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東大日本史の理論Ⅳ

直前期ということで、過去問や模試過去問について記事を書きたいと思います。

「東大日本史の理論Ⅰ」ではイントロダクションを、「東大日本史の理論Ⅱ」では問題の性質や解き方に関する抽象的な議論を、「東大日本史の理論Ⅲ」では、よくある誤解を持ち出してイメージを浮き彫りにするとともに、通史学習の方法を扱いました。そして先日の「補論」では、論述の注意点について具体的に言及しました。

このように、このシリーズはだんだんと内容を具体的にしてきています。これは最終回です。

模試過去問、昔の過去問

この時期は、「模試過去問か、昔の過去問か、はたまたすでにやった過去問をやり直すべきか」という質問がよく寄せられます。まずはそれについて扱います。

①すでにやった過去問をやり直す

現代文、世界史大論述、日本史は、「一度やったから効果は薄い」というものではなく、解答に至るまでの思考回路が大事である、ということは再三書いている通りです。過去問を使った学習としては、

初期:時間無制限の演習

共通テスト後:時間制限あり、150分(75分)セット演習

という人が多いかと思いますが、ここに、「数年分の過去問を極める」というのを入れて欲しいと思います。

数学の吉原修一郎先生のツイートですが、この二枚目、「極める」「ピカピカの泥団子」という部分は大切です。試験場での思考が重視される科目である以上、思考回路を完璧に押さえた過去問があると、それがブレない軸となって自信をもって解答を書くことができます。試験場では緊張のあまり変なことをしてしまいがちですが、軸がしっかりしているとそのリスクを減らすことができます。

②模試過去問か、昔の過去問か

さて、すでにやった過去問の重要性を再認識したところで、初見問題演習の話に移りましょう。過去問10年分をやったという状態を仮定して、初見問題演習に使えるもの(市販されているもの)は

⑴2010年以前の過去問
⑵東大実戦過去問
⑶東大オープン過去問
⑷東大プレ過去問
⑸『東大日本史問題演習』の予想問題

です。一つ一つ見ていきましょう。

⑴2010年以前の過去問

過去問なので問題の質はもちろん良いわけですが、形式が異なるものがあります。年表が提示されたり、第一問〜第三問で史料が提示されたり、資料が全く無かったり...
もちろん今年の入試が最近の傾向に則るとは限らないわけで、高得点を取るつもりの人はどんどんやってもらって構いません。確実に実力がつきます。
しかし、資料文の使い方がうまく定着していない人は別です。2010年度以前のもののうち資料文形式をとる過去問や、後述する東大プレの過去問などをやったほうがよいでしょう。

⑵東大実戦過去問

最近は良くなったという噂が聞かれますが、自分が持っている2020年(昨年)受験用のものについては、

①資料文の内容を中心に記述するものが少なく、資料文形式の練習にならない。
②小問について。「Aを受けてBを書く」「AとBの分業」も東大日本史を解くにあたっての大事な練習だが、小問1問形式が多い。

といった点が気になります。

解説(特に近現代)は充実しており、役に立ちますが過去問の次段階の初見問題演習教材としてはあまり推奨しません。

⑶東大オープン過去問

「そこ、そのまま解答に使うのか...」「それは問題文に書いてあるから入れなくて良いのでは?」と思ってしまうことが多々あります。資料文形式の問題に関しては、「要約すれば点が来てしまう」という点は否定できません。

しかし、逆に言えば資料文を重視する姿勢は身につくということであり、過去問と方針的には同じです。

このように、資料文を大事にする姿勢は身につく一方で、入れなくていいものもわざわざ書き写して解答に入れたりしているので、演習の際には解答行数を要求から1行くらい短くして解答すると良いと思います。模範解答と方針が同じであれば本番でも通用する実力がついていると考えてよいでしょう。

⑷東大プレ

市販の冠模試の中では、最も良いものだと思います、資料文と解答が適度に離れており、その間を思考力と知識で埋めるという、東大日本史と同じ頭の使い方を要求する問題です。資料文問題の訓練素材として、過去問と並んでおすすめできます。

⑸『東大日本史問題演習』の予想問題

2009年の作ですが、今でも十分役立つちます。東大日本史と同じ頭の使い方が要求されます。東大日本史を解くにあたって大事なキーワードも随所に散りばめられています。ただ絶版となっており、入手しにくいのが難点です。

◯第1問〜第3問と第4問の違い

第1問〜第3問は資料文形式、第4問は自分の知識の比重が大きい大問です。これに関しては、第4問の方は数重視で大丈夫です(もちろん質は軽視して良いわけではありませんが)。先述した「極める」過程では、第1問〜第3問は3回くらいやってほしいですが、第4問は2回くらいで終わらせて、残りの1回は新しい問題に触れてください、というくらいの違いです。

本番の注意事項・心構え

さて、これまで色々と述べてきましたが、結局は本番で良い答案を書かないといけないわけです。ここでは、最近受験を経験した立場から、書いていきたいと思います。

①本番は、練習より時間がかかる

(脅すようで申し訳ないですが、本番でテンパるより事前に知っておいたほうがマシかと思うので書きます。)

現役生はこれが初めての論述試験となる人が多いと思いますが、本番の論述答案を作る恐ろしさと言ったら、練習の比になりません。それゆえ時間がかかります。時間がかかると焦ります。もちろん皆さんも練習の感覚で解けるとは思ってはいないでしょうが、もう少しハードルを上げてください。

日本史は70~75分で解くのが普通ですが、余裕があれば練習での制限時間は60分にしてみましょう。

②解答順序を変えるな

「解答始め」の合図とともにやることは、まず全体構成の確認と最初に解く大問への移動でしょう。確認をしている最中に、「あ、解けそう!」と思う問題があるかもしれません。その場合でも、解答順序は絶対に変えてはいけません。全体のペーズ配分が崩れるばかりでなく、東大日本史の恐ろしい所である、「知識だけでは解けない」にハマると、異常に時間が取られます。特に、「解けそう」と思ってしまった問題は、得点源にしようとするあまり時間をかけすぎてしまいます。

「あ、解けそう!ここから解こう!」
→「あれ、前やった問題と切り口が違う...この資料文何?」
→「やっと解答の大枠ができた...え?30分経過?」

普通にありえます。「あ!解けそう!」と思っても一歩引いて、ピンときたことをメモするだけにしておきましょう。

③下書きはしよう

下書きはしましょう。焦っていると変な文章になります。全然字数が足りなくて、もう少し書けそうという場合、解答用紙に直接書いてしまうと二度手間です。

④煮詰まったら深呼吸して上を見よう

東大の地歴は頭を使います。どこかでつまづいて、頭がパニック状態になることもあると思います。そんなときは問題冊子から離れて、まっさらな気持ちでまた向き直りましょう。東大日本史は、「コロンブスの卵」のような発見が解答の核だったりします。それは問題冊子とにらめっこしても降ってきません。

おわりに

「東大日本史の理論」Ⅰ〜Ⅳ、いかがだったでしょうか。少しでもお役に立てたなら幸いです。2月26日の夕方、晴れやかな顔で駒場キャンパスを後にできますように。そして4月には東大生として駒場キャンパスに戻って来れますように。皆さんの健闘を祈ります!!

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