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ミラベルの花が咲く

窓辺にポツリと白い点が見えた。

ここ数日気温が上がって暖かな陽射しが空気を温めたので、植物の動きは眼を見張る程の激しさだ。針金細工の様な細い枝のミラベルは先日まで雪をかぶって凍りついていたが、太陽がスイッチを入れたらしく、粒の様な芽が膨らみ緑の葉がほどけた。
そして今朝、白い小さな花が一つ咲いていた。
このミラベルは実生で6年目だ。6年前と言えば母と甥が遊びに来た年だ。その年はミラベルの実が豊作で、散歩道で拾い集めた。帰宅して木皿に盛り上げられた黄色くてみずみずしいミラベルの山は絵の様に美しかったけれど、それは彼らの口には合わなかったらしい。「ふうん」と言ってその後手が伸びることはなかった。其のまま鍋に放り込んでコンフィチュールになったが、それも売れず。ともあれ、残った種をいくつか蒔いてみたらどの種も発芽して、鉢の中で小さな林になった。
どうせ、花を咲かせるのは気の遠くなるほど遠い未来なのだろうと、伸びる枝をバシバシ切り戻して盆栽もどきに仕立てた。
そのミラベルの花が咲いたのだった。
もう一度ドイツに遊びに来るつもりだと言っていた母の願いは叶う事がなかった。
こうして色々な物が記憶と結びついている。
よく見れば記憶の糸口はあちらこちらにゆらゆら揺れている。

















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