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ことばと感情の発達

私は小学校、中学校、高校で教員として勤めていました。
様々な校種の子どもたちと関わる中で、特に小学校の6年間というのは、学校生活の中で一番成長する時期ではないかな…と思っています。
集団生活の中で心も身体もとても大きく成長していきますが、時々友だちとケンカをしてしまったり、怒られてスネてしまったり…ということもあります。
実はこの「ケンカをする」や「スネる」といった行動は、子どもたちのことばや感情の発達にとても大きく関わっています。
どのように関わっているかを、今回はお話ししていきます!

感情の発達過程

感情にも発達過程があります。
図で紹介しているのはブリッジスという方が提唱している感情の発達・分化(分かれ方)の考え方です。
生まれたての赤ちゃんには、興奮・快・不快の感覚だけがあり、例えばお腹が空いて不快を感じ、ミルクを飲んで空腹が満たされると「快の感情」を覚えるといわれています。
初めから怒りや喜びという感情があるわけではないのですね。興奮・快・不快の段階から少しずつ複雑な感情へと分化していきます。
 その分化発達の際にとても重要なことが、他者に感情を受け止められて、言語化される経験なのです。

感情の受け止め(受容)と言語化って?

例を挙げてみましょう。
AくんとBくんが遊んでいました。Aくんがオモチャを使っていたところ、Bくんに取られてしまいました。するとAくんがBくんを叩いてしまい、Bくんが泣いてしまいました…。
結構よくある光景ではないですか?

ここで、他者がAくんとBくんの間に入ります。
多くの場合は親御さんや園・学校の先生になるかと思います。先生で「よくある光景」を見ていきましょう。
先生「Bくん、どうしたの?」
Bくん「Aくんがたたいた!」
先生「Aくん、だめじゃない!」
Aくん「だって、ぼくの使ってたオモチャをBくんが取ったんだもん!」
先生「じゃぁ2人とも悪いね。お互いに『ごめんなさい』しましょう。」
Aくん・Bくん「ごめんなさい。」

…こんな光景、よくありますよね?
でも、これだけでは感情の分化につながりにくいです。
先ほども述べたように、大切なことは他者に感情を受け止められて、言語化される経験です。
もう一度見てみましょう。

先生「Bくん、どうしたの?」
Bくん「Aくんがたたいた!」
先生「そうなんだね。大丈夫?」
Bくん「うん。」
先生「Bくんはたたかれたことがイヤだったのかな。」
Bくん「うん。」
先生「そうか。イヤだったんだね。Aくんはどうしたの?」
Aくん「ぼくが使っていたオモチャをBくんが取ったんだ。」
先生「Aくんはいきなりオモチャを取られてビックリしたのかな。」
Aくん「うん。」
先生「BくんはAくんがオモチャを使っていていいな、と思ったのかな?」
Bくん「うん。ぼくも使いたかった。」
先生「そうか。Aくんがうらやましかったんだね。でも、いきなり取ったらAくんはビックリするよね。そういう時は『ぼくにも貸して』って言ったり、『オモチャはどこにあるの?』って聞いたりしたらいいんだよ。Aくんは人をたたくのではなくて、『使ってたから返して』って言えばよかったね。」

…というな形で仲裁に入った場合はどうでしょう。

いくつか、先生が2人の感情を受け止めた所と感情を言語化した所がありましたね。

先生「Bくん、どうしたの?」
Bくん「Aくんがたたいた!」
先生「そうなんだね。大丈夫?」
Bくん「うん。」
先生「Bくんはたたかれたことがイヤだったのかな。」(感情の言語化)
Bくん「うん。」
先生「そうか。イヤだったんだね。Aくんはどうしたの?」(感情の受容)
Aくん「ぼくが使っていたオモチャをBくんが取ったんだ。」
先生「Aくんはいきなりオモチャを取られて怒ったのかな。」(感情の言語化)
Aくん「うん。」
先生「ビックリしたんだね。(感情の受容)BくんはAくんがオモチャを使っていていいな、と思ったのかな?」(感情の言語化)
Bくん「うん。ぼくも使いたかった。」
先生「そうか。Aくんがうらやましかったんだね。(感情の言語化・受容)でも、いきなり取ったらAくんは怒るよね。(感情の言語化)そういう時は『ぼくにも貸して』って言ったり、『オモチャはどこにあるの?』って聞いたりしたらいいんだよ。Aくんは人をたたくのではなくて、『使ってたから返して』って言えばよかったね。」

このような形で、子どもたちの感情を受け止め、言語化することは感情の発達においてとても大切なのです。
もちろん、まだどんな感情の言葉が当てはまるのかわからないといった子もいますので、その時には「悲しいんだね。」や「悔しいんだね。」など、感情の言葉を返していくことでその子の中に感情を表す言葉が育っていきます。

これらは健聴・難聴問わずとても大切なやりとりです。お子さんの実態に合わせて、感情の需要と言語化をしていってください。

行動のモデルを教える

また、先ほどの2人と先生とのやりとりには、もう一つ感情の発達につながる大きなポイントがあるのです。
何かというと、どんな行動をすれば良いかモデルを教えるということ。
今回の話であれば、この部分にあたります。

そういう時は『ぼくにも貸して』って言ったり、『オモチャはどこにあるの?』って聞いたりしたらいいんだよ。Aくんは人をたたくのではなくて、『使ってたから返して』って言えばよかったね。」

BくんはAくんがおもちゃを使っていたことがうらやましかった。
うらやましいという気持ちを持つことはごく当たり前のことです。
では、自分も使いたいと思った時にどういう行動をすれば良いのか?
黙って横から取るのではなく、どんな行動が望ましいのかを先生は教えていますね。

そして、いきなりおもちゃを取られたAくんは、Bくんに対して怒りの表現を「たたく」という行動で表しました。
これは決して望ましい行動ではないので、他にどんな表現でBくんに自分の気持ちを伝えられるのか、先生は言い方を教えています。

子どもたちは日々、経験の中から学習していますが、どんな行動をすれば良いの?ということがわからず叱られてしまうという場面も少なくありません。
大人が望ましい行動を教え、それができた時に褒める。
褒められると、子どもたちは次に同じような場面があった時に「こうしたら褒めてもらえたな」と思い出して、望ましい行動を自分からできるようになってきます。
ただし、何度も教えて少しずつ行動できるようになってくる子もいます。1回だけで「できなかった」と諦めることなく、根気よく何度も教えてあげてくださいね!



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