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2021年6月の記事一覧
龍宮のマリモ 【小説】
第一章
オリガは、地下鉄の月島駅を降りて、肩にチェロのケースを背負い、車輪のついたスーツケースを引きずりながら、三月下旬のまだ肌寒い深夜の道を歩いていた。
彼女はパリでの二年間の留学を終えて、その日の夕方に成田空港に到着し、電車を乗り継いで自宅に帰るところであった。
運河沿いの街区の一画にある、古いモルタル造りの内科医院が彼女の自宅であった。
この内科医院は、オリガの祖父が開業
第一章
オリガは、地下鉄の月島駅を降りて、肩にチェロのケースを背負い、車輪のついたスーツケースを引きずりながら、三月下旬のまだ肌寒い深夜の道を歩いていた。
彼女はパリでの二年間の留学を終えて、その日の夕方に成田空港に到着し、電車を乗り継いで自宅に帰るところであった。
運河沿いの街区の一画にある、古いモルタル造りの内科医院が彼女の自宅であった。
この内科医院は、オリガの祖父が開業