旅路 【超短編】
旅路を続ける師は同行の弟子に語る。
「同じ仏の名を唱えているように見えるが、一回一回がこれ一回きりなのだ。時はひとときも止まらず変わる。自分も変わる。だから全く同じことなどただの一回だってないのだ」
弟子が問う。
「ではなぜ繰り返すのでしょうか?一回で十分ではないでしょうか?」
「呼びかけがあり、答えがあり、またそれに呼びかけがあり、また答えがある。一回一回、そういうやり取りの中の一回なのだ。おまえは一人きりではないのだ」
「このわたしたちの旅のようなものですね。終わりの日まで繰り返す旅です」
師は無言で合掌する。
二人の旅路は続く。
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