マガジンのカバー画像

超短編

41
スクロールは1回か2回程度の超短編です。
運営しているクリエイター

2022年10月の記事一覧

わけわかめ 【超短編】

わけわかめ 【超短編】

「わかめサラダって、お腹にたまらないわね」
「ぼくは海を思い出せるから好きだな」

「情報かモノかって聞かれたら、モノよ」
「ぼくは情報かな」

「お腹が減ったら夢は見られないわ」
「お腹が減ったから夢を見てるんだよ」

「お腹、減ったね」
「うん、減った」

スタア降臨 【超短編】

スタア降臨 【超短編】

排気筒よりマスクメロンの匂ひを銀座の夜道に噴き出すシボレエの扉を白手袋のドアマンが恭しく開けば黒きエナメルに真珠のバツクルのハイヒイルが斜めに石畳を踏み出しその衆目を集むる脚の銀幕上より一層白きを誇るかと見むや即ち紫紺の夜会服のスタアは車をヒラリと降り立つた。

言わない日課 【超短編】

言わない日課 【超短編】

 彼には他人に言わない日課があった。しがない勤めから重い脚を引き摺るように帰宅するとアパートの郵便受けの前で祈るように目をつぶってからその蓋を開ける儀式。
「必ずクリスマスカードを贈るから待っててね」
 三年前そう言い残して消息を絶った彼女の言葉を彼は今も信じたかった。

旅先 【超短編】

旅先 【超短編】

 彼女が旅先にイタリアを選んだのは、
「ナポリを見て死ね」
という言葉をふと思い出したからだった。冬晴れの空にベスビオ山の見えるナポリ港界隈を小一時間散歩するとすでに旅を続ける気は薄らいだ。
「後は生命力の続く限り生きさえすればよくなったのね」
 彼女は微笑を太陽に向けた。