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毒牙が抜けた日~親知らず、圧倒的破壊力!!【上】

親知らず。それは、親が子どもの歯が生えてきたのを知らない年頃、大人になってから生えてくると言われる歯。奥歯のまた奥に、本人さえも気づかないうちにこっそり生えては、イヒイヒと成長し続けて歯茎を突き破り、私たちに驚きと憂鬱を与えては楽しんでいる悪趣味な歯。昨年の12月、とうとう私は奴に決闘を申し込んだのでした。

「もうそろそろ、抜いたほうがいいですね」

いつものように歯医者の定期健診を訪れたとき、先生からそのように言われたのです。

「親知らずのところは出血が多いのと、隣の歯が虫歯になる可能性があるので」

来たか!私はごくりと唾を飲み込みました。いつか抜かなくてはいけないと思っていたけれど、ひとまず様子を見てもいいというのなら、様子見ということで……。そんなふうに親知らずの抜歯を逃げて来ていたのも事実。だけど、虫歯になってしまうというなら、さすがに抜かなくてはいけない。虫歯は自分じゃ治せないもんね。

「わ……かりました。12月か年明けなら仕事が空くので、その頃なら大丈夫だと思います」

「そうですか。詩子さんの親知らずは横から生えているので、歯肉を切開することになるんですね。ここじゃ設備がなくてできないので、紹介状を書くので大きな病院で抜いてもらいます。A市の総合病院かM市の大学病院、もしくはH市の大学病院でも」

(そうなの……!?)

大きな病院と聞いて、私は少しびっくりしてしまいました。そして一気に気が重くなりました。

(やだなぁ、大きな病院って待つんだよね。それに人がいっぱいいて、いろんな科目があって……。緊張するしむっちゃ怖いわぁ)

悶々としている私の気持ちとは裏腹に話はどんどん進み、後日、私は紹介状を受け取り、いちばん近いA市の総合病院を予約していました。昨年の12月のこと。

A市の総合病院は、思っていた以上に綺麗でした。そして、それほど混んではいませんでした。受付に紹介状を渡すと、歯科口腔外科を案内され、私はソファに座ってしばらく呼ばれるのを待っていました。

思えば、人生で手術らしい手術をするのは、今回が初めてだったのです。数年前、洗い物をしている最中、包丁で指を切ってしまったときも、血が止まらず泣きべそをかいたけれど、ちょいちょいと縫合した感じで、そのあと普通に仕事に行っていたっけ。だけど今回は、ちょっと違う雰囲気……。

「なかむら詩子さん」

15分と待つこともなく私は呼ばれ、診察室の中に入っていった。

「こんにちは。今回、担当させていただきますAです。よろしくお願いします」

(若っ!)

先生は手術のイメージをひっくり返すほど若くてかわいい女性でした。いや、そうだよなぁ。親知らずを抜くくらいで、ベテランが出てきたりしないよなぁ。若くてかわいらしい先生に、私はむしろ頼りがいを感じて、医者を目指してくれて有難いなぁと感謝すら感じたのでした。

「なかむらさんの親知らずは、いわゆる難症例で、こんなふうに横から生えているので、歯肉を切開しないといけないんですね。切開して、少しずつ歯を砕いて取り出していきます。砕くので少しバキバキ音がしますが、痛かったら麻酔を足していくので、手を上げてくださいね」

「はい、わかりました」

「大丈夫だったら、もう今日……抜いてしまって大丈夫ですよね?」

(あっ、やっぱり?)

というのも私は、もしかしたら今日は説明を聞いて、次回手術しますなーんて展開もあるのかなぁ?と淡い期待を抱いていたのです。そうです。びびっています。

「大丈夫です。お願いしまぁすぅ……」

大丈夫とか言いながら、実はむちゃくちゃドッキンコしておりました。おいおい、来るべきときが来たよ。歯を抜くとか、普通に考えてみたら、すごいことだよね?そういえば、麻酔がない昔の人は、虫歯を抜くのに痛すぎて気絶したっていうぞ?こんなとき、無駄な知識が邪魔をして、私の緊張を煽ってくるのです。

手術の前にレントゲンの話をしましょう。あれ、なんですか?笑っちまいそうで本当にきつかったよ。棒みたいなのを噛ませられ、目の前の持ち手を両手で握り(この時点でボクサーの構えみたいになる)バタンッ!てドアを閉められて……頭の周りを機械がウィ~ンって回転して、レントゲン撮影するんですよね。

(検索したら、嘘だろって思いましたが写真素材あったので、歯のレントゲン写真をご入用の方はぜひこちらからどうぞ↓)

さて、手術開始となりました。まずは麻酔です。右奥歯の歯茎にチゥーっと注射されました。

「一度、うがいをしてください。今、どこか具合が悪いとかありますか?」

さっそく起き上がろうとすると、何だか右側の手足の力が抜けている感じです。

「あの、右側だけ手足が痺れるような力が抜けるような感じがあるのですが、これって大丈夫ですか?」

「力が抜ける?」

先生はちょっと考えたのち、こう言いました。

「多分、緊張だと思います」

そうか、緊張か……。いま先生、緊張だと思いますのあと(苦笑)って付いていたでしょう?ね?そうでしょう?

ふっ、この私が思っていた以上にガクブルだったとは。確かに私はウルトラ繊細さん。手術前の説明で「稀に穴が塞がったあとも違和感が残ることがあります」なんて聞かせれているから、例えそれが1%の可能性だとしても、その1%は自分かもしれない!?ってビビッてしまうのが繊細さんなんだよ……。

それに私は、1%の割合で入っているSSRをRの一発ガチャで引き当てたことある。そうなんだよ。当たるときは当たるんだよぉぉぉぉぉ!!

「それじゃあ、切開していきますね」

「はい、かしこまりました(棒)」

それからはもう祈るしかありませんでした……。

ドクター!おめーを信じるぜ!やっちまってくれ!親知らずをバリバリぎゅんぎゅんされながら、そうして自分を鼓舞することしかできませんでした。

「歯を砕くために圧をかけるので、痛かったら知らせてくださいね」

ぐぐっ!パキッ!

「痛ひ!痛ひ!」

もうね、涙が出ました。私は病院に行って滅多に「痛い」と言わないんです。注射も言わない。整骨院でも言わない。今までの歯の治療でも言ったことありませんでした。それが、いい大人がはっきり「痛い」って叫ぶくらい痛いんです。親知らず、圧倒的破壊力!!

その後、少しずつ麻酔を足して、歯を砕き続けました。

ぐぐっ!パキッ!

「痛ひ!痛ひ!」

2回はこのやり取りをしました。あまりの痛さに、あんなに女神に見えていた先生を殴っちまったりしないだろうか?ハラハラしましたぜ。

そして無事、抜歯手術が終わりました。30分くらいかなぁ?と思っていましたが、1時間かかっていました。終わったあとはぐったり。涙が頬を伝っていました。宝玉のような涙の粒が……☆

今は会計も自動精算機でできるので、手術後も待たずにスムーズに帰ることができました。薬局で痛み止めと抗生剤をもらい、戦いのあとの疲れた心を引きずりながら家に着きました。

(・・・・)

続く!!
次回は2/5(金)です

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