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映画パラサイトと格差社会

韓国映画と聞くと少し身構えてしまうのですが、前年にPalme d'Orを受賞した「万引き家族」が大変自分好みだったことも手伝って劇場に足を運びました。前評判通り、観に行ってよかったとつくづく感じる素晴らしさ。スマートフォンからチケットを購入する際、「6ポイントで1本無料」を選択することもできたのですが、あえてお金を払うことを選択した過去の自分を褒めたい。素晴らしい判断だったぞ!

背景となる韓国の格差社会

半地下で暮らす、全員失業中の貧しい家族。身分を偽り訪れた先は、社長一家が暮らす高台の豪邸。ようやくたどり着いた、理想の就職先。そこは、想像を絶する物語への入り口だった…
全員失業中で、その日暮らしの生活を送る貧しいキム一家。長男ギウは、ひょんなことからIT企業のCEOである超裕福なパク氏の家へ、家庭教師の面接を受けに行くことになる。そして、兄に続き、妹のギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…この相反する2つの家族の出会いは、誰も観たことのない想像を超える悲喜劇へと猛烈に加速していく──。

映画自体について、カメラワークやキーワードという観点から語りたいことは数多くあるのですが、一つの記事にまとめるのはすごく難しい上にそれがおこがましい気すらします。自分でもまだ理解が足りていない部分があるので、その辺りの考察は後日行うとして、今回は映画の背景となった韓国の格差社会について調べてみたいと思います。

반지하

学び始めたばかりの韓国語を記しましたが、これはパンジハと読みます。半地下と同じような音ですね。やはり日本語と韓国語は似ているのか。
その名の通り、半分地上で半分地下の空間のことを指します。ペニーワイズがジョージを引き込んだのは排水溝でしたが、位置取りとしてはあの感じが近いです。日本で半地下というと、上で定義した空間以上でも以下でもない、ただの建築用語でしかありません。実際映画を観る前の私は、半分地上で半分地下とは楽しそうな住宅だと思っていました。しかしそれは韓国に暮らす人々とは大きく乖離した妄想でした。半地下とは韓国国民にとって「持たざる者」を象徴する場所のようです。2015年のデータでは、韓国の全世帯の2パーセントに当たる人々が半地下に暮らしていたとされています。

朝鮮戦争と半地下

そもそも韓国に半地下が多い背景は何なのでしょうか。それは北朝鮮との関係が大いに関係しているようです。1950年に朝鮮戦争が勃発して以降、韓国と北朝鮮との緊張関係は年々エスカレートしていました。時の大統領パク・チョンヒは、北との有事の際に備え、住宅建築時には必ず防空壕としての役割を持つ半地下を設置するよう義務付けました。

かつて避難場所だった半地下は、1970年代以降その役割を変えていきます。著しく経済成長をとげたソウルなどの大都市では、その恩恵にあずかろうと地方からの移民が殺到していました。そのペースがあまりにも早く、住宅地の供給が追いつかない。そこで政府は本来住宅用ではない半地下を、住まいとして利用することを認めたわけです。

半地下という住環境

映画の中で半地下と地上をつなぐ唯一の存在は窓でした。しかし日光をもたらすその窓が同時に様々な害をも連れてくるのです。泥酔した男が窓の近くで立ち小便、それを防ごうと行動を起こすと喧嘩が始まります。清掃業者が道に巻いた消毒剤も、道路を冠水させる大雨も、否応なしに半地下空間に流れ込んできます。あるいは下水の逆流を防ぐため、部屋の天井近くに設置された便器の存在もきになるところ。映画の中では、四人の家族には同じ臭いが染み込んでいるというセリフがありました。IT社長のパク・ドンイクはその臭いを「家の煮洗いした布巾のような臭い」とか「地下鉄の臭い」と表現していましたが、まさしく彼らの住む住環境の劣悪さこそ臭いを染み込ませている元凶なのかもしれません。

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パラサイトをめぐるキーワード

この映画を語るメインキーワードは「半地下」だと思いますが、他にもいくつもの切り口から考察ができそうです。階段、運転手食堂、台湾カステラ、カーセックス。計画と無計画、夢への挫折、そしてパラサイト。カメラワークや台詞回しからも様々な考察ができそうです。これらの観点からのレビューは、また時間のできたときに書ければいいな。

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