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足跡

今朝、ふと本棚の中から一冊抜き取ると、それは今は亡き友人の遺品である詩集だった。そうだった、彼女はこの詩人が好きだと言っていた。
パラパラとページをめくっていると鉛筆で薄く文字が書かれているのを見つけた。
消えかけているような文字に目を凝らすと、それは原文のタイトルだった。
他には彼女の書き留めたものは無い。何故その詩のタイトルだけを気に留めていたのだろうか? 
色々と思いを凝らしながら、その詩集を少しだけ読み齧る。彼女がこの作家の言葉に共鳴していた事が、私には今よく理解できる。
ここには彼女がいるからなのだろう、私はこの詩集に潜り込むことはできない。
そこここに散らばる思い出を読み取るたびに亡き人々が蘇る事を知る。

今私に閉じている折り畳まれた空間への扉もやがて開き、私はそこを通り抜けることになる。。
その時、私の足跡を読む人はいるのだろうか?

その一冊の詩集は私の右手にずしりと重い。



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