パラサイトに関する考察まとめ

「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞作品賞を受賞しました!
同賞の受賞はアジア映画初の快挙だそうです。おめでとうございます!

この映画を語るメインキーワードは「半地下」だと思いますが、他にもいくつもの切り口から考察ができそうです。階段、運転手食堂、台湾カステラ、カーセックス。計画と無計画、夢への挫折、そしてパラサイト。カメラワークや台詞回しからも様々な考察ができそうです。これらの観点からのレビューは、また時間のできたときに書ければいいな。

というnoteを投稿したのがもう2週間前になるのに、一向にレビューすることが出来ませんでした。このままでは「筋トレしたいと思っても1日しか続かないんですぅ」と言ってくる一日坊主な会社の後輩を笑えない。一応映画を見てからの一週間は色々な考察が頭の中を駆け巡っていたので、ここでアウトプットしておこうと思ったのですが。が。

検索をかけてみるとすでに多くのレビュー投稿がなされており、何を書いても二番煎じなのではという状況になってしまいました。自分が特に注目してみていたカメラワーク、「上下の構造」に着目したレビューについても、綺麗にまとまっているサイトを見つけてしまったので、ここで取り上げるのはやめました。下に引用したサイトに写真付きの解説がなされています。仕方がないので、忘備録的に着目したポイントについて箇条書きスタイルで書き残しておくことにします。もし今後検索してもヒットしないような項目が現れたら、詳細を書くこともあるかもしれません。

三家族の差を表す描写ー①チャパグリ

チャパグリとは韓国で人気のインスタントラーメン「チャパゲティ」と「ノグリ」とを掛け合わせた料理。ヨンギョがチュンスクに対して7分で作るように命じた料理で、材料は上記ふたつと韓牛(韓国の高級牛)だった。韓牛は金持ちのパク一家、インスタントラーメンはそれぞれ半地下家族のキム一家、完地下に暮らすムングァンとその夫の暗喩では。

三家族の差を表す描写ー②におい

日々の暮らしで体や服に染みこんだにおいは、本人の意思とは無関係に"階級社会"の隔たりを簡単に乗り越え、壁の向こう側に流れこんでいく。それと同時に、心の奥底に押しこめていた差別意識や劣等感をも浮き彫りにしてしまう。急スピードで国際化しても、半地下住宅に住まざるをえないような取り残された人たちのにおいが映画では格差の象徴とされている。

ドンイクの反応に着目。ヨンギョやダヘ、ダソンに対してにおいの言及はしていない。ギテクの匂いに対しては「においが度を越しやがる」と表現。においに対して顔をしかめる場面は見られるものの、我慢ならないにおいではなかったのだろう。ムングァンの夫に対しては思わず鼻をつまんで明らかに不快な表情を浮かべる。完地下のにおいには耐えることが出来なかったのだろう。ギウ他キム家の人々はそのような描写はなく、半地下と完地下のにおいの差は微々たるものなのか。

ギジョンだけが死ぬことについて

ギジョンは「トラブルを未然に防ぐ行動」をとり続けている。
①半地下に消毒剤が巻かれようとしている際「窓を閉めて」
②授業中は母親であっても一切の立ち入りを禁止する
③「地下室の夫婦と話し合うべきではないか」その後料理を運ぼうとする
④ギジョンだけが自らの才能で就職したため、他者の恨みを買うことがない(他3人は誰かしらから職を強奪している)

加えてギウはダソンのことを「金持ちの雰囲気が似合う」と表象している。唯一の失敗は、豪雨の中高台から逃げ帰った際に、計画をギテクに任せ他人本位な行動を取ってしまった点。何れにしてもギジョンが死ななければならなかったことが生の不条理さを一層きわ立てる。

ギテクが足を引っ張り続けることについて

ギテクはギジョンと逆で、様々なトラブルを引き起こす。
①ピザ屋の箱折りの内職は1/4が不良品でブランドイメージが傷つくと指摘される。箱折りは家族4人でやっていたのだから、失敗分は全てギテクのもの

②ムングァンに活動性肺炎の疑惑をかけるシーン。ゴミ箱内のティッシュにチリソースをかけて血に見せかける際、彼は同じゴミ箱の中にソースの袋を捨てた。

③씨발(Fu*k You)の使用。彼はこの言葉をドンイクの送迎中に使用してしまう。同じ言葉をギジョンも何度か使用するが、彼女は自分たちの家族しかいない場面でしか使用していない。

④パク家のテーブルから逃げ出す場面、ギジョンが安全を確認し、ギウとギジョンは素早く逃げ出すが、ギテクはなぜか匍匐前進で抜け出しを試みる。案の定進みは遅く、危うくドンイクやダソンに見つかりそうになる。

⑤豪雨で水没した半地下からの避難を試みる際、まず真っ先に手に取ったのがチュンスクがハンマー投げの大会で過去に獲得したメダル。(これに関してはチュンスクへの愛情の深さととることも出来なくはない)

ギジョンがダソンを手懐けたことについて

ギジョンは「芸術家を気取ったインチキ」(ダヘ談)であるダソンを手なずけることに成功する。ダソンはギジョンの指示に対してお辞儀をして従うなど、全幅の信頼を置いているようだ。過去の美術教師がダソンを「しつけようとした」のに対して、ギジョンはそれをする気が全くなかったことが奏功したのではないか。「計画を立てると人生はその通りにいかない」(ギテク談)のだから、コントロールできないものに対してはコントロールしなければいいのである。カブスカウトの隊長も同様の方針を敷いていたと思われる。故にダソンはインディアンに傾倒している。

あるいはダヘがギウを見初めた(初回授業で手首を握り意識をさせたことが二人の仲が縮まったきっかけであることは間違いない)際と同じように、ギジョンもダソンに対して性的なアプローチを仕掛けたことは否定できない。「授業中は一切の立ち入り禁止」「話をする際は必ず1対1で」といった彼女の言動や、ダソンのお尻に矢が刺さっている点から深読みは可能。

階級を超えて維持されるものー性欲

上流:自宅ソファでのセックス
「右回りが感じる」の表現から夫婦仲の薄まりが想像される。性癖をいまさらアピールする必要があっただろうか。

下層:チュンスクの尻を揉むギテク

最下層:串刺しにされた使用済みのコンドーム

上と下

カメラワーク的な上下については上部のリンクを参照。高台の二階から庭のパーティを見下ろしていたギウは不安そうな顔つきで「僕はここが似合うだろうか」とダヘに漏らす。普段は自分たちが見上げる対象である優雅な上流階級を、目下に見下ろしているという状況に感じる不安の表れか。

映画冒頭でキム一家はWi-Fiを求めて上を見上げ、セックス中のパク夫婦は自分たちの足元のテーブルの下で何が行われているのか気づこうともしない。金持ちは下を見ず、貧乏人は上を見上げるという典型的な作図。

対日本ということ

ギジョンが美術教師ジェシカとして豪邸を尋ねた際、設定を確認するために歌った曲は「독도는 우리땅(独島は我が領土)」

また、ヨンギョがチュンスクに対してパーティに使用するテーブルの並びをレクチャーするシーンでは、「鶴翼の陣」でもって配置を行うよう指示される。この陣形は韓国にとって、1592年に李舜臣が指揮した朝鮮水軍が倭船66隻を沈没させ、水陸併進を挫折させた歴史を思い出させる。言わずもがな、倭とは日本である。

アルコールのステップアップ

半地下で暮らすギテクが飲んでいたものは発泡酒だった。パラサイトを進め、全員の就職が決まった段階になり、一家で飲んだのはサッポロビール。そしてパク一家のキャンプ中に高級住宅に入り込んだ彼らが嗜むものは高級そうな見た目のウイスキー。飲み物の変遷から階級の移り変わりを判断するのも面白い。地下空間と地上とを分ける隠し扉の前には大量の梅シロップが置かれていたが、あれらが表彰するものはなんだろうか。宿題。

ミニョクと石

事件をおこしたのはギテクだが、キッケケを作ったのは間違いなくミニョクだ。彼はダヘを誰にも取られたくないと言いながら、男性であるギウに対して家庭教師の斡旋をする。立場が違うからギウとダヘは恋愛関係にはならないだろうという意図を感じる。自分とギウは同じ階級ではないとみくびっているのだろう。ミニョクが与えた石は、ギウが階級を乗り越える一助となった。ただその石を取り落としたことで彼は死にかけ、石を利用してギウを半死させたムングァンの夫もその使い方を誤りチュンスクに殺された。石を水に戻すことでギウは全てを洗い流そうと判断したはずである。

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