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-能登半島地震に臨むこと(後編)-災害という現実を受け止めること-

 能登半島地震が起きたことを踏また考察を3週に渡って考察します。前編では能登半島地震に対して臨むべきことについて考察しました。中編では能登半島地震での志賀原発を巡る状況についてどう受け止めるべきかについて読者の皆様と一緒に考察しました。後篇の今回は、災害という現実を受け止めることの意味と、災害に対する政策、政治のあり方について述べて参りたいと存じます。


災害という現実を受け止めること

災害の理不尽さを乗り越えること

 前々回の記事でも少し触れましたが、能登半島地震について神罰、仏罰だとか、あるいは神社仏閣にお参りをしたのになどとして、災害の不条理性を神仏に責任転嫁するような言動をしばしば目にしました。また、地球温暖化、気候変動などの問題と併せる形で自然科学による実証性を無視した形で漠然と関連付ける形で感情を吐露する動きもありました。これらの発言を本気で言っている人は少ないのでしょうが、こうした考え方は自分に不都合な状況、苦難が起きたという現実に目を背け、災害時なすべき具体策を軽視するものでしかありません。

 また、災害などが生じた際、しばしば、有名なバトル漫画、スポーツ漫画の類のセリフや俳優、スポーツ選手の言葉を引用する形で被災者への激励、同情の表明がしばしばSNS上で見ます。しかし、これらの言動は、被災の苦しみ、痛みを共有する意図がなく、何等かの実質的な支援を伴うものでない場合には、他人事としての同情論でしかありません。このような態度は時には、災害の被災者にとって、侮辱と感じる人もいることを認識するべきでしょう。

 繰り返しになりますが、私たちが行うべきは、災害という現実を受け止め、災害での苦しみ、被害をどのようにして乗り越え、被災者の方とともに歩むかを考え、実効性のある行動を採るかにあります。ただ、正論めいたことを述べましたが、そんな私自身も、災害や苦難に遭遇したときに動揺するという弱さを抱えている意味では弱い人間でもあります。しかし、だからこそ、一人ひとりが災害や苦難にくじけそうになるという弱さを自覚した上で、お互いに困難に遭遇したときに助け合うという分かち合いの理念を、被災者も被災を受けずに済んだ外部の人たちも共有し、災害の不条理性を克服するためにどのような行動を行うべきかが肝要です。

災害を乗り越えるためになすべきこと

 災害の不条理性を克服するためには、やはり政治の役割が大きいと考えます。災害からの復興、災害への対処をどのように行うべきか、具体的には、防災関係費、とりわけ、住宅、公共施設などの建物、電気、ガス、水道などのライフライン、道路、鉄道、空港、港湾といった交通関係に関する耐震費のほか、被災者の日常生活再開に関する費用、経済活動再開に向けての資金援助に対する融資、助成費にどれだけ配分されるか、またどのような名目で予算が付くのかに注視すべきでしょう。

 予算配分については、不測の事態に備えるための予備費がありますが、政府は能登半島地震を踏まえ、予備費を当初の5000憶円から1兆円に増額し、その増額分は国債で対応する方針です。(※1)しかし、予備費は国会審議を経ずに政府の裁量で支出される予算であり、過去には新型コロナ禍対策に計上された2020年度、2021年度予算のうち内閣府、国土交通省に関連する18事業の約3.7兆円が全額翌年度に繰り越されたほか(※2)、予算の割り当て、使い道が防災対応以外に使われる可能性があるなど不透明な要素が強い予算です。(※3)そのため、財政学が専門の白鴎大学の藤井亮二教授は、今回の能登半島地震において予備費を使う場合には、能登半島地震対応に限定する特定予備費とし、経済活動再開などに必要な支援は国会の審議を必要とする補正予算とするべきと指摘します。(※4)

 能登半島地震発生時の政府の初動体制はどうであったでしょうか。能登半島地震発生直後に山本太郎参議院議員が現地入りしたこと、現地入りをしたことに対するれいわ新選組の姿勢について意見が分かれています。(※5)この件について、れいわ新選組の櫛渕万里共同代表は党首の現地入りを正当化した上で、総理大臣が現地入りをすることをNHKの1月7日の日曜討論で述べています。(※6)

 しかし、現地での受け入れ態勢がまだできていない状況においてVIPである総理大臣が現地入りをすることは、警備の面はもちろん、能登半島地震に対する指揮系統が混乱する可能性があることを踏まえれば、避けるべきでしょう。ケースバイケースではありますが、今回の能登半島地震については総理大臣が最優先に行うべきことは、現地での情報把握に努め、必要な措置命令を関係各所に迅速に出すことにあると考えます。

 ただし、岸田首相の能登半島地震の初動体制については、能登半島の地理的条件を認識していなかったため、対応が遅れたのではないかとの指摘があります。(※7)石川県内部でも金沢市、小松市といった県内の主要箇所から離れている場所にあって、地理的に孤立化しているため、市部やその周辺部での震災対応よりも輸送面や救助隊員の派遣といった点でハンディキャップがあることの指摘がありました。(※8)能登空港は時点では滑走路にひび割れた多数あり、民間機の輸送は1月24日まで使えず、(※9)道路網が寸断されている状況にあります。(※10)こうした点の指摘についても検証は求められるべきでしょう。

 今月26日には通常国会が開かれる予定です。(※11)能登半島地震における政府の復興方針、初動体制のあり方、今回の志賀原発における北陸電力の問題に対する政府の姿勢、各党の政策提言、質問に注視し、国会における審議などを通じて、私たち有権者の側も防災政策にも関心を持つべきでしょう。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

(※1) 東京新聞 2024年1月11日 朝刊 P2

(※2) コロナ対策の予備費、GoToトラベルなど18事業3兆円超繰り越し:朝日新聞デジタル (asahi.com)

(※3) 東京新聞 2024年1月17日 朝刊 P1

(※4) 東京新聞 2024年1月12日 朝刊 P19

(※5) 山本太郎氏「カレーを断る理由はない」被災地で炊き出し勧められ「普段の何万倍もおいしかった」 - 社会写真ニュース : 日刊スポーツ (nikkansports.com)

(※6)

「国会議員が現地に行くのは当然」れいわ櫛渕議員が山本太郎氏能登入りに言及「総理も行くべき」 - 社会 : 日刊スポーツ (nikkansports.com)

(※7) 東京新聞 2024年1月13日 P18~P19

(※8) 自衛隊派遣、増員が容易でない背景 能登半島地震と熊本地震の差 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

(※9) のと里山空港 ~NOTO SATOYAMA AIRPORT~ (noto-airport.jp)

自衛隊機については仮復旧で1月11日より離着陸している状況です。(東京新聞 2024年1月19日 P20)

(※10) (※8)

(※11) 通常国会召集、1月26日が軸 政府、与党が調整:東京新聞 TOKYO Web

通常国会 26日召集の方針決定と政府から連絡 自民幹部 | NHK | 国会 

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