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オンラインで「対話型鑑賞」やってみた アートの探索遠足イベントレポート

オンラインで「対話型鑑賞」のイベントをやってみました。

この企画は、臼井隆志の定期購読マガジン「アートの探索」をご購読いただいている方々と一緒に美術展に足を運び、対話型鑑賞を楽しむゆるいイベントです。毎月第4or第5土曜日に実施を予定しています(が、今回はぼくの都合で3/21(土)の開催とさせていただきました🙇‍♂️)

結論から言えば、オンラインでも対話型鑑賞は十分可能であり、オンラインならではの経験を生み出すこともできます。

ZOOMで作品画像を画面共有し、カーソルで指をさしながら対話することができます。この方法であれば、好きな作品について自由に対話できます。(オンライン対話型鑑賞のコツなどはまた別の記事などでまとめたいと思います)

今回の記事では、コロナウィルスの時代にアート作品について対話する意味や、今回の実践を通じて見つけたファシリテーションのポイントなどをまとめています。

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館へ

今回は、ニューヨークにあるソロモン・R・グッゲンハイム美術館「STORYLINE」展を鑑賞しました。

参加者同士で軽く自己紹介をしてから、ストリートビューで展覧会の様子をザーッとみます。ストリートビューでクリックして移動を伴いながら見てみると、臨場感をもって眺められるのが良い感じです。

その後、カタログをざーっと流し見してもらい、目当ての作品へ。

ライアン・マッギンレー「untitled(Morrissey 16)」

ひとつめの作品には、ライアン・マッギンレーという写真家の「untitled(Morrissey 16)」という写真作品を選びました。

Morrisseyというミュージシャンのライブのワンシーンを撮影したこちらの写真は、陶酔した顔や、何かを求め触れようとするような手の表情と、もやがかかったような作家特有の色使いが印象に残る作品です。

音楽のライブで、Perfumeとか熱狂的なファンがいる光景、見たことある!って感じた
目を閉じてうっとりしたような表情とか、手の動き、目線が気になった

などの意見が出たあと、ぼくから「Morrisseyがどんなアーティストなのか」を情報提供しました。厳格なヴィーガンであり、動物の肉を食べることを”小児性愛”に喩えるなど、印象的な発言を引用してみました。

その後の対話では、「画面を覆う色」と「オーディエンスとアーティスト」の関係の意味の推察へと対話が推移していきます。

アーティストが「陽」で、オーディエンスが「陰」っていう印象があったけど、逆で、オーディエンスの方が明るくて眩しいのなんでなんだろう?
アーティスト側の青い色味が、立体的に感じる。ダークサイドを見るような感じ?
おそらく最前列の観客しか写っておらず、2列め以降は白と黄色の光で見えなくなっているのはなぜ?
多くの観客が熱狂を撮るのではなく最前列の数名にフォーカスを当てることで、かえってその熱狂と陶酔が表現されている?

などと対話が深まっていきます。

美術館で観客が絵画の前に立ち止まる時間は、平均10秒であるという話を聞いたことがあります。この写真に対しても、10秒では「ライブの写真かな」「色味が面白いね」ぐらいの感想で止まってしまうでしょう。

オンラインでも、この作品に30分ほど留まり、表情や色から知覚される印象や、作品の背景について思索をめぐらせる時間を作り出せることがわかりました。


フェリックス・ゴンザレス=トレス「untitled(Golden)」

ふたつめの作品は、オンラインでの対話型鑑賞にはおよそ不向きな作品を選びました。フェリックス・ゴンザレス=トレスの「untitled(Golden)」という作品です。

グッゲンハイム美術館ではありませんが、同じ作品が展示されている映像を見つけたので、ご覧ください。

数十ミリ大の金色の正多面体のビーズをつないで作られたカーテンが、展覧会場に吊るされています。今回のコレクション「STORYLINE」展では、別の階に移動する階段に小さく設置されていました。

この作品が設置された状況を、ストリートビューやflickrにアップされていた画像を用いて説明した後に、この作品から受ける印象について対話してみました。

「くぐる」という動作をすることになる。ある空間から別の空間に移動する。触れた時、カーテンが重いのか軽いのかが気になった。
金色から、インドの宗教施設のような印象を受けたが、なぜ金色なのか?美術作品としてどう位置付けられるのか?
金色といういろんな意味を持ったものを使いつつ、もしかしたら軽いのかも?色の意味の重さと、実際の軽さが対比されていたら面白そう

などと推察が膨らんでいきます。

ここで、ぼくからフェリックス・ゴンザレス=トレスという作家について、他の作品を引き合いに出しながら紹介していきました。

二つの時計、二つのカーテン、二つの枕、二つの輪、など、2つのものを対比的に起き、恋人とのロマンチックな関係を日用品やシンプルな記号を用いて表象した過去作について話をしたのち、ゴンザレス=トレスが同性愛を公言し社会的に活動していたことや、エイズでこの世を去ったことなどを情報提供しました。

その後の対話は、「接触」「感染」「自他の境界」などのテーマへと移行していきます。

「カーテンに触れる」というという体験が、他者との接触やもっと言えば感染を想起させる?
普段目に見えない境界 意識しない中で識別区別差別している。それが目に見える触れられるようにしているという意味での面白さがある
政治的なニュアンスを感じる。感じる作品と感じない作品があるが、この作品からそれを感じるのはなぜなのだろう?

このように対話が深まっていきます。

オンラインでも対話型鑑賞の面白さが引き出せる部分があるが、作品を直接知覚できないもどかしさ、想像し推察するしかない歯がゆさも感じました。

このような対話を行い、1人ずつ感想を共有していただき、この日はイベントをクローズしました。とても楽しかったです!

有料部分では、今回この2つの作品を選んだ意図やファシリテーションしながら気をつけた点を書いてみます。

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