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ANTCICADAで研修生はじめました。


「昆虫でコース料理?メインも飲み物も昆虫ってこと?それって、どういうこと?」

とあるクラウドファンディングのリターンを見て、最初に出てきた感想。

Twitterで見かけたのか、InstagramかFacebookか。
大学の春休みが強制延長され、暇すぎてひたすらネットを見あさっていた時期に偶然出会ったのだろう…と思われる。
実はどうやってこのクラファンに出会ったのかちゃんと覚えてない。
そのくらい偶然だった。

プロジェクト文を読み進めていくうちに、とんでもなく楽しそうな人たちを見つけてしまった!と、わくわくが止まらなくなった。

リターンを見ていくと既に完売しているものも多数。
面白そうなリターンは色々あるけれど、期末試験&レポート期間で労働は減り、後ろには旅が控えていて、お財布の寒さは見るまでもなく明らかだった。

しばらく脳内財政会議。3分くらい。

それでも抑えきれぬ好奇心と、なにか強く惹かれるものに従うことにして、「ディナーコース1名分」のリターンを選択。

後々「コオロギラーメンという選択肢もあったのにディナー選んだんだ」って言われて、「確かに…!」ってなった。もう食べちゃった後だけど。

当日はかなりワクワクしつつも、ドキドキの方が強かった。

(メインで大きめの虫の丸焼きとか出てくるのかな)

とか、とにかくメインの心配ばっかりしていた笑
一番想像がつかなかったから。

Googleマップを頼りに馬喰町を歩く。
ぜんっぜん見つからない。
あるはずの場所に路地が無い!…と思ったらほっそい道、あった。

この道見つけるまでに街区4周くらいしたし、この道を3往復くらいした。
さらに木の取っ手の扉を開けるまでに5秒くらい固まってた。

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扉を開けて中に入ったら暗めの落ち着いた雰囲気で、オシャレで、棚には未知のものがたくさん置いてあり、また緊張し始める。

一体何が出てくるの…と思って最初に出てきたのはコオロギチップスとコオロギビール。

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正直ここが、緊張が解けたポイントだった気がする。
と同時に、期待感が一気に高まった瞬間でもあった。

ネタとしてとか、いわゆる罰ゲームに使われるような「昆虫食」とは違う、料理の中に必要な食材として位置づけられた昆虫を感じた。

すっごく簡単にその時の心の声を再生すると、

「コオロギチップスうめぇ。」

コオロギチップスとコオロギビールから始まったディナーコース。
次々と昆虫があるべくして使われている素敵なお皿に最高のペアリングが続く。

コースが進むにつれて徐々に気付くというか、気になったというか、「あれ?」と思ったことがあった。

「そもそも料理全般、昆虫食というくくりではないのでは??」

ふわふわのアナゴにザザムシを使ったソースがかかっているとか、セミの幼虫丸ごとってのもあれば、ドキドキしていたメインは鹿肉だった。

最初は料理を食べながらかなりじっとりと意識して昆虫を探していたのだけど、コース中盤くらいから徐々にわざわざ昆虫だけを意識して探さなくなった。

そして、ANTCICADAでの食体験にのめり込んだ。

「昆虫食の店」ってだけだったら私はその1回で行くのをやめていたかもしれない。たぶん、2回目は行ってなかった。でも実際には、ANTCICADAがオープンしてから8か月の間にディナーコース3回、コオロギラーメン営業2回、足を運んでいる。

「昆虫食の何がそんなに良かったのか?」

周りの人にはこう聞かれる。
一言一句同じ言葉ではなくても、こんな感じの意図を持った言葉がだいたい投げられる。

逆、というか、あれだけ昆虫を食材に使っているのに「昆虫食」で括らないし終わらないところが、とても良かったと感じたのだと思う。

ANTCICADAでは、コオロギも、ザザムシも、ゼミの幼虫も、蜂も、ドジョウも、猪も、鹿も、ハーブも、みんな役割は違えど同じ舞台に上がり、しっかりスポットライトを当てられる。

これまで広く食卓にのぼってこなかった食材を多く扱う分、ほとんどすべてにおいて新しい領域での挑戦になっている。
だからこそ、一皿食べるごとに発見があり、食べ終われば余韻に浸りつつ次のお皿にワクワクする。

初回ディナーコースを一人で食べていた時に、「すごく楽しそうに食べるね」と言われたのを覚えている。
自分ではその時気付かなかったけど、傍から見てもわかるくらい楽しんでいたみたいだし、実際めちゃくちゃ楽しかった。

客として通い続けるだけでも正直めちゃくちゃ楽しいお店なのは間違いない。それでもよかったのかもしれない。
一方でお店に行けば行くほど(実は2回目のディナーコースくらいから)、カウンターの中、そしてお店の外(食材調達とかね)を意識するようになっていた。「加わりたいな、関わりたいな」って。

SNSをフォローして、ラーメン営業とかお客さんのつぶやきとかも見ていた。ディナーはずっと満席だったし、コオロギラーメン営業もかなり客数が多くて、徐々に広まって受け入れられているのかなあと感じていた。

とはいえ、未だに私の周りからの認知は「昆虫食」だし、だからこそ流行やトレンドとして流されてしまうのではないかと少し不安にもなった。文化として根付くのだろうか、と。もちろん文化として根付かせることだけが結論とは思っていないけどね。

長野出身の私はイナゴや蜂の子の佃煮、鹿肉やイノシシ肉、コイを食べる文化が身近にあった。東北でも同じような食文化があるらしい。
これはまだあくまで「地域食」としての文化にとどまっている。
そしてここから広げると、次にこうした食材が文化として集まるのは「アジアの地域食」なのではないか。

つまり、日本の一部では文化として食べられている食材があり、それは中国や東南アジア地域でも食べられている、といったような。
まだ「日本」と「世界」では文化として根付いているとは言えなさそう。

ただ、いろんな視点や立場から、これまでスポットライトを浴びていなかった様々な食材に対して目が向き始めているのは感じている。これは日本の中でも、世界的にも。

路上でのライブやショーの、幕開けの瞬間みたいな空気感。
忙しい街中でも、何人かは足を止めてこれから何が始まるのかと興味深そうに覗いている。

ショーが始まる。

足を止めていた人々が息をのみ吸い寄せられるか、ふっと離れて街の喧騒に足早に消えていくのか、ちょうどその瞬間、そんな感覚。

(伝わらなかったらごめんなさい笑)

文化は流行とは違って、ある日いきなり文化として確立するものでもない。ただひたすらに続けていき、引き継いでいくことでしか文化にはならない。究極やり切ることでしかないのかもしれない。そしてそれが次の代へと受け継がれていって、その繰り返しが文化になるのかなあと。

私は偶然長野で生まれて中国の広東省で育っているので、自分の中で食文化として根付いている食材が多めだと思う。それでもANTCICADAで新しい出会いがたくさんあった。

我々が食べている「普通の食事」も、これまでに生きてきた人々や、もしくはもっと広く動物が、時には苦労したり、死んでしまったり、美味しさに驚いたり、工夫したりを積み重ねて「普通」にしてきたものになる。もう「普通」に生きていく分にはこれ以上食材を増やさなくても、人生100年くらいなら食べ飽きずに逃げ勝ちもできるとは思う。

それでも今、これまで注目されてこなかった食材にも少し目が向いている。
まだ自分が知らない領域に一歩ずつ踏み入っていこうとする私のような人間もいる。未来の「普通」を創る人間かもしれないし、ただの物好きかもしれない。

そしてそんな食材との出会いにワクワクすることができるメンバーがいて、これからもきっと増えていく。

篠原さんはいつも言う。

「食は作業ではない、冒険だ。」

これまでにいろんな地域で細く長く育まれてきた食文化も、我々の普通になっている食文化も、そしてこれまでずっと人類が続けてきた「食をより豊かにしようとする姿勢」そのものとしての食文化も、つまらない日常のただの作業ではなく、ワクワクする冒険として楽しめる。

そんな文化を継いでいける、創っていけるのではないだろうか。

ANTCICADAはこれからも食を「発見」し、食でワクワクし、ワクワクさせ続ける場所になるし、そんな場所であり続けると思う。

それって、めちゃくちゃおもしろいのでは?

ということで、「ANTCICADA研修生」として私はコの字型のカウンターを飛び越えた。

よろしくお願い致します!
2021.02.16 深夜のちょっと手前。

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