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夜霧のような忘却 【超短編】

 日が暮れるにつれて先程まで夏の黒ずんだ山体を木々の合間に覗かせていた浅間の峰からひんやり湿り気を帯びた霧がひたひたとこの山荘の窓辺に降りて来た。彼は暗記する程読み返した彼女からの手紙の束を暖炉に投じながら胸中の未練が紫の夜霧のような忘却に溶け去ることを願った。

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