ウォーキング習慣が身体に起こす12の変化
「海馬の前の方(脳の記憶を司る部位)のサイズが2%増加するという論文です!」
今回の内容はウォーキングの効果12選がテーマです。
※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
突然ですが・・
数年前からインターネットでの医療系の言葉の検索結果が、病院や学会のホームページばかり表示されるようになったことに気付いていますか。
これは、あまりにも根拠がないニセ医学がインターネット上に溢れてしまったことに対するGoogle社側の対策です。
その根拠がない情報を発信していた人たちの次のフィールドがYouTubeです。
YouTubeは今、ニセ医学と言われても仕方ない根拠のない医学情報が溢れています。
今回のテーマであるウォーキングもその餌食になっています。よく「ウォーキングするより●●しよう!」というように、ウォーキングよりも●●の方を格上げするような動画です。
何かしら根拠を示していれば、視聴する側もそれを基にして判断できます。
しかし、そのような根拠が示された動画は、私が見る限りありません。
まずお伝えしたいのは、根拠として研究論文や医学書などの引用元を示していない情報には慎重になっていただくことをオススメします。
今回のテーマである「ウォーキングが身体に起こす12の変化」は、根拠を示しつつお伝えしますので安心してください。
それではいきましょう!
1.変形性膝関節症の重症化予防
まずは整形外科医らしく、メリットからお伝えします。
こちらの論文(*1)では「1日当たりに歩いた歩数が1000歩増えると、変形性膝関節症の方の歩行に関する機能障害のリスクが17%減る」との研究結果が示されています。
「いやいや!膝の軟骨がすり減っているなら、歩くのはリスクになるんじゃないか?」
と思われるかもしれません。
実は私も、昔は次のように指導していました。
「膝のことだけ考えるなら、ウォーキングもあんまり良くないですよね。歩けば歩くほど膝に体重がかかるわけですから。」
しかし、患者さんからすると
「痩せろと言われて、でも歩くなって・・どうしろと!?」
と思われるアドバイスをしてしまっていたのです。
勉強不足で反省しています。
こちらの論文(*2)でも、ウォーキングやジョギングの体重がかかる運動と膝の軟骨のすり減りの関係は「無さそう」ということです。
もちろん歩くときに膝に痛みが伴う場合には、水中ウォーキングなどの膝に負担が少ない運動を推奨します。
しかし、そうでなければ積極的に歩いてもいいですね。
2.腰痛改善
腰痛は、実はいろんなものが効果ありと言われており、特に運動療法についてエビデンスがあります。
こちらの論文(*3)は、慢性腰痛に対する腰部の安定化と歩行運動の効果です。
ランダム化比較試験において、腰痛には
・柔軟運動
・体幹エクササイズ
・ウォーキング
全て効果ありという結論です。
反対に、慢性腰痛がなかなか良くならないケースとして多いのは
「座っている時間が長い人」になります。
そのため、ウォーキングに効果があるのもうなずけるでしょう。
3.ダイエット効果・体脂肪率減少
こちらの論文(*4)では、集団ウォーキングの健康効果が示されており
多くのメリットが報告されています。
そのうちの1つに
「BMIと体脂肪率が低下した」
というものがあります。
4.心肺機能アップ
心肺機能アップは、肺・呼吸機能の指標として最大酸素摂取量が増えたり、安静にしているときの心拍数が下がるということで示されています。
マラソン選手は心拍数が低いとよく言われますね。
こちらも、先ほどの集団ウォーキングの健康効果の論文(*4)で報告されています。
5.ネガティブ感情が減って、ポジティブ感情が増える
こちらの論文(*5)では、精神的な効果として、ネガティブ感情が減り、ポジティブ感情が増える報告があります。
・抑うつー落胆
・緊張ー不安
・怒りー敵意
・疲労
・混乱
5つのネガティブな要素が減り、
反対に「活力」が上がったという報告です。
特に市街地を歩くより森林地帯を歩くことで効果が高いことがわかっています。
6.うつ病予防
こちらの論文(*6)も、メンタルに好影響を及ぼすレビューです。
その中でも「うつ病予防」が、最もエビデンスがあるとされています。
精神科の医師がウォーキングを推奨することが多いのは、そのような理由もあるのでしょう。
7.認知症予防/脳の働きアップ
こちらの論文(*7)では、120人の高齢者が対象の研究で
「ウォーキングを週3日1時間行うと、記憶や認知機能を司る海馬前部のサイズが2%増加した」としています。
実際に脳の一部が大きくなるとはスゴイですね。
通常は「脳の萎縮」と呼ばれる現象で、加齢と共に海馬はサイズが小さくなっていきます。
この脳の萎縮の1〜2年分に相当するのが、2%なのです。
ここからはウォーキングと長生き・寿命に関わるメリットが出てきます。
8.コレステロール減少
こちらも先ほど出てきた論文(*4)で
「ウォーキングにより総コレステロールも低下した」という結果です。
脂質代謝異常症から動脈硬化、そして心筋梗塞・脳梗塞などの流れをどう防ぐかが、昔からの健康テーマで重要な課題でした。
また、コレステロールと並び重要視されているのが、次で紹介する血圧です。
9.血圧が下がる
同じ論文(*4)ですが「収縮期血圧も拡張期血圧も低下すること」が示されています。
高齢者を対象としているので、もともと血圧が高めの方が対象の話です。
そのため、健常な血圧の方には、さらに下げる効果ではなく、高血圧予防の可能性につながります。
この辺りが重なってくると 、心筋梗塞の予防効果もありそうですね。
10.心筋梗塞などの予防効果
こちらの論文(*8)はウォーキングに限りませんが
「身体活動量として週2000kcal未満になると、心筋梗塞などの冠動脈疾患発症の相対危険度で1.6と、リスクが上がる」としています。
週に2000kcal以上の運動量は毎日1万歩のウォーキングで達成します。
このことから、厚生労働省でも1日1万歩を目標にして歩きましょうと言われているわけです。
11.糖尿病予防効果
糖尿病予防というのも長生きする上でとても気になるポイントだと思います。
こちらの論文(*9)は、40〜84歳の米国医師を5年間経過観察したものです。
少なくとも毎週1回運動する人(汗が出るくらいの強度)と、
それ未満の人(ほとんど運動しない)に対する
糖尿病の相対危険度は0.70だったということです。
この研究では週に1回、汗をかくくらいの運動をするだけで、
糖尿病リスクが下がるという研究です。
しっかりウォーキングして、汗をかけばいいということになりそうです。
12.シンプルに長生き
こちらの論文(*10)では、
「ウォーキングなどの運動を週に60分間だけでも死亡リスクは低下」し
「適度な身体活動を週に10分〜1時間行っている人では、座りがちな生活の人と比べて全死亡リスクは18%低かった」と報告しています。
まとめ|本日のひとこと
「長生きしたければ、ウォーキングを継続しよう」
ここまで紹介したメリットや効果を考えると、継続すれば長生きにも繋がることは、納得ですよね。
ご紹介した12個は、いずれもエビデンスレベルに差はありますが、何らかの研究論文を根拠にお伝えしてきました。
なんとなく効果はあると思ってウォーキングするのと、
科学的に効果ありと思ってするのとでは、効果も継続率も変わってくると思います。
これらのメリットや効果を意識しながら、ウォーキングを始めたり、継続したりしてみてはいかがでしょうか
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参考論文
(*1) Daniel K, et al. Arthritis Care & Research(2014). Daily Walking and the Risk of Incident Functional Limitation in Knee Osteoarthritis: An Observational Study.
(*2) Recreational Physical Activity and Risk of Incident Knee Osteoarthritis: an international meta-analysis of individual participant-level data
(*3) The effect of lumbar stabilization and walking exercises on chronic low back pain: A randomized controlled trial
(*4) Sarah Hanson et al. Br J Sports Med. 2015 Is there evidence that walking groups have health benefits? A systematic review and meta-analysis
(*5)Chorong Song et al. Int J Environ Res Public Health. 2018 Psychological Benefits of Walking through Forest Areas
(*6)Paul Kelly et al. Br J Sports Med. 2018 Walking on sunshine: scoping review of the evidence for walking and mental health
(*7)”Kirk I Erickson et al. Affiliations.Randomized Controlled Trial Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Exercise training increases size of hippocampus and improves memory"
(*8)Paffenbarger RS Jr et al: A natural history of athleticism and cardiovascular health. JAMA 1984
(*9)Manson JE, et al: A prospective study of exercise and incidence of diabetes among US male physicians. JAMA 1992
(*10)Min Zhao et al. Br J Sports Med. 2019 Beneficial associations of low and large doses of leisure time physical activity with all-cause, cardiovascular disease and cancer mortality: a national cohort study of 88,140 US adults
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