NBAプレイヤーと半袖シャツは選手生命が短い
イントロ
渡邊雄太選手のIGライブを観ました。グリズリーズとのプレイヤーオプションを破棄してNBAを今シーズンで引退することと、引退に至るまでの経緯を自分の言葉で伝えるIGライブでした。対岸で起きている出来事としてスタンプラリー気分で流し聞きしていたのですが、思わず共感して作業の手を止めて最後まで観てしまいました。
共感したのは心の折れ方。渡邊選手のIGライブをサマると、もともと用意していた好奇心と危機感それぞれの燃料のうち、好奇心の燃料は早々に枯渇し危機感のみでエンジンを動かしていたけど、ついに危機感も枯れてしまい、これ以上駆動させるとオーバーヒートして二度と動かなくなってしまいそうなので強制的にエンジンを切る意思決定をした、というもの。そして今後は、好奇心が優位な状態でエンジンを駆動できそうな場所(Bリーグ)で活動するとのことでした。
会社員の経験しかない私でも、この類のオーバーワークは抽象化すると身に覚えがあるため「わかるよナビ〜」とついつい共感してしまいました。なるべく好奇心が優位な意思決定の多い生活にしていきたいもんです。
NBAプレイヤーの契約年数平均は4.5年とのことで、改めて選手生命の短さに驚きます。NBAプレイヤーの選手生命と同じくらい短いのが半袖シャツを着られる期間。
他のアイテムが平均5ヶ月なのに対して半袖シャツは3ヶ月程度。短い。
合理的に考えたらコーディネートのロスターに入れる優先順位はかなり低い半袖シャツ。しかし半袖シャツにしか出せないバイブスというものが確実にあり、合理に振り切って半袖シャツを手放すという意思決定がなかなかできません。
このナードなんだけど、どこか清潔感を伴う色気はTシャツには出せないし、
この優等生と凶悪犯のハイブリットみたいな雰囲気はポロシャツには出せません。
半袖シャツを短命な儚いものとして魅力を享受し続ける道もありますが、着られる期間の短さを解決する方法はないものでしょうか。
ゴールイメージ
解決に向けた参考になりそうなアイテムとして、以前LOGIC Storeで扱った商品でこういうものがありました。
袖が取り外しができて、長袖と半袖両方で使える2WAYジャケットでした。
着るとこんな感じ。
この商品自体はポリエステルのジャケットでしたが、コットンベースのシャツでも同じようなギミックにすれば、、
3ヶ月(半袖シャツ)→10ヶ月(半袖シャツ*2WAY)へ、着られる期間が劇的に伸ばせそうです。
上記のようなシャツは例によって市場には存在しない様子。
ということで今回は、半袖シャツ涅槃に辿り着くことを夢見て"理想の半袖シャツ(長袖にもできる)”の製造にチャレンジしてみたいと思います。
リサーチ
要件を決めるにあたって、かつて好んでよく着ていたRED KAPのシャツをベースに方針を考えたいと思います。
REDKAPのシャツのいいところは、カラーリング(特にペトロールブルー)や生地の質感(コットンポリなのでベタっとしない)など様々ありますが、私が特に好きなのはネック。
他のシャツはサイズが大きくなると首周りも過剰に広くなってしまい、一番上のボタンまで留めても下に着ているTシャツが襟から見えてしまうことが多いのですが、RED KAPは首周りの広さと第一ボタンの位置がちょうどよく、ネックが詰まっているPROCLUBの上に着ても首周りが綺麗に収まります。
ただ、改善したい点もある。
まずは着丈。
裾が極端にラウンドしていない点はいいのですが、U.S.企画あるあるの"サイズがデカくなると着丈が異様に長くなってしまう"仕様。90’s FruitOfTheLoomの3XLくらい長い。ここまで長いとだらしなさが際立ってしまう。
そして袖丈と袖幅。
2XLのTシャツの上に着ると裾からTシャツの袖リブが出てしまう。これも美しくない。袖幅も22cmとちょっと物足りない。
そして長袖の袖裾。
袖口がややルーズ。手首で止まらず手の甲まで落ちてしまうのでシルエットがイマイチ。生活するにも邪魔です。
このあたりが気になって2010年代中盤ごろからREDKAPのシャツからは少し距離を置きました。接点といえばLAが舞台の映画でたまに着られている様子を観ては「あこれREDKAP」と早口で独り言をいう程度。つまりほとんど接点なし。
とはいえ、その後デファクトとなるシャツに出会えているわけではないので(そもそも無地のシャツを同型で出し続けてくれているメーカーがそんなにない)、今回は慣れ親しんだREDKAPのシャツをベースに、上述の改善したい点を反映するような方針でリメイクしていきたいと思います。
要件整理
細かい要件を整理していきます。今回のフレームはこんな感じかな。
リメイク元にするREDKAPシャツのサイズは、手に入る中で一番大きいXLとします。ではいきましょう。
着丈
リメイクスウェットと同じように2XLのPROCLUB白Tが5cmくらい出せるように、着丈を65cmに丈詰めします。また、ラウンドした裾からレイヤーの白Tが出てるのは情報量が多すぎて嫌なので、裾の処理は完全なストレートにします。
袖丈
袖丈は、2XLのPROCLUB白T(Washed)が肩幅58+袖丈22の80cmなので、それがカバーできる長さがミニマムマスト。半袖シャツの袖部分を伸ばすのは難しそうなので、長袖シャツを裁断しようと思います。
2XLのPROCLUB白Tは新品の状態だと肩幅58+袖丈25の83cmなので、NoWash状態のTシャツでも袖裾からチョロっと出ることがないように肩幅+袖丈が83cmあると安心です。
ということで、REDKAPのXLサイズの肩幅が53cm程度なので、袖丈が30cmで計83cmになるように袖をカットします。
袖幅
袖幅は理想のTシャツシルエットと同様25cm以上はほしい。REDKAPの半袖シャツは22cmでしたが、長袖シャツは25-26cm程度。奇跡的にちょうどいいサイズなので、長袖シャツを半袖にカットする方針で解決できそうです。ラッキー。
袖2WAYギミック
今回は半袖と長袖の2WAY仕様にするので、半袖の袖口に長袖が脱着できるようなギミックを実装します。
ジッパー式だと脱着が難しいので(NIKE 2WAY Shirtsはジッパーが布に噛んじゃって脱着が難しかった)、ボタン式にします。早く脱着したい。
袖口(長袖ver.)
長袖の袖口は、手の甲までストレートに落ちないように、手首でビタっと止めたい。これもかつてLOGIC Storeで扱った商品で袖口が調整できる商品があったのですが、
この詰まり具合がちょうどよかったので、同じように11-10.5cmくらいまで詰められる仕様にしたいと思います。キュッとしまった袖口と、肘から袖口にかけてテーパードした美しいシルエットを目指します。
まとめ
まとめるとこんな感じ。
これ以上の細部は実装しながら決めていきます。
それでは実装。
実装
完成イメージのシンプルさに対して非常に細かい仕様ですが、今回も宮ちゃんに一肌脱いでいただきました。
上述の要件に加えて、、
ボタン
袖を脱着するボタンは、接続部分が安定する、且つ、腕がボタンで重くなりすぎないようにということで5つにしました。色は生地と同色に。
縫い幅
カットした袖や裾の縫い幅は既存の他の箇所とソロエて2cm幅で返し縫いに。
袖口(長袖ver.)
長袖が手首でピタッととまるように設置した袖口のボタンですが、それだけだと締まりが甘かったため手首にもボタンを設置。これで肘から袖に向かってテーパードが効いたシルエットになるはず。
タグ
前立て最下部の裏生地にはLOGICタグを刺繍。
など細かいチューニングを積み上げて、、ついに完成。
完成
ブラック。フォーマルな感じでシブいです。
そして、
コレコレ〜!ペトロールブルー。ありそうだけどなかなかな見かけない爽やかなカラーです。
リメイク前と着用画像を比べてみると、
清潔感のある丈感になりました。着丈は下に着た白Tが裾からちょうどよい長さで出せる丈に。一方の袖丈は下からTシャツの裾が絶対に出ることがない長さに。どちらも安心できる寸法です。
袖口に関しても
手首でタイトに絞れるようになりました。手首にもボタンを追加したことで、肘から手首にかけてテーパードし、手首にたまった生地がきれいにドレープしています。
肝心の選手生命(着用期間)ですが、、
7-9月はこんな感じで、
10月以降はこんな感じ。
10月だけど今日は長袖だと暑いな、、という日はこういう感じもできます。
街中で着るとこんな感じ。
各丈の寸法のバランスが完璧です。今回も普遍的な美しさを感じるシルエットにできました。宮ちゃんありがとう。
販売
ということで今回リメイクしたREDKAP 2Wayシャツを本日から販売します。
仕入れの都合でブラックとブルー合わせて10着しか作れなかったので気になった方はぜひお早めに。半袖シャツを短命で儚いもののままにさせておきたくないぞというみなさま、ぜひ。
気になる点がある方はお気軽にDMしてくださいね。2万円以上購入いただいた方の送料をこっそり無料に設定しておきましたので、シャツの他にも気になる商品がある方はぜひ合わせて買ってくださいね。完売に伴い送料無料は終了しました。ありがとうございました。(24/7/22追記)
アウトロ
7月に入ってから東京は本当に毎日暑いので、クーラーの効いた部屋に寝転んでお腹の上のMacBookでjpegをたどりながら服を選ぶのがとても幸せな時間です。
機嫌よくフィードを眺めていると突然「ヴィンデージTシャツは文脈を着ろ!」みたいな危機感をやんわり煽る系のコンテンツに出会ってしまい、便利さの代償を味わっています。もっと好奇心を煽るような情報の渦に溺れさせて欲しい。AIがんばってください。
みなさんの中にもアテンションエコノミーはもうお腹いっぱいですという方が一定数存在するはずなので、LOGICがそういう方の受け皿の一つになれるように引き続きがんばります。
このドキュメントを読んでいただいた方の好奇心がブーストされていることを祈って。合掌。
Appendix
実は今もルーツのよくわからんタトゥーで両腕が埋まった細長いモデルが異様にデカいTシャツを着ている謎のアパレルブランドにネット上を追いかけ回されています。タスケテ。。
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