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「でぃすとぴにゃ~猫極道二代目の苦悩~」第三話

・繁華街 夜
週末の繁華街。賑わう大通りが一本裏の通り。
立ちんぼ「おにいさーん」
サラリーマン「ああ、けっこうです」
立ちんぼ「なんだいけち!」
女性を振り払い、サラリーマンは一目散にぼろい雑居ビルの二階にあがる。
チンピラ「おにいさん、一人」
サラリーマン「ああ」
チンピラ「あんたも好きだな」
サラリーマン「は……早く」
一万円札をチンピラに握らせるサラリーマン。
チンピラはあごをくいっとして部屋を示す。
チンピラ「奥の18番ブースだ」
だっと駆け出すサラリーマン。仕切りとカーテンで区切られたそこに入ると、クッションの上にお腹を出した猫がいる。
サラリーマン「はぁっ、はぁっ」
サラリーマンはそのもふ腹に鼻先を埋めてくんかくんかする。
サラリーマン「んはぁ……ストレスが溶けていく……すーはーすーはー」
血走った目で猫吸いをするサラリーマン。
彼は軽い気持ちで猫吸いを始めてから、毎週末ここに通い詰めているのだった。
チンピラ「へへへ……ぼろい商売だぜ」

・地下猫カフェ 昼
主婦「はぁはぁ……ネコチャン……ネコチャン」
息を荒げながら地下猫カフェに行く主婦。
店員「いらっしゃいませ」
主婦「二時間で……」
よろけながら入店する主婦。
寛いでいる猫たちをみてにやける。
主婦「ネコチャン……カワイイ……ファンタスティック」
主婦は寝ている猫をなでなでする。
店員「おやつたいむでーす。ちゅ~○は一個500円で~す」
主婦「買う! 買います!」
何本もちゅ~○を買い求め、恍惚の表情を浮かべる主婦。
主婦の脳裏に、理解のない旦那、言うことを聞かない子供、そりの遭わない姑などの顔が思い浮かぶ。
猫「にゃあああん」
主婦「はぁい♡ おやつですよ♡♡」
猫「うにぁあああん」
主婦「うう……家事をしないといけないのに……やめられない……」

・TV画面 夕方
アナウンサー「猫死病に多くの猫の命が失われてから、繁華街を中心に多くの反社会的組織による通称・裏猫ビジネスが流行し、社会問題となっています。猫を失った一般人の心の寂しさにつけこむこのビジネス。取材してみました」
モザイクで顔を隠した裏猫ビジネス被害者「いや~いけないってわかってるんですが~猫には変えられないっていうか」
別の被害者「ネコチャン……カワイイ……」
アナウンサー「安易な気持ちで裏猫ビジネスを利用することは、反社の資金源ともなりますし、そこきっかけに犯罪に巻き込まれる危険性もあります。ぜったいに裏猫ビジネスは利用しないでください」

・犬飼組 夜
若頭「ふっふっふ、組長! 今月の上納金もウハウハです!」
組長「がはははは! こりゃあ笑いがとまらんぞ!」
上納金を前に高笑いをする組長と若頭。
組長「もっと猫ビジネスをひろげるぞ」

・カオルの家 放課後
カオル「さあ今日も特訓よ」
ツヨシ「あ、今日はお土産があるんだ」
カオル「何?」
ツヨシ「うち、高級猫グッズの製造販売もはじめたんだけど。これ新製品なんだ。けっこううちの猫たちの評判もよくて」
ツヨシが取りだしたのは猫じゃらし。
つやつやの羽がついている。
カオル「すごい立派。ありがとう」
受け取ったあと、少し複雑な顔をするカオル。
ツヨシ「どうしたの」
カオル「いや……犬飼くんちが暴力団じゃなかったら素直によろこぶのにって思っただけ」
ツヨシ「それはなんかごめん」
カオル「うん、猫の心配もあるけど犬飼くんも心配なの。昨日テレビで裏猫ビジネスについて特集をやってたわ。NPOの偉い人も言ってた。今は取り締まれる法律がないけれど、規制法の検討もはじまったって。成立したら組も危ないんじゃない」
ツヨシ「そうだな……うちは猫ビジネスの割合がどんどん増えているから」
カオル「そうだ! ねぇ、ヤクザなんてやめてまっとうな猫ビジネスだけをやればいいんじゃない?」
ツヨシ「うーん、そうだな……」
とはいえ極道は漢の世界。すべてを猫ちゃんに捧げる生き方をできるだろうか、とツヨシは首を傾げる。
カオル「私は猫にも、ヤクザにも幸せになって欲しいよ」
ツヨシ「井上さん……」
じっと見つめ合う二人。
そのことに気づいたカオルは恥ずかしそうにして猫じゃらしを手にする。
カオル「これ、ありがと! じゃあ私のじゃらしさばき見せちゃう」
ツヨシ「あ、ああ」
華麗なじゃらしさばきを披露するカオル。
それにダンスをするようにじゃらされるキイチ。
キイチ「にゃああああん! うぎゃあああん!」
とても楽しそうなキイチ。
カオル「犬飼くんもやってみる?」
ツヨシ「俺は……」
断ろうとして、ツヨシは思い直しねこじゃらしを手にする。
ツヨシ「よし! 来い! キイチ」
キイチ「うなああん!」
ツヨシ「ふあああああ!」
いざやってみるとキイチが怖くてめちゃくちゃに猫じゃらしを振り回すツヨシ。
キイチ「うにゃにゃん!」
見ているだけでじゃれつかないキイチ。
カオル「あのね、緩急つけて振るといいよ」
ぱっと猫じゃらしをとって手本を見せるカオル。
カオル「静と動!」
キイチ「にゃにゃん」
カオル「ほらやってみて」
ツヨシ「こうか?」
手本を見てやってみるツヨシ。
キイチ「にゃん!」
それにじゃれつくキイチ。
ツヨシはちょっと感動する。
ツヨシ「おおおお!?」
カオル「いいじゃん! もう一回!」
猫訓練を続ける二人。
その居間のテレビでは「裏猫ビジネス、誘われてもダメゼッタイ!」というACの広告が流れている。

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