向こうの彼

三日後に私と会う約束をして、彼は自殺した。
私と彼の関係は、ただバイト先が同じというだけで、深い関係ではない。でも、状況が状況なので気になっている。

もしかすると自殺では無いのかもしれないと思った。なぜなら、よく探偵もののドラマや映画で、自殺だと思われていた人物が死ぬ前に再配達をしていたり、コーヒーを淹れていたりして、実は自殺に見せかけた他殺だった。というのをよく見るからだ。だか、彼の遺体を調べた警察によるとほぼ確実に自殺なのだと言う。

彼が私と会う約束をしたのは二日前の事。
「少し話したい事があるから。」と言って私を誘ってきた。私にはとても自殺するような男には見えなかった。

彼は私に何を話そうとしていたんだろう。
私は告白的なものだろうかと思っていた。そうだったら、私は振る気でいた。それか、思い詰めるほどの大きな悩みを打ち明けようとしていたのかもしれない。そうだったとして、私は彼に死なせないような助言を出来ただろうか。いや、バイト先が同じというだけの彼に「生きろ」と言うのは無責任だ。まずそれ程の関係の私に、そんな事を打ち明けるとは思えない。

なら、なぜ彼は自殺したのだろう。
この二日間に一体何があったのだろうか。人を自殺に追い込むほどの強烈な"何か"なんて滅多にある事ではない。それなら、私と会う約束をする前から、死ぬ事を考えていたのだろうか。生を求める行為の内で終わる事を望んでいたのだろうか。

考えれば考えるほど、謎めいていく。

私はどんな答えがあれば納得するのだろうか。彼が私に何を話していれば、彼がどんな理由で死んでいれば、私は頷く事ができるだろうか。もしかすると、人が死のうとする事に理にかなった訳を求めるのは間違っているのかもしれない。

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