見出し画像

クリスマスプレゼントはMr.ビーン

小学2年生ぐらいだったと思う。
名古屋へ家族旅行に行った際、ホテルの近くにあったLOFTに家族で買い物に行った。

当時日本ではMr.ビーンが流行っていた。
(Mr.ビーンとは、簡単に言い過ぎると、
所謂“イギリス版志村けん”だ)

LOFTでもMr.ビーンのVHS、いわゆるビデオが売られており、店内のテレビでMr.ビーンの宣伝用紹介VTRが流れていた。

その姿は幼い私に衝撃を与えた。

顔、動き、こずるさ…、
そのどれを取ってもバカなのである。

そしてめちゃくちゃ面白い。

元々『チャップリン』や『トムとジェリー』のような表情や動作だけで笑える作品が好きで、図書館の視聴覚室でこれらのレーザーディスクをよく観ていた。

『チャップリン』も動きとして面白いのだけど、どこか機械的というか人間としてのバカっぽさが少ないと幼心に感じていた。

一方、Mr.ビーンはとことんバカ。
それは人間離れした人間味のあるバカ。

例えば、彼女の為にクリスマスに七面鳥を焼こうと支度をするコント。調理中、身につけていた腕時計を鳥の体内に入れてしまう。腕時計を取り出そうと懐中電灯を使って、七面鳥の体内を覗き込むが、のめり込み過ぎて頭が鳥にハマってしまい、七面鳥を覆面マスクのように被ってしまうのだ。

ね、バカでしょ。

この衝撃からMr.ビーンの全8巻のビデオの内、
両親に懇願して1巻を買ってもらった。

この1巻を擦り切れるほど観倒し、そして他の7巻もどうしても観たく、とうとうその年のクリスマス、サンタさんにプレゼントとしてMr.ビーン残り7巻をお願いしたのだ。

クリスマス当日、目が覚めると枕元にはお歳暮のお菓子が入っていたと思われる梱包に残り7巻がびっしりミチミチと詰められて置かれていた。

嬉しさのあまり家族に自慢しまくった。
Mr.ビーン全巻をW杯のトロフィーのように持ち上げ、家中を走り回った。

このことからも分かるように、
Mr.ビーンは私にとって大好きな作品である。
そしてそれだけでなく、バイブルなのだ。

いま大人になって改めて見返してみると、
Mr.ビーンは普段大人が守ろうとする世間体や一般常識からたまにはみ出てしまう瞬間を誇張し過ぎなほど拡大し、時にはブラックに、時にはユーモラスに、そして憎たらしくなり過ぎないように面白おかしく描かれていることが分かる。

社会にいると特に感じる。

仕事や生活で失敗をし、誤魔化したくなる時、取り繕ってしまう時、客観的に見るとこの失敗から全てMr.ビーンのひとコマのように見える。

私はこんな時、心の中のMr.ビーンを放し飼い、自分の尊大さを省み、自分はMr.ビーンなんだと言い聞かす。バカであることを自覚し、笑い、失敗を解決、もしくは解決できなくても折衷できるところを探していく。

ちなみに七面鳥を被ってしまったMr.ビーンは、
彼女にカッコをつけたいからそれを隠そうとバスタオルでシャワーを浴びていたと言って、髪を乾かしているフリをして頭を隠そうとする。
(そしてすぐバレる)


私もこれからも七面鳥を被っていたい。

あと、クリスマスプレゼントにMr.ビーンのビデオを欲しいと言う子どものために、中古ビデオ店をハシゴして探し回ってくれたサンタさんには感謝してもしきれない。

ありがとう。サンタさん。


おわり

いいなと思ったら応援しよう!