院や治療院など、どこに行けばいいの?」という疑問にもしっかりとお答えしていきます。
では早速いきましょう。

第5位 膵臓の問題

可能性は決して高くないですが、かなり重い話。
1番重い話からすると、膵臓の中でも「膵がん」ですね。
これは症状を出しにくいため、見つかった時にはもうステージが進んでしまって治療が難しいことが多い「がん」です。

それを裏付けるのが、こちらの研究(*1)です。背中の痛みがある膵がんは、予後が良くありません。
つまり、生存率や生存期間が良くないということが示されています。

この症状は、背中の痛みが出るほどに膵がんが重症化してしまったということです。
ただ統計上の話で、背中の痛みがあっても治療がうまくいったという人も多くおられますので、背中の症状で心配な人は、内科の先生にご相談ください。

膵臓に関しては「消化器内科」が一般的ですね。
消化器内科や消化器外科にもさらに専門があり、ざっくり言いますと「胃腸」と「肝胆膵」にわかれます。
胃腸はわかりますね。
胃と腸、要は消化管です。
そして、肝胆膵は肝臓、胆嚢、膵臓の頭文字を並べただけですね。
それ以外にも膵臓の問題として、もっと一般的な「膵炎」があります。
急性膵炎と慢性膵炎がありますが、いずれもお腹の上の方の痛みとともに、背中の痛みも典型的です。
そして、暴飲暴食や飲酒が原因になりやすいので、生活習慣が心配な方は膵臓をチェックしてもらうのも選択肢かもしれませんね。

第4位 心臓・大血管の問題

これは可能性の高さで4位にしましたが、緊急度ではダントツ1位です。
救急車が必要です!
主に2つの病気が要注意で「大動脈解離」と「心筋梗塞」です。

どちらも緊急度が非常に高く、命に関わります。
例えばこちらの研究(*2)では、大動脈解離のほとんどは「突発的な痛み」に襲われているということを示しています。

具体的には突発的な胸の痛みか背中の痛みですが、この症状だけで大動脈解離の診断の感度が84%と高かったと示されています。
これは、突発的な痛みがない大動脈解離は16%しかないという意味でもあります。

そして、こちらの研究(*3)では、心筋梗塞の症状について統計を取っています。
もちろん圧倒的に多いのは「胸の痛み」で、女性88.5%・男性94.8%ですが、女性では特に他の症状も報告が多いです。

報告が多い順に
嘔吐53.8%
背中の痛み42.3%
めまい17.3%
動悸11.5%
と報告されています。

・突然の痛みや胸も痛いなど、別の症状を併発している場合
・背中の痛みだけだとしても、通常のコリなどの痛みとは違う症状がある場合

上記のような違和感や症状が持続するときには、内科で心電図やレントゲン、またそれ以上の検査などをご検討されても良いかもしれません。

第3位 神経の問題(首・帯状疱疹)

第3位は、「神経の問題」です。
背中に限らず、皮膚には支配する神経というものがある程度決まっています。
これを「デルマトーム」と言います。

このCの何番やTの何番というのは、対応する「脊椎脊髄神経の高さ」を表しています。
Cが首・頚椎で、TやThと表現されるものが胸椎です。

背中の痛みは首の下の方から胸椎の上の方の神経がやられると痛くなります。
その代表が「椎間板ヘルニア」です。
首のヘルニアの多くは腕や手の痛み・痺れとして現れますが、首といってもかなり背中よりになってくると症状も背中に出たりします。

これはMRIを撮らなければ、なかなか見つかりにくいですね。
首をそらしたり傾けたりすると、痛みが強まる特徴があります。

そして、神経といえばもう1つ。
「帯状疱疹」も有名で、かつ頻度も低くない神経の病気です。

ふんぞり男「は?皮膚の病気じゃねぇのか?」
 
皮疹が出るので皮膚科で治療しますが、神経節に潜んだウイルスが原因です。
左右どちらかの神経に沿って症状が出て、皮膚に異常が出る前に痛みが出ることが多いです。
また、皮膚の症状が落ち着いても痛みが続いてしまうこともあります。

このイラストの分布の通りにどこかの神経がやられて、それ以外のところは皮膚も問題ないというのが特徴です。
神経は右と左にわかれていきますから、帯状疱疹も右か左のどちらかに出るのが特徴です。

第3位は神経の問題としてまとめましたが、首の神経の問題を疑えば「整形外科」ですし、帯状疱疹を疑えば「皮膚科」が行くべき専門科になります。

第2位 胆石・胆嚢炎

「右の」というテーマでお届けしていますので、右側にあって痛みを出しやすい内臓が何かと考えると・・「胆嚢」があげられます。
胆石ができて、ものすごい痛みに襲われるというケースがあります。
典型的には右の腹痛ですね。

でもこちらの報告(*4)では、右の背中や肩甲骨下の痛みが症状の胆石胆嚢炎を報告しています。
痛みの特徴として、痛みは一日中続き、特に夕方から夜にかけて激しく悪化するようです。
また悪化した激痛は、通常4〜6時間続き、息を吸うと強まるということのようでした。

確かにただものではない症状ですよね。
このただものではない症状のような「言語化が難しい違和感」というのも、実は大事です。
われわれ医師は、患者さんが診察室に入られるときの第一印象も大事だと教わります。

この第2位まで頻度としては高くないものの、発見が遅れてしまうのは避けたいものばかりでしたね。
そのときに、なんだか普通ではない痛みという言語化できない違和感も医師に伝えてみてください。
この症状の時は第5位でも出てきましたが、消化器内科のうちの肝胆膵という専門領域になります。

ただ同時に、そこまで絞って受診することは難しいですよね。
そのため、開業医さんは〇〇内科というように「いろんな内臓の病気を診ますよ」というスタンスで診療されているところが多いです。
そのようなところに相談してみても良いかと思います。

第1位 筋・筋膜性の痛み

第1位は、圧倒的に可能性が高いという理由で「筋・筋膜性の痛み」です。
背中の痛みのほとんどは、こちらになります。

診断学の基本としては、筋・筋膜性の痛みと診断するのは「除外診断」にて判断します。.

なぜなら、レントゲンを撮っても筋肉や筋膜は写りませんし、MRIを撮っても、筋・筋膜性の痛みの時に異常が出ないことが多いからです。
「この検査所見があれば筋・筋膜性の背中の痛みです」と診断できる検査は、基本的にはありません。

反対に、第5位から第2位の病気は異常が出る検査というものが各々あります。
極論、検査をやり尽くして
「膵臓も大丈夫」
「心臓血管も大丈夫」
「神経も大丈夫」
「胆嚢も大丈夫」
「その他もろもろの内臓も大丈夫・・・」となって
はじめて「筋・筋膜性か」となるわけです。

ふんぞり男「はぁ?背中が痛い時はそんな検査のフルコースになっちまうのか?」

そうですよね。
現実的ではなく、このようなことをやっていたら一瞬で日本の医療費はパンクします。
ですから
「疑うべき症状がないか」
「痛くなったエピソードはどんな感じか」
「診察テストの結果はどうか」など、
ある程度の必要な検査を絞る必要があります。

例えば、心臓・血管であれば「胸の痛みがないか、痛みが突発的ではないか」などが大事なポイントになりますし、神経であれば「デルマトーム」という神経の分布と症状を照らし合わせることもポイントです。

胆嚢なら「お腹の痛みや押してみての痛み」を確認したりしますね。
そのような他の可能性も念頭に入れながら、これは圧倒的に可能性が高い筋・筋膜性の症状だろうと判断すれば、その治療に移るということになります。

自分は自分で守るという意識が必要

ここで大切なポイントがあります。
ほとんどは筋・筋膜性の背中の痛みですから、診断を受けずにいきなり接骨院・整体院などで治療を受けても、問題ないかもしれません。

しかし万が一、第5位から第2位で紹介した特殊な検査や治療が必要だった場合、その正確な診断からの迅速・適切な治療という流れに乗れなくなってしまいます。
そこで、医学的な知識が豊富で勉強を続けておられる治療家さんが
「その症状はまず診断を受けてください」と促してくれることもあるかもしれませんし、そうあるべきだと思うのですが・・そんな治療家さんばかりではありません。
それどころか、内臓の病気すら整体・鍼灸・自分のスキルで治そうとしてしまう治療家さんもおられるので、そういう場合は注意してください。
(治るならいいのですが・・・内臓の病気は治療家さんのところでは治らないと考えるべきです。補助にはなり得ます。)

そして、整形外科も例外ではありません。
整形外科医は医師なので診断する力と権利はありますが、内科的な知識と経験は内科の先生とは段違いです。
そして、このYouTubeのコメント欄でも悲しくなる声が聞こえてきます。
患者さんのお話を聞かない整形外科医が一定数いらっしゃることで、内科的な病気の可能性に気付けない可能性もあります。
ですから患者さんが知識をつけ、自分の身体に意識を巡らせて「相談すべき専門家を選ぶという視点」が、今の日本においてとても大事になると考えています。

医師や専門家を自由に選べるという恵まれた環境とも言えますが、誰を選んでいいか正解がない環境とも言えますので「自分は自分で守るという意識」が必要だと思います。
そのために「健康リテラシー」という健康や医療に対する情報の集め方、選び方が上手になる必要もあります。
そのお役に立ちたい!と強く思い情報発信しておりますので、フォローしていただけますと幸いです。

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参考論文

【*1】 G J Ridder, et al. Scand J Gastroenterol. 1995 Back pain in patients with ductal pancreatic cancer. Its impact on resectability and prognosis after resection 
【*2】 Michael Klompas. JAMA. 2002 Does this patient have an acute thoracic aortic dissection? 
【*3】 Johanna Berg, et al. Gend Med. 2009 Symptoms of a first acute myocardial infarction in women and men 
【*4】 Francesc Bobé-Armant, et al. J Family Med Prim Care. 2014 Cholelithiasis presented as chronic right back pain 

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