見出し画像

【健康寿命の危機】本当にダメなウォーキングとは?【専門医解説】

「マジで寿命を縮めかねないのは1万歩だからじゃないんですよ。」
今回の内容は1万歩ウォーキングのウソ、正しい方法がテーマです。
本当にダメなウォーキングとは?をお届けします。

※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
ときどき出てくる「ふんぞり男」とは、その名の通り、ふんぞり返って態度がデカい患者さんです。


ふんぞり男「お、それ待ってた!最近、ウォーキングやろうと思ったらよぉ、1日1万歩って言うじゃんか」

そうですね、厚生労働省も目安として言ってますもんね。

ふんぞり男「そうなんだよ。と思ったら、おい、YouTube!1万歩じゃ寿命が縮むとか言ってるじゃないかよ、なんなんだよ!」

あ、それ僕じゃないですからね。でも、気持ちはわかります。いざ、ウォーキング頑張ろうと思ったら、寿命が縮まるって、どうしたらいいんだよ!ってなりますよね。ここで大切な結論をまず1つお伝えしたいんですが、マジで寿命を縮めかねないのは1万歩だからじゃないんですよ。

ふんぞり男「え?そうなのか?」

そうなんですよ。
1万歩はキケンとか寿命を縮めるっておっしゃっている人も、その明確な医学的根拠は、僕調べでしかないですが、示してないんですよ。何となくの理屈はおっしゃってますけどね。

ふんぞり男「じゃあ、何がキケンなんだよ、ウォーキングはやっていいのかよ!」

この「ふんぞり男」のようなお悩みをお持ちの方々に対して、ウォーキングのリスクをどう考えていけば良いのか、最新の論文なども含めて検証、解説します。
「一番寿命を縮めかねないのはコレ!」ということも後半にお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

【1万歩ウォーキングのウソのウソ】

「1万歩ウォーキング」は、厚生労働省が日本人の健康増進のために以前から提唱しており、多くの方に浸透している目安かもしれません。
一方で「その1万歩には根拠がないんですよ!」という一言で断罪する人がいます。

このようなお話を聞いた時に、そのことを誰が言ったかを知ることは大事ですが、ご自身でも確認するということも、面倒でもやってみてください。

厚生労働省が言っていることなので「厚生労働省 1万歩」で検索すればすぐ出てきます。

今の時代、検索するスキルは必須です。
さらに、そこで出てきた情報を吟味するスキルが必要なのですが、その話はのちほど。

検索すると、厚生労働省の「健康日本21」のページが出てきます。

その中にしっかりと1万歩を目安とする根拠が提示されています。

それがこちらの論文(*1)です。

こちらの研究は次のことを示しています。
「運動で、週に2000kcal以上を消費する人は、死亡率が1/4-1/3だった」

なかなかのインパクトがある数値ですよね。
この週2000kcalをウォーキングに換算すると、1日1万歩が目安になるという計算式も提示しています。
そのため「1万歩ウォーキングは嘘、体に悪い」とする論調は、何かしらの論理的な反論をしないといけないわけです。
しかし「その1万歩には根拠がないんですよ!」とだけ言う主張には、論理的な反論がありません。
このままでは「1万歩ウォーキングはウソ」という主張がウソになりますよね。

ふんぞり男「なんだ、じゃあ、1万歩でいいんじゃないか、この動画終わり!」

ああ、待って待って。
「本当に1万歩がベストなのか?」ということに疑問を呈しておられる素晴らしい研究を今から紹介しますから。

東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利先生が、ウォーキングに関する多くの著書を書かれています。
僕もいくつか読んで勉強させていただきました。

青柳先生方の研究がすごいのは15年以上の長期に渡り、5000人もの方のウォーキングや運動強度と病気との関係を調査されたってことなんですね。
これだけの人数と期間の研究をされるということは、ものすごいことです。素晴らしすぎます。

青柳先生は、1日の歩数と速歩きくらいの「中強度運動時間と病気予防の関係」を簡略化して示してくださっています。
詳しくは青柳先生の著書などをご覧いただければと思います。

中強度運動時間の目安により、それぞれ以下の予防効果があるという研究結果がでています。

  • 7000歩/15分:がん・動脈硬化・骨粗鬆症

  • 8000歩/20分:高血圧・糖尿病

  • 1万歩/30分:肥満予防を中心としたメタボリックシンドローム

この結果から、病気を予防するという意味ならば、1万歩までは必要ないことになります。

しかし、肥満予防・メタボリックシンドロームの改善に効果があるならば、さらに長期的に見たら健康効果があるかもしれないため、このデータだけで1万歩を否定してはいけません。
大事なのは1万歩に固執することでなく、速歩きなどの「中強度の運動時間を確保することも大切かもしれない」という考え方です。

ただ、残念なことに1万歩は歩きすぎという論調は、本でも書かれていますが、その根拠は研究ではありません。

1万歩を歩いていた人でも、骨粗鬆症で骨折してしまったとか、トライアスロンや有酸素運動もやりすぎれば免疫力が落ちます、みたいな話です。

どんな運動も、やりすぎればそうなりますよね。
しかし、1万歩がやりすぎなのかどうかは、個人によって異なります。

【1万歩は歩きすぎのウソ】

ウソは言いすぎです、ごめんなさい。

でも、さきほど述べたとおり、根拠不足だと思うのです。

僕も調べてみましたが
「歩き過ぎで健康を損なう」ということを研究した論文は見つかりませんでした。

例えば、1万歩で免疫力が低下するみたいな論文があれば、興味深いのですが、多分ないと思います。

もし、ご存じの方がいらっしゃいましたら、教えて下さい。

運動と消費カロリーについては、先程お伝えしたこちらの論文(*1)に次のような続きが掲載されています。

週に2000kcal以上運動する人は死亡率が下がった一方で、消費カロリーが3500kcal以上になってくると、徐々に死亡率が上がってしまう傾向が示されました。

このことから、週に3500kcalっていうのは、統計的な運動のやりすぎになるかもしれないってことですね。
厚生労働省の言うように2000kcalが1万歩に該当するとすれば、3500kcalを超えないようにするには運動強度が弱めなら1万5000歩、速歩きや階段、その他フィットネスなど運動をする人は1万歩でも十分すぎる可能性があるって考え方ができます。

消費カロリーでのエビデンスがある程度出てる以上、歩数だけで語るのは無理があります。

青柳先生が主張されるように運動強度も考えるべきということになりますね。

運動やりすぎっていうことの典型的な状態に、オーバートレーニング症候群というものがあります。
これは運動選手に起こりやすいものなので、歩き過ぎで引き起こされるかは微妙なところです。

しかし、症状自体を把握しておくこと、知っておくことは大切ですし、それに近い症状がある時は「頑張りすぎかな」とブレーキをかけることもできると思いますので、列挙していきますね。

・持続的な筋肉の重さ、硬さ、痛み
・持続的な疲労・倦怠感
・パフォーマンスと維持能力低下
・風邪、頭痛に敏感- 長引く怪我
・睡眠障害
・集中力の低下、落ち着かない
・イライラしやすい
・うつ
・頻脈or徐脈
・食欲不振、体重減少
・便通変化
・月経がない

たくさんありますし、気にし出すとキリがないです。

一応、そういうものがあるとだけ一旦、ご理解ください。

このことから、何よりも疲労をどうコントロールするかが大事だということがわかります。


【朝散歩はキケンはウソ?】

これも実は青柳先生が著書でおっしゃっていることです。
それを読んだ、一部の治療家さんがYouTubeでそのまま解説していることもあります。
しかし、これは研究に基づいた説ではありません。

青柳先生の主張は、朝は脱水傾向があり、自律神経や体温の一般的な状態を考えると運動には適さないということです。
そのため、青柳先生は夕方のウォーキングを推奨しています。

一方で、朝散歩を推奨されているドクターもおられますので、まだ様々な説があると考えるべきでしょう。

ちなみに、何か参考になる研究がないかなぁと探しみたのですが、だいぶ遠い内容ですが、こんな研究(*3)がありました。

18-35歳の突然死してしまった方を調べた研究で、心臓病が72%で、喫煙男性が朝方に起こりやすいということが報告されていました。

もちろん、若い人の突然死自体が非常にレアなケースですし、この論文を基に、朝のウォーキングはダメって言うのは論理が飛躍しすぎています。

しかし、確かに朝が脱水傾向であるのは間違いないですし、そこからすぐに水分摂取したところで脱水が改善するのに時間がかかります。
そのため、朝起きてすぐに強度が高めの運動、早歩き以上のウォーキングは避けた方がいいと思います。

一方で起床後、少しゆったり水分を摂取したり、家を出る準備をしたあとに家を出てから散歩するくらいは、危険性は高くないんじゃないかなぁと思ったりもします。

【キケンなウォーキングとは?】

ふんぞり男「1万歩ウォーキングも朝散歩もキケンじゃないのか?じゃあ、この動画なんなんだよ!」

いやでもですよ、1万歩は歩きすぎ、朝はウォーキングしちゃいけない!って言われて困惑している人にとっては有益な情報だと思いませんか?

「こういうウォーキングはキケンです!」っていう研究があればご提示したいと思ったのですが、残念ながら見つかりませんでした。
ですから、ここでお伝えできるのは、医学的には当たり前だよねっていう範囲のお話です。

先ほどの話に関連して、朝起きたばかりで脱水状態なのに、水も飲まずに、または水を飲んでも完全に補水されていない状態で激しい運動をするのは危険です。
また、ウォーキング中やウォーキング後に膝や腰に痛みを感じても「身体に良いはずだ」と無理をすることもリスクがあります。

オーバートレーニング症候群ほどではなくても、疲れを感じているのに強迫観念で無理をするのはシンプルにリスクしかありません。

逆にそういう常識の範囲内で運用してくだされば、ウォーキングは基本的には良い習慣ではないかなって思いますね。

ふんぞり男「うっわ、平凡な結論を出しやがった、こいつ!」

と言われてもですね、この平凡な結論に至るまでのお話は、しっかりと調べていて、根拠も完全じゃないにしても示しています。
この過程が大事だと思うんですよね。

ふんぞり男「はいはい、わかったわかった」

【一番寿命を縮めかねないのはコレ!】


ふんぞり男「でも、お前なんかより、遥かにすごい研究者が言ってるんだから、あぶねぇって思うじゃねぇかよ」

それは言えますね。
青柳先生みたいにすごい研究をされた先生と比べると僕なんて、真似事レベルの人間です。
だからと言って、素晴らしい先生がおっしゃること全てを真実と信じてしまう姿勢は、僕はキケンだと思っています。

EBMつまり、Evidence based Medicineの基本として、権威の意見はエビデンスレベルが低いモノとされています。
ですから、素晴らしい先生がおっしゃったことでも、その背後にどういう根拠があるのかっていうのは常に注意して見ていかないといけないんです。

厳密にはその背後に論文があれば、それで正しいわけでは全然なくて、そこで論文が根拠としてあれば、誰もがその論文を見て、その意見を吟味できるのです。
判断材料がやっとそこでできるんですね。

でもそれがなく、ただ権威であったり素晴らしい先生がおっしゃっているってだけで鵜呑みにしてしまうのは、危険ですよね。

ここは強調しておかないといけません。
僕もそうですが、医師や研究者が言う意見は無条件で信じてもらわれちゃうこともあるわけです。

僕としても改めて慎重でありたいなと思わせてくれます。
もちろん、青柳先生の著書はご自身の素晴らしい研究を元に、実践的なアドバイスも満載ですから、ぜひ一度お読みいただければと思います。

ちなみに、こんな生真面目な僕が、エビデンスばかりを集めて、ウォーキングのメリットを解説したこちらの動画もぜひぜひご覧ください。

そして、このメリットを解説したこちらの動画と今回の内容を作る過程で、ウォーキングについてめちゃくちゃ調べて出した結論はこちらです。

エビデンスを考えると、1日の運動量をある程度、習慣的に確保することの健康効果が高いです。
そのために歩数計や活動量計を使うことは大切で、その目安が青柳先生のように8000歩、中強度運動が20分というのもわかりやすいですし、もっとざっくりと、1万歩を目指しつつ、その中でちょっとでも早歩きや階段を使うなどの負荷が強めの移動を加えていくと、非常にいいかなと思います。

本日の一言

「ウォーキングリスクの認識は常識の範囲内で十分」ということになります。

🎁動画講座「寝たきりリスク TOP10セミナー」プレゼント

人生100年時代・・・寝たきりの可能性が高まってしまう「恐怖の習慣」をまとめた「寝たきりリスクTOP10セミナー」をプレゼント中です。詳細はこちらから▼

🎁治療家さん向け2大プレゼント

「しがない整形外科医の外来に全国から予約が殺到してしまった情報発信メソッド」

動画セミナー無料プレゼント▼

電子書籍「レッドフラッグ100選」

危険な兆候・症状・疾患を一気に学べる▼

参考論文

(*1)R S Paffenbarger Jr et al. N Engl J Med. 1986 Physical activity, all-cause mortality, and longevity of college alumni

(*2)Overreaching/Overtraining More Is Not Always Better Roy, Brad A. Ph.D. ACSM's Health & Fitness Journal. 2015

(*3)Said Saadi et al. BMC Public Health. 2020 Sudden death in the young adult: a Tunisian autopsy-based series

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?