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安野光雅さんの旅の絵本〜スキを集めて。vol.3〜

先日、安野光雅美術館に行ってきました。
学芸員さんから、今度の展示は、安野さんが「デンマーク」を旅した際に描かれた「旅の絵本」の原画が飾られるとお聞きして、これは、行きたい!と、足を運んだのでした。

安野さんの絵本との出会いは、
初めて、津和野に来た春のこと。
おすすめしてもらって、訪れた美術館。
安野さんの絵をみた瞬間に、そのユーモアと繊細で淡い色づかいの美しさに心うばわれ、一瞬にして安野さんのファンになりました。
そして、こんなにも素敵な絵を生み出す画家さんが生まれたまちにくらすことができるって、なんてうれしいんだろうと思いました。


思えば、絵本の原画をみるのは、小さいころから好きでした。
いつごろなのか定かではないですが、母がイタリア・ボローニャ国際絵本原画展に連れて行ってくれました。

母が絵本好きだったこともあって、図書館に毎週のように通って、絵本を選ぶことが大好きだったわたしは、原画展で絵をみるのにも夢中になりました。
帰り際に、気に入った絵のマグネットや文房具なんかを買ってもらってうれしかったこともなんとなくですが、覚えています。


安野光雅さんの絵は、観るのが初めて、なはずなのに、初めてな気がしなくて、もしかすると小さいころ手にとっていた絵本の挿絵を描かれていたのかもしれません。

原画を観ていて面白いところは、絵本では気づけないような細かい部分にも気づけることと画家さんの想いが絵からダイレクトに感じられることだと思います。

自分が持っている語彙では、感じたものを表現しきれないのですが、
安野さんの絵を見ていると、思わず、くすりと笑ってしまうときもあって、それは、安野さんらしいユーモアと遊び心を感じるからなのです。
この絵を描かれたときの安野さんの気持ちを想像して、きっと、これは安野さんの読んだひとに気づいてほしいなぁと、そっとしかけなのでは、と思うことがたくさんあります。そんな安野さんの遊び心のセンスが好きです。

たとえば、
こちらの「はじめてであうすうがくの絵本」シリーズ。
算数や数学が大の苦手だったわたしですが、
この本での数の考え方や見方はすごくわかりやすくて、おもしろくて。
もっと、はやくこの本に出会えてたら、わたしの数学に対するイメージも変わっていたかもしれないなと思います。

それから、こちらのことばの本たちも。
よくよくみると、いろんな生き物たちや植物たちが隠れています。
みんなでわいわい探してみるのも楽しい!


元・先生だった安野さん。
こどもたちと楽しみながらともに学ぶ、そんな先生だったのではないかな、と、この絵本シリーズたちから想像します。


さて、今回の企画展だった「旅の絵本」は、安野さんが世界のあちこちを旅して歩き、描かれた本です。
実は、安野さんの絵本のなかで、わたしが1番好きなシリーズ。

安野さん曰く、

違いがあれば同じこともある、人々の暮らしや文化を鳥の目線から書こうと思った

安野光雅美術館展示文より


とのことで、まさに、鳥がみたような、空から眺めた街の風景が描かれています。

文字はなく、絵本の最後に安野さんの解説文があるという形。

絵を観ながら、自然とまちの人々のくらしを想像してしまいます。
すると、まちの人々の暮らしの音が聴こえてくるような。

お祭りのにぎやかさ。

路地に並ぶお店と人々。

木陰で休むひと。

農村の動物たちと働く人たち。...

そこにくらすひとたちの日常が感じられる一枚一枚の絵、その中には、わたしが、今、住んでいるまちや国との「同じ」も「ちがい」もある。

旅することのおもしろさは、そんな、「同じ」や「ちがい」に気づくことなのでは、と思うのです。
それが安野さんの絵本を読んでいると、感じられて、まるで、旅しているような気持ちになれる。

観光地に行くことも楽しいけれど、それ以上にそこにくらす人々の日々の暮らしが垣間見れたり、感じられる旅の方が好きな私にとっては、まさに、好きのツボと重なる絵本なのです。

また、色づかいもとってもすてきで。
安野さんの絵はとてもやさしくてあたたかい印象があるのですが、
近づいてみると、いくつもの色が重なって、自然な色をつくりだしています。
こんな色、どうやったらつくれるんだろう...。
安野さんがみていた景色や色をわたしも絵を通して感じつつも、なんて、すてきなセンスと感性なのだろうとうらやましく思ったりもして。
表現するひととして心から尊敬します。

もうひとつ、安野さんの絵を観ていて気づくのは、細かな表現。
点や線を組み合わせながら、草原や湖が風によって波うつ様子を美しく表現されています。
これもまた、原画で近づいてみるからこそ、感じられること。


「旅をすることは生きること」
生涯旅行を愛したアンデルセンと
旅好きの安野さん
《旅人》という共通点…

安野光雅美術館展示文より

ふたりの時代は違えど、同じ「旅人」をテーマにしている旅の絵本の展示。
そして、アンデルセンが書いた「吟遊詩人」を訳した森鴎外と
その本を愛した安野さんについての展示もありました。

森鴎外も、安野光雅さんの共通点は同じ「津和野」生まれであること。
そして、今、そんな3人の時を超えたふしぎなつながりを、絵を通して感じるわたし。
この展示を見なければ、そんなつながりを感じることはできなかったんだなと思うと、素敵な展示を企画してくださった美術館に感謝。


人と人は、まるで交差するかのように、ふしぎなつながりを描き、出会うことがある。
今、こうして、津和野という町に暮らしていることも、
偶然なようで、そんな交差する人生の一点なのかもしれないな、なんて思ったり。
安野さんにも、森鴎外にも不思議と親近感を感じるのは、時は違えど、津和野というおなじまちでくらしたという共通点があるからなのか…

教科書に出てくるような歴史的人物も、有名な画家も、ひとりの人なんだな、と美術館や記念館で、そのひとの人生のストーリーをパネルで読みながら、感じることがある。
勝手に共感しているだけなのかもだけど、人生というのはどうなるかわからないからおもしろいな、と思う。

さて、わたしのこれからの人生は、どんなひとたちと、どのように交わり、どんなストーリーを描いていくのだろう。

今回、お迎えした3冊。


2022.06.19.

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