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片手袋に路上園芸、顔ハメ看板……まちには「面白がれる」ものがいくらでも存在している——合同会社 別視点・松澤茂信さんに聞く、〈別視点〉と〈まち〉

「街づくり」はとても複雑なものです。
そこに住む住民はもちろん、商いを営んでいる人、デベロッパー、行政……などさまざまな主体による活動の上に成り立っています。各々の活動はお互いに何らかの影響を与え、結果的にまちという姿で現れます。そう考えると、それらの主体が街づくりを意識することから、本当の街づくりが始まるのではないでしょうか。

片手袋に路上園芸、顔ハメ看板……よく目をこらしてみるとまち中には様々なものを見つけることができます。
そして、それを何年、何十年も収集し続けるマニアの方々も存在します。今回、お話を聞いた合同会社 別視点はそんなマニアの方々の視点を活かした事業を行っています。
代表の松澤さんが「珍スポット」マニアであったことから始まった別視点。松澤さんは、まちの人たちが「自分たちのまちには何もない」と言うような場所であっても、必ず面白がる要素を見つけることができると言います。

「街づくり」と言うと、何か新しい場所やサービスを発明したりしなければならないと考えてしまいますが、まず重要なのは自分たちのまちをどのように「面白がる」ことができるかを見出すことではないでしょうか。
そこで、今回は多くのまちでマニアの方々とのツアーを通してさまざまな「面白がり方」を伝えてきた合同会社 別視点の松澤茂信さんに、「別視点」という視点から、まちや街づくりについてどう感じるか、お話を伺いました。

松澤茂信(まつざわ・しげのぶ)
1982年東京都生まれ。上智大学経済学部卒。国内旅行業務取扱管理者。
2011年より日本中の変わった観光地(珍スポット)を紹介するサイト「東京別視点ガイド」を始める。1,000ヵ所以上巡った珍スポットマニア。
2023年に学芸出版社より『マニア流!まちを楽しむ「別視点」入門』を出版。


「マニアがまちへの『別視点』を提供する」事業をつくるきっかけとなった「珍スポット」との出会い

──最初に合同会社の別視点の事業について教えてください。

「世の中に別視点を増やす」というミッションを掲げ、 イベントやコンテンツ制作、ガイドツアーを通して色々な地域や会社の魅力を別視点から引き出すという事業を行っています。 特に強いのが、体験型のコンテンツですね。
また、『マツコの知らない世界』や『タモリ俱楽部』に出るような色々なマニアの方々に出店してもらって、グッズ等を販売する「マニアフェスタ」というイベントを主催しています。

マニアフェスタの様子。/提供:合同会社 別視点
マニアフェスタの様子。/提供:合同会社 別視点

「マニアフェスタ」は5、6年やっているので、色々なマニアの方々とのコネクションができていて、 そういったマニアの方々がツアーのガイドになることで発想や視点を活かすツアーに繋げているという感じですね。

別視点が手掛けるお散歩ゲーム型イベントの様子。/提供:合同会社 別視点
別視点が手掛けるお散歩ゲーム型イベントの様子。/提供:合同会社 別視点

──別視点の活動は松澤さん自身の活動から始まったとのことですが、その辺りの経緯も教えてください。

もともと、「東京別視点ガイド」というブログを運営していました。そのブログでは、日本各地にある、変な観光地とか変わったサービスのある居酒屋さんのような「珍スポット」と呼ばれてる場所を巡り歩いてレポート記事を書くライターとして活動していたんです。

例えば、 この記事は「珍石館」という、埼玉県の秩父市にある人面に見える石だけを集めている博物館を紹介しています。このおじいさんが、人面に見える石を何十年も集めていて……

人面に見える石が並ぶ。/引用:東京別視点ガイド

──人面に見える石だけをコツコツ集めているんですね……

石を集めている人たちの界隈があるんですよね。石界隈には変わった鉱物を集めたりする方々が多いのですが、 この人は「人の顔に見える石だけ」を集めていたこともあり、石界隈では結構有名になっていて、「顔に見える石があったら送ってあげよう」みたいな感じになってたんですよね。そうして何十年と収集を続けていくうちに何百個もの石を集めることに成功して、 博物館をオープンしたんです。その方がご高齢でお亡くなりになられた後は娘さんが館長を継いでいます。

引用:東京別視点ガイド

そのように、あまり知られてなかったり、ガイドブックに載ってない場所ばかり巡って歩いていたので、オフィシャルに「ここが良いよね」と言われてない場所でも面白い場所があるというのは体感的に分かっていたんです。そうした経験から、やっぱり「現場に行く」のが1番面白いと思い「ツアーをやりたい」という気持ちから会社をつくりました。

最初は、私の「珍スポット」という別視点だけだったんですけど、「マニアフェスタ」をやったりして、色々なマニアの方々と知り合うにつれて、植木鉢を鑑賞し続けているアーティストの方や、道に落ちてる片手袋を何十年撮ってる方など、色々なマニアの方によるツアーも開催するようになっていきました。

マニアの活動には「人生」が現れる

──松澤さんは珍スポットがもともと好きだったのでしょうか?

珍スポットのライターとして活動を始める以前に、『笑点』や『IPPONグランプリ』などで知られている「大喜利」を素人がやる界隈で、何百人とかでトーナメント戦をするという活動を10年ぐらいしていたんですよね。で、珍スポットは「大喜利の回答で出てくるような場所が現実にある」という点が面白くて巡っていたんです。

ですが、ライターとして、あまり人が行かないような場所についてずっと書き続けていると「この仕事に何か意味あるのかな」と疑問に思う時期があったんです。 そういう時に、改めて珍スポットの方々の生き方を考えると、その人たちはまさに私の先輩というか「これやって意味あるのかな」ということを、何十年もやり続けてる人たちばっかりなんですよね。そう考えると、5~10年くらいで、そんなことを言っててはいかんなと思ったんです。

──なるほど。

そういう風に最初はライターとして「題材が面白い」という観点だったんですけど、だんだん私自身の人生とリンクしていって、珍スポットの方々に話を伺うのが面白いのと同時に勇気づけられる面があると気づいてさらに色々な場所を巡るようになっていきました。

──なるほど。確かに珍スポットを運営している方がどういう熱意で運営し続けているかを考えると興味深いですね。

そうなんですよ。熱意と言っても、青い炎と言うか、底冷えするような熱なんですよね(笑)燃えたぎってはないんです。最初は「これが面白いだろう」と熱量があって始める方が多いと思うんですけど、それを30~40年と毎日やり続けてると、引くに引けない要素みたいなところが出てくるみたいです。
その感覚がなんというか、たまらないんですよね。「人生」って感じがして。

インタビューの様子。

──続けたからこそ、本人も想像していないぐらいの面白さが生まれているみたいなことはありそうですね。

それはまさにあります。めちゃくちゃな場所でも、 その人自体がめちゃくちゃ変わっているかというとそうではなくて、ちゃんとした人の方がむしろ多いんですよね。
おそらく、1日1日、1個1個の意思決定は正常な判断力のもとに行われてるんですけど、それが実は一歩一歩ズレていて、気づいたら他人とはとんでもなく違う場所にいるみたいな(笑)

──なるほど(笑)
マニアフェスタはどのような経緯で始められたのでしょうか?

珍スポットで色々な方に出会った経験から、マニアの方は面白い視点を持っている方が多いことは分かっていたので、そういう方を集めたいというところから始まりました。

ある種、マニアの方々は「動く珍スポット」と言うか......。私は、珍スポットを「人間の精神が具現化した場所」として定義付けていて。
第三者に評価されようと思って構築された場所ではなくて、その人の「やりたい」を実現してるから、その人の精神と具体化されたもののリンク度が高いんですよね。マニアの方もそうで、その人がやってきた活動も、その人が考えてきたことや歩んできたことにリンクしてたりするので、近いものを感じたんです。
ライターとして色々なマニアの方々のお話を取材している内にそのことに気づき始めて、マニアフェスタの第一回は声がかけやすい知り合いや友達10数名に声かけて気軽にやり始めたという感じですね。

何気ないものを通してまちやコミュニティが可視化され、関わるきっかけができる

──面白いですね。やっぱりマニアと一口に言っても、対象はぜんぜん違うと思うので、集まった方もそれぞれのマニアが面白いと思って、そういう集まりみたいなものができていくのでしょうか?

そうなんですよ。社内研修的な仕事をやることがあるのですが、その時に「マニアの方々が面白いと思うポイント」と「初めての人が面白いと思うポイント」がかなりずれているんですよね。マニアの方々の視点に寄りすぎると訳わからないことになります(笑)そして、それは色々なマニアの方が似たような領域に達しているんです。

例えば、片手袋マニアの方。
その方は何やってるかというと、片手袋の分類図をつくっているんです。 
どういうことかというと、道に落ちてる片手袋にどういうものが多いかを統計的に分類してるんですけど、 中でも重要となる分類が「放置型」と「介入型」という2つの型らしいです。
「放置型」は落とした人以外誰も触ってない片手袋、「介入型」は、第三者が介入して、 見つけやすいガードレールの上とかに置かれているような片手袋のことを指します。その分類で何が分かるかというと、そのまちの価値観や生活が、分類によって見えてくるらしいんです。

左は松澤さん、右は片手袋マニアの石井公二さん。/提供:合同会社 別視点

特に面白い話があって、 そのマニアの方は仕事柄、築地にすごく行っていて、築地はめちゃめちゃ片手袋の聖地で、落ちまくってるらしいんです。
ただ、築地の片手袋だけ違和感があったみたいで、でも、それが何なのかは分からないまま何年も写真を撮っていたら、ある時「違和感の原因が分かった」と思った瞬間があったらしいです。それが何なのかというと、築地にだけ「介入型の軍手」が存在しているということなんです。

実は、普通のまちの中には「介入型の軍手」はまったくないらしくて、 軍手は放置型でしか存在してない。それがなぜかと言うと、軍手は汚いし、落ちていても誰か困ってるようなものとは思えないから。でも、築地の方々は自分の手に合う軍手をわざわざ探して買っている人たちなので、築地の人たちにとって「軍手はなくして困るもの」だと分かっているから 、介入があるんです。
つまり、「介入型の軍手」を通して、そのエリアにおいての「価値観」が見えるということに気付いて「こういうことだったのか」と思ったそうなんです。

片手袋の方だけではなく、色々なマニアの方々がこういう分類を行って、その人独自の発見をしている場合が多いですね(笑)

街なかにある片手袋を見つけていく石井さん。/提供:合同会社 別視点

──道具を通してまちやコミュニティーの共通言語が可視化されるというのは、確かにすごい面白い視点だなと思いました。それを落ちている軍手から見つけ出すというのはすごいですね。
また、違和感の原因が分からずに数年間撮り続けていたというのもすごいなと思いました(笑)

そうなんです。その方は落ちてる片手袋を見つけたら必ず撮らなきゃいけないというルールにしているみたいです。だから、バスに乗るときはなるべく窓の外を見ないと言っていました。うっかり車窓から見えてしまうと撮りに戻らなきゃいけなくて予定に遅刻するから(笑)

──そこまで徹底されているんですね(笑)
松澤さんが今まで出会ってきたマニアの方の中で、特に印象に残った方はいらっしゃいますか?

まちの中にある「顔ハメ看板」で顔をはめた姿をひたすら撮ってるという方がいて、その方のことは印象に残っていますね。
その方は、見つけたら必ず「自分で顔をはめた状態で撮る」ということをルールにしているんです。また、観光地だと穴が複数個空いてるものもあるのですが「可能な限り全部穴を埋める」というのもポリシーにしているようで、そういう時は通りすがりの方に「一緒に写ってくれませんか」と頼むらしいんです。

──執念がすごいですね(笑)

浅草などに行くと、それこそ6個・8個とか穴が開いてる顔ハメ看板があるんですけど、そういう場合は通りがかりの人に片っ端から声かけて、穴を埋めるそうです。その謎の制約が、本当は生まれなかった人間と人間のコミュニケーションを生み出しているというところがすごい面白いなと思っていて。
つまり、「顔ハメ看板」を通して、まちに関与してるような感覚だと思うんですよね。 なので、そのマニアの方の活動は、私の中で衝撃でしたね。

──顔ハメ看板が一種のコミュニケーション装置になってるなんて考えたこともなかったです。
観光地だと「他の人に写真を撮ってもらう」みたいな、普段の日常だと絶対頼まないようなことを頼まれた人も自然と受け取れるような、不思議な状況が生まれてるんだなというのを今の話を聞いてて思いました。
それが日常の中でも当たり前になったら、 確かに全然知らない人同士でもコミュニケーションがしやすくなるとか、そういうことはもしかしたら起きるのかもしれないなと思いました。

そうなんですよね。だから、我々が重要にしてるのは、やっぱり「ある視点を軸に体験をする」ことだと思っています。
我々の中だけで流行ってたことなのですが、まちの中に銅像やパブリックアートって結構ありますよね。あれって身近にあっても「あるのに見てないもの」の代表格だと思うんですよね。なので、まち歩きをしている時に銅像やパブリックアートを見つけたら「タイトルは何か」とクイズにして皆で考えてから正解を見ると、全然違うタイトルがついてて「なるほど」となるんです。それだけで、自分ごとになるというか、「体験になる」という感覚があるんです。そうするともうビタっと頭の中に残る。忘れないんですよね。

「別視点」は「面白がるハードル」を下げる

──別視点さんが事業として手掛けているツアーに参加するのはどういう方が多いのでしょうか?

ツアーのタイプによって変わるんですけど、 我々が主催するツアーは関東圏の方が参加して、そのエリアに行くというパターンが多いですね。日本だと、青森に泊まりがけで行ったりとか、海外だとタイや台湾でのツアーもありますね。

一方で、移住促進であったり、地域活性化を図るための依頼でツアーやイベントをする時は、まずは地元の方々が参加される場合が多いです。 
というのも、移住促進を図ろうと言っても、何かイベントに参加して移住する人って、やっぱりいないですよね。だから、長い目で見て興味を持ってもらう取り組みにしたいので、地元の方々に地元を面白いと思ってもらうことをファーストステップとしています。

──ツアーを経ると、地元の方々は自分たちが今まで想像してなかった視点みたいなのを見つけるという経験をされる方がほとんどなんですか?

そうですね。正確に言うと、予想もしてなかったというよりも、 その人たちにとっては当たり前すぎて意識してなかったものが面白がられてるみたいな状態ですね。

例えば、鳥取県の淀江町で、普段まち歩きのツアーを行っている団体さんに呼ばれて講師をした時のことです。そのツアーに参加されてる方々は、住民がほとんどでした。
淀江町は「道祖神」が、道中にすごいあるエリアで、ちょっと歩いただけでも、3~40個見かけるんです。そして、道祖神の前には、藁でつくった馬が必ず供えられていて、それはそのエリアに住んでる人たちにとっては、よく見るし、知っているものなのですが、それがなんなのかは、ほとんど誰も知らなかったんです。ところが、 参加者の1人のおばあちゃんが、その藁でつくった馬にすごく詳しくて、色々教えてくれました。どういう謂れがあるか、そのエリアだと、もう3人ぐらいしかつくってないので、形を見ると誰がつくってるかまで分かるそうです。

それは、そのおばあちゃんは当然知ってたことなのですが、その話自体は周りの方にしたことがなかった。おそらくおばあちゃんは「別に面白がるものじゃないから人に話すようなものでもないだろうな」と思っていて、今まで話していなかったと思うんです。それがワークショップをきっかけに話されることで、周りの方がその事実を初めて知って面白がる。

淀江町でのツアーの様子。/提供:合同会社 別視点
賽の神さまにそなえてある藁馬。/引用:東京別視点ガイド

我々の活動は「新しい視点を増やす」という効果も当然あるんですけど、 もう1つは「面白がっていいもののハードルを下げる」という効果もあると思うんです。

世間一般で「美しい、面白い」と言われてるもの以外でも面白がっていいし「美しい」って言っちゃっていいんだと思ってもらえるようにする。
特に片手袋の話をすると、面白がるハードルが下がった状態になるので、それまで通り過ぎていたものの楽しさや面白さを引き出せる面で大きなきっかけになってるのかなと思ってます。

──なるほど。
お話を聞いてて、「まち」や「まちにあるもの」が色々な人や視点を繋げる媒介として役立ってるという印象を持ちました。

まちって色々な側面があるので、 その人にとって良いものも誰かにとっては悪かったりとか、面白さ・快不快がまったく違っていると思うんです。だから、同じ側面からだけ面白がってると「いや、それってうちらにとっては迷惑なんだけど」みたいなのも結構あるんですよね。

例えば、まちの中には段差が結構ありますよね。 それに対して、バリアフリーにしていこうという取り組みがあったとしても、まちの中の段差が必ずしも悪いかというとそうでもない。特に歩道と車道を区切ってる段差は、 車が侵入しづらいようにしているものなので、交通安全にも繋がっている面がある。もちろん段差は誰かにとっての障害なのですが、安全という観点では必要な時もある。そうしたことにも気にかけておいて独善的な面白さを求めてもいけないなとは思っています。

──例えば、商店街だと中には8割方シャッターが降りてしまっているという場所もあると思うのですが、そういう場所で別視点を見つけようとしても、すごく難しいのではないかと思ってしまいます。そのような時はどのように企画されるのでしょうか?

そういう場合に我々がまず取り組むのは、地元の方々を集めて、その場所に根付いてる思い出を聞くことですね。有名な観光地には、歴史上の偉人が戦って亡くなった場所とかそういう歴史が多いと思うんですけど、そうではなくて、どのような場所でも誰かにとっての思い出はすごくあるので、それを引き出すと、割とどこでも面白がれると思うんですよね。
ツアーを楽しむ時も「そこにあるもの自体が楽しい」という人もいるのですが「ストーリーを楽しんでいる人」も結構いると思っていて。

珍スポットだと、サービスや商品自体が変なものだったりするので、それが面白いのは当然のことなので、我々の役割は、ただ場所を訪れて見るだけでは分からない、その場所の、店主さんの人生などの「ストーリー」を伝えることだと考えているんです。それが分かると、すごく楽しいと思ってもらえたり、その場所にまた来たいと思う方が多くなるのです。

──なるほど。そうなると、やっぱりまずは場所を見つめなおすことが重要なんですね。

シャッター街になってしまってるからこそストーリーが生まれてたりすることもあるんですよね。ただ、移住して長く住んでくれる人を増やすことを目的にするのであれば、本質的には地元の方が取り組む必要があると思っています。
「観光地として人を呼ばなきゃ」となると、普通は絶景や新しいサービスのある場所をつくらなきゃ、という方向を向いてしまうと思うのですが、そうではなくて「見たことあるもの」を「面白がる」ところがスタートなのではないかと思っています。

「面白がる」ことの重要性──街づくりについて

──「街づくり」は、ある意味では別視点さんが対象にしているような「その場所で蓄積されてきた風景」を更新する側面があると思います。難しい質問になってしまいますが、こうした「街づくり」という行為に対して、お考えがあれば聞いてみたいです。
例えば、以前スケートボーダーの方にお話を伺った際、私たちは昔からある「スポット(=街中でスケーターが滑る場所)」が開発によって失われることに批判的だと思っていたのですが、まちが変わっていくこと自体は受け入れ、新しくできた場所にまた新しい「スポット」を見出していくというお話が印象的でした。

なるほど。なるべく残したいとか、そういうのは人によって分かれるところではありますよね。私個人としては、開発によって変わっていくこともまた「ひとつの歴史」として捉えてしまっているところはあります。
我々、まちを面白がるマニアの活動って、突き詰めるとまち中に散らばる人間の意図を読み解くことを重要視してるんだと思っています。それでいうと、「街づくり」というのはまさに意図の塊だと思うんですよね。

──確かにそうですね。

「街づくり」は様々な方々の意図が絡み合って、なんらかの形になって実行されることですよね。そこでは「 こう使ってほしい」「こうなってほしい」という、目標があってつくられると思うんですけど、やっぱり人間の生活が絡むと、どうしてもはみ出して活用されていくみたいなところもあると思うんです。私はそういうところが面白いと思っているので、まちがどうなっても楽しめると思います。

路上園芸マニアの村田彩子さんという方がいるのですが、 その方に聞いたお話で、すごい印象深いなと思った話があるんです。

村田さんは、まちの中で、道路や敷地からはみ出て元気に育ってるような植物を観察されているのですが、丸の内みたいな整備されたまちであっても、ちょっとした隙間から雑草が生えているらしいんですよね。
再開発されたエリアって、人間にとっては住みやすいエリアになってると思うんですけど、植物目線になると、すごく住みづらい。ただ、地面の塗装が剥げてしまったり、一部欠けてしまったりするところに、生命力が強い植物が生えていく。それが枯れると土になって、それをもとにまた植物が育っていく。それを積み重ねて植物にとって住みやすい場所を、そのエリアの中につくっていくらしいんです。
それは、人間にとってはあまり良くない状況なのですが、植物にとってはむしろ生活しやすい場所になっていく。しかも、他の植物はほとんどいなくて、その植物の独占状態になるので、楽園みたいな状況になるらしいんですよ。

路上園芸マニアの村田彩子さん。/提供:合同会社 別視点

その話を聞くと、やっぱりどういう状況になってもマニアが楽しむ余地が少しずつ芽生えてくるということですよね。そういうのはやっぱり面白いなと思いますね。
つまり、どんな状況になっても、時間が蓄積していくと、そういう予想もしてなかったことが起きるということで、それはどんなに入念に計画しても多分起きることだと思うんですよね。

──確かに時間が経過していくごとに思いもよらなかった変化が起きるというのはどんな場所でもありそうですね。

村田さんによると、街路樹には、大体3パターンの植物が生えてるらしいです。
1つは計画されて生やされているもの、もう1つは風や鳥など人間以外が運んできた種から勝手に生えてるもので、もう1つは周辺の住民とかが勝手に植えちゃってるもの。
一見すごく計画されたものに見える街路樹ですら、そういう3種類の植物が共生して混在している状態になっている。街路樹だけではなく、まちの中には解像度を上げて見ていくと、計画されてるように見えてそうではない状態になっている場所が色々あると思うんですよね。

──松澤さんや村田さんのようなまちを面白がる方からすると、街づくりに関わる方に向けて、どういう視点を取り入れて欲しいなどのご意見はありますか?

抽象的になってしまうのですが、「参加する余地」が感じられる場所があると良いかなとは思いますね。提供されるだけで関わる余地があまりにもないものってあるじゃないですか。
どうつくればいいのかは分からないのですが、建物ではなくて祭りとかにはそういう要素があると思っていて「参加しがいのあるまち」は面白そうだなと思います。

──なるほど。本日は長い時間ありがとうございました!


松澤さんに紹介していただいたバラエティ溢れるマニアの方々のお話も非常に面白かったですが、それ以上にマニアの方々が何気ない日常の風景から自分なりの面白がり方や発見をしている点は学ぶべき姿勢だと感じました。

日常に慣れきってしまうと、しばしば私たちは見慣れた風景をつまらないと思ってしまいますが、松澤さんの話を聞くと少し視点を変えるだけでも多くの楽しみ方が潜んでいることが分かります。
まちのことを考えるときにまず重要なのは、斬新なアイデアではなく、「面白がる」ことなのではないでしょうか。そういう姿勢を一人ではなく多くの人が持つことで様々な「別視点」が生まれ、そこからはじめてまちの魅力を考えることができる。

また、松澤さんはどんな場所でも面白がれるとおっしゃっていましたが、だから何でも良いというわけではなく、街づくりを考えるときには「参加する余地」について意識しておく必要があるのでしょう。ただ、それも計画するのは難しいものなのかもしれません。ですが、常に「別視点」の意識を持つことで、色々な人が参加するためにはどういう要素が必要なのか、に思いを巡らすことはできるはずです。

今回は一部しか紹介できませんでしたが、松澤さんが執筆された『マニア流!まちを楽しむ「別視点」入門』にはより多くのマニアの方々が紹介されているので、気になった方はぜひ読んでみてください。


聞き手:福田晃司、今中啓太・齊藤達郎(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)
構成・編集:福田晃司
編集補助:小野寺諒朔、春口滉平
デザイン:綱島卓也