長いオンガクの基本設計図 (後編)【長い音楽(仮) 制作メモ4】
前章はこちら
前章において、実際にどういう方法で実現させるかはともかく、中断や再開が可能な構造にすることで、長くても飽きない音楽にできるのではないかということを考えてきました。
今回はどんな音楽にするのか、更に検討を進めていきたいと思います。
作っているうちに気が変わることもあり得るとは思うのですが、基本的には
A→B→A'→B'→C
このような構造で考えておきたいと思います。
編成について
長い曲になるので、制作の自由度は上がります。ただこの自由というのも良し悪しがあって、無秩序に何でもやってしまうことはおそらくいい結果をもたらさないでしょう。
今回1曲作るにあたって、最低限のルールを一つ設定するとすれば、一体感を持たせるということになると思います。つまり、異質なもの同士を無理につなぎ合わせて1曲と主張することは、特に今回においては避けようということです。
そうなると、例えば最初はピアノで始まって、途中からEDMになり、更にジャズになって最後はオーケストラで終わるというようなことはしない方がいいということになります。
もちろん展開によって出し引きはした方がいいと思いますが、楽器編成もなるべく連続性のあるものにしたほうがいいでしょう。
最初は少ない編成から始まって、楽器が増えたり減ったりして緩急をつける、あるいは最初全楽器を一気に鳴らして、途中で急激に減らすというのもいいかもしれません。
留意するべきこと
長くなれば長くなるほど、焦点が段々ぼやけていくはずです。構造も必ず複雑になり、難しい印象になりがちです。この曲について話す人が(そんな人がいてくれたらいいな)「どんな曲だったっけ?」ってなってはいけない、出来ればすぐに口ずさめる曲にしたいと思います。
やはり覚えやすい、印象に残るということは大事だと思うのです。少なくとも今回はそこに重きを置いて作りたいと思っています。
そうでなければ今回の取り組みにはそれほど意味がありません。
おそらく「この曲を代表するメロディー」というものが非常にわかりやすい形で入ってくることになるかと思います。
そして、どんなに曲が長かろうと、それを強調できる構造にする必要もあります。
第九から学ぶ
すごく長いのに、主要なメロディーはすぐに思い出せて、口ずさむこともできる。そんな曲あるのか…いや、ありました。
ベートーヴェンの交響曲第9番はすべて演奏すると1時間10分強、合唱の入っている第4楽章だけでも25分弱あります。
でも誰でも覚えている箇所となると、「歓喜の歌」の部分だけでしょう。長さにして40秒くらい。このメロディーがストレートに使用されているのは、コントラバス→ヴィオラ→ヴァイオリン→管楽器の4回、ソロ+合唱で2回、そして、合唱で1回。
他にもこのメロディーがアレンジされて使用されている部分はもちろんあるのですが、この7回が「歓喜の歌」の部分だとすると、それは全部合わせても5分弱ほど、この曲のごく一部に過ぎないのです。
実際にはこの曲には歓喜の歌以外にも特筆すべき部分はたくさんあって、「歓喜の歌」の合唱の直後に突如重苦しい雰囲気で始まる"Seid umschlungen, Millionen!"(抱き合おう 何百万もの人々よ)などは、この曲の裏テーマとでも呼ぶべき部分であり、この後にはさらに「歓喜の歌」のと”Seid umschlungen~”がアレンジされて同時に歌われる場面へと移行します。
最後の駆け抜けていくような結末部もスピード感に溢れていて血が沸騰するような感覚を味わえますし、何より曲の冒頭で、第1~第3楽章を思わせるメロディーが出てきてはそれを中断させ、更にバリトンソロに”O Freunde, nicht diese Töne!”(おお友よ このような音ではない)と言わせて、それまでの音楽をすべて否定するという展開は胸が熱くなります。
(ここまで早口オタクの熱弁)
そしてよく聴くとこの曲は”Seid umschlungen, Millionen”がまさにそうであったように、唐突に流れが中断され、次の場面に移行する箇所がいくつも見られます。前後関係がかなり怪しいのに、全部で1曲と認識できています。
もしかして私がやりたいことのほとんどがベートーヴェンによって200年前にやられているのでは…
まとめ
第九の真似をしたいわけではないですが、少なくとも手法的には学べる部分が多くありそうです。
こんなに唐突に場面が移り変わってもちゃんと1曲と認識できていることに、私が構想していることはちゃんと実現できるのではないかと勇気づけられました。
とはいえそもそも、今私の頭の中にあるのは全く第九じゃないんですけどね…
次回くらいには実際に音を聴きながら何をしようか検討するフェーズに移りたいです。
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