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「でぃすとぴにゃ~猫極道二代目の苦悩~」第二話

・カオルの家 放課後
ツヨシ「おじゃまします!」
今日も訓練のためにカオルの家に来たツヨシ。
キイチがこちらをみている。張り付いた笑みを返すツヨシ。
カオル「犬飼くん、ちょっと待っててもらってもいいかな」
ツヨシ「いいけど……それなに?」
カオルの手には一眼レフカメラが握られている。
カオル「ああ、これ……ちょっと撮影があるの」
ツヨシ「撮影?」
カオル「うん。キイチの誕生日動画を撮るの」
カオルはカメラをセッティングすると、冷蔵庫から猫用ケーキを取り出す。
カオル「ハッピバースデー、キイチー」
歌いながらカオルはカメラを回す。
猫ケーキを食べる様子を撮ったカオルはカメラを止め、データを誰かに送っている。
カオル「これでよし」
ツヨシ「まめだな」
カオル「違うの、これキイチのYouTubeチャンネルの動画に使うのよ」
ツヨシ「YouTube!?」
カオル「そう、これ」
カオルのPCをのぞき込んで、ツヨシは驚愕する。
ツヨシ「……チャンネル登録者数100万!?」
カオル「けっこう人気なんだよ。圧倒的猫不足の世の中だから動画で満たそうという人も多いみたい」
ツヨシ「人気ってもんじゃないだろうコレ」
カオル「オリジナルグッズも作っているの。かわいいでしょ!」
物置から出てくるトートバックや缶バッチなどのキイチグッズ。
ツヨシ「すごいね……」
カオル「うん、うちで一番稼いでいるのはキイチだもん。まあ大半を猫保護に寄付してるんだけどね」
ツヨシ「え……そしたら寄付はいらなかったんじゃ」
一瞬真顔になるカオル。
カオル「えーと、それは……。ツヨシくんにも猫の命の重みを分かって貰いたくて」
こほん、と咳払いをするカオル。
カオル「……キイチの母親も兄弟も猫死病で死んだの。それだけじゃない。沢山の猫があの病気で命を失ってる。私はね、ワクチンを完成させて猫の命と健康を守って猫飼いさんの笑顔を守りたい」
ツヨシ「そっか……ごめんな」
カオル「ううん! それより、今日も特訓するよ!」
カオルはストップウォッチを手に立ち上がる。
そして「チキチキ! キイチといっしょにいられるかな? 耐久レース」がはじまる。
ツヨシ「あのお、これは……?」
カオル「まず、同じ空間に猫がいることに馴れたらいいと思って。犬飼くんはできるだけキイチがいても平静を保ってね」
まずは一分。クリアするツヨシ。
五分。そわそわするツヨシ。
十分。キイチが近くで鳴いたことにびっくりしてしまうツヨシ。
ツヨシ「あああ~、怖い……動くのが怖い……!」
カオル「そら動くわよ猫だもん」
キイチ「にゃあーん」
そうだそうだ、と言いたげなキイチ。
カオル「じゃあ少し荒療治しましょうか……」
カオルの手には手錠。後ろ手に拘束されるツヨシ。
カオル「行くわよ!」
床に転がされたツヨシ。その周りをねこじゃらしでカオルはキイチと遊ぶ。
華麗なじゃらしさばきで飛び回るツヨシ。
ツヨシ「んなああああああ!」
絶叫し、魚のように跳ねるツヨシ。
そしてそれを見てひたすらカオルは楽しそうにしていた。

・道路 夕方
ツヨシ「はあ……ひどい目にあった」
カオルの家からの帰り道、がっくりと肩を落とし疲れ果てた様子のツヨシ。
しかし、ピタリと足を止めニヤリと笑う。
ツヨシ「しかしいいことを聞いたぞ」
途端に足取りを軽くしながら、ツヨシは帰宅した。

・ツヨシの家 夜
ツヨシ「なあ、ちょっと相談があるんだけど」
若頭「なんですぼっちゃん」
ツヨシは若頭に耳打ちをする。
若頭「なんと……!」
ツヨシ「ナイスアイディアだろ」
ツヨシと若頭は顔を見合わせ、黒い笑みを浮かべる。

・ツヨシの家 昼間
数日後、ツヨシの小遣いで撮影機材をそろえた犬飼組。
ツヨシはにやにやしながらセッティングする組員を見ている。
若頭「さすがぼっちゃん。私みたいなオッサンにはこんなの思いつかないですわ」
ツヨシ「はっはっは……うちの猫のYouTubeチャンネルでひともうけだぜ!」
若頭「おもち! おはぎ! しっかり頼むぞ」
犬飼組の猫、おもちとおはぎがスタンバイしている。
若頭「あれっ、いつもみたいに騒がないですね。ぼっちゃん」
ツヨシ「ふふふ……」
ツヨシ(これは……地獄の特訓の成果が現れているのでは?)
おもち・おはぎ「にゃーん」
ツヨシ「ぎゃあああ!」
若頭「気のせいでした」
ツヨシ「ごほん、さ……さあ撮影するぞ」
若頭「わかりました」
おもちとおはぎの撮影がはじまる。
おもち「にゃあん」
おはぎ「うにゃん」
かわいい猫のじゃれあいにほわぁんとなる組員たち。
その横で、少し距離をとるツヨシ。
しばらくわいわいとしながら撮影が続いた。
組員「はい、撮影終了でーす」
若頭「おつかれさん。さ、あとは編集ですな! ぼっちゃん頼みましたぞ」
ツヨシ「えっ!?」
若頭「わしらはこういうのはよくわかりませんので」
ツヨシ「えええ」
撮影データを渡され、途方にくれるツヨシ。
ツヨシ(やるしかないのか)
PCの前に陣取るツヨシ。編集ソフトに悪戦苦闘している間にとっぷりと日がくれていく。

・ツヨシの部屋 早朝
ツヨシ「で……できた……」
ぼろぼろになったツヨシ。
PC画面にはいかにもありそうなサムネが表示されている。
ツヨシ「とにかくこれで一攫千金だ!!!!」

・カオルの家 放課後
全身拘束され、キイチにじゃれつかれているツヨシ。普段なら悲鳴をあげているところだが、ずっとため息をついている。
カオル「すごいわ! 猫に馴れてきたのね」
ツヨシ(それどころじゃないんだよおお)
カオル「少し休憩しましょう」
ツヨシ「はあ……」
カオル「なんか元気ない?」
ツヨシ「あ……いや……」
ツヨシ(言えねぇ……まねっこしてYouTubeチャンネルを開設したけど、さっぱり閲覧が伸びないなんて……)
小遣いを投資した分をどうしようかともんもんとするツヨシ。
カオル「あ、そうそう。犬飼くん。動物YouTuberになるなら編集に愛がなくちゃだめよ」
ツヨシ「!?」
カオル「ふふふ……駄目よツヨシくん。バックに代紋が映ってたわ……」
ツヨシ「あああああ!」
カオル「いいのよ。やはり愛のこもった編集がやはり不可欠よ。その為には……」
にやっと笑うカオル。
カオル「特訓、がんばりましょうね」
ツヨシ「ひいいいい!」

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