![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45258696/rectangle_large_type_2_16f5406cf8c84257020b5833c77d50b1.jpeg?width=800)
「30年前に断ったバレンタインチョコ」が今でも気になる
大人になってから「学生時代、バレンタインチョコもらったことがあるかどうか」が話題になることがある。「学生時代」とはだいたい高校生までで、モテていたかどうかの重要な指標の1つだ。
そんなとき、ぼくはいつも回答に困る。
基本的には、もらったことはないのだけど、ストレートに「もらったことはない」と言いたくない出来事があったのだ。
小学2年生、早朝の教室
それは、小学2年生の時。
その頃ぼくは、集団登校のメンバーと(7歳にして、生意気にも)馬が合わず、朝早く1人で通学して、みんなが来るまで、誰もいない教室で1人待っていることが多かった。
2月14日のその日も、一番乗りで学校について、教室の確か、後ろの右端の廊下に近い自分の席に座って、みんなが来るのを待っていた。なにをするでもなく、いつもどおり、頬杖をついて、ぼーっとしていた。
やってきた2人の女子
少しすると、いつもは絶対にそんな時間に来ない、クラスメートの女子が2人でやってきて、ぼくに「おはよう」とだけ言って、左前の窓際の席にそれぞれ座った。
ぼくも「おはよう」と返したものの、朝が早いことについて特に事情を聞くことも、2人に積極的に話しかけることもなく、ひきつづきぼーっとしていた。
すると、その女子2人は、すぐに同時に立ち上がって、ぼくの方に歩いて来た。
「何事か」と一瞬驚いたのだけど、ぼくに用があったわけではないようで、ちょうど彼女たちの席とぼくの席の間の、教室の中ほどにある机の前で立ち止まって、その机を2人で覗き込み出した。
最初は何が始まったのかわからなかったけど、よく見ると、1人が手に綺麗な包装紙に包まれリボンのついた、筆箱くらいの大きさの箱を持っているのが見えた。
そこでぼくはやっと気づいた。「そうか、今日はバレンタインデーだ」
よく考えたら、その席は、クラスでも人気のイケメン男子の机だ。おそらく、女子2人は、彼の机にチョコレートを入れるために、今朝は早くきたのだろう。
でも少し様子がおかしい。2人で少しもめているようなのだ。
「むりやって」
「いけるって」
「はずかしいやん」
「いやいけるって」
おそらく、チョコにメッセージをつけるか何かで揉めているのだろう。ぼくは7歳児ながら、すでに達観した気持ちで「いいなあモテるやつは」と思いながら、その様子をなんとなく眺めていた。
すると突然、そのうちの1人が、こっちをみた。
なんだか、覗き見をしていたのをとがめられたような気がしたので、ぼくは焦って視線を机に落として誤魔化したのだけど、その女子は机の間をぬって、こちらに1人で歩いてくる。
ぼくはできるだけ平静を装っていたものの、心の中はかなり焦っていた。
ぼくの前に立った女子
ついに、ぼくの前に1人の女子が立って、口を開いた。
「あのさあ」
「な、なに?」
「これ」
「え?」
「○○君にあげようと思ってんけど、恥ずかしいし、あげるわ」
「・・・・・・」
当時、ぼくの7歳の脳みそは、おそらく「スーパーコンピューター京」くらいフル回転をしていたと思う。
ついさきほどまで「自分はもらえない」と思っていた悲しい気持ちと、突然「チョコをあげる」と言われた衝撃と、でもそれは「本命にあげるのが恥ずかしいから」という事実。
目の前に、先ほど見えていたリボンのついた箱を手に持った女子がいる。
もう、何が何だか分からなくなったぼくが、数秒間考え抜いた上の回答は
「いらんわ、そんなん」
というものだった。
ぼくの前にいた女子は、チョコを持ったまま、何も言わずにもう1人の女子の元に帰っていってしまって、そこで2人でぼくをチラチラみながらゴニョゴニョと少し内緒話をして、それぞれの席に戻っていった。
チョコレートの行方
そのとき、とてもそちらを見ることはできなかったのだけど、おそらく、イケメン男子の机に、ぼくが断ったそのチョコレートが入れられることはなかったと思う。
そもそも、もともと2人で1つのチョコレートを持っていたのか、2つのチョコレートを持っていて、そのうち1つを入れなかったのか、それさえもよくわからない。
その日、みんなが来て、そのイケメン男子も来て、授業が始まって、休憩、授業、お昼休み、午後の授業、休憩と時間が経つ間、ずっと朝の「答え」が正しかったのかどうかで頭がいっぱいだったけど、もちろん結論は出なかった。
いや、なんなら30年経った今でも、あの回答が正しかったのかどうかよくわからない。
気になること
何が気になるかと言うと、まずはもちろん、女性(7歳の女子)が渡そうとしたチョコレートを断ったことが果たして良かったのかどうかということ。
せっかく勇気を振り絞ってしてくれたことに対して、男性(7歳の男子)としてマナー違反ではなかったのかという点である。
普通に考えれば、絶対にしてはいけない。
でも、ぼくに渡すつもりではなかったものだし、それをはっきりと言われたのだから、断る権利があるとも思う。
1%の可能性
でも実は、それ以上に、ぼくが30年間ずっと思っていることがある。女性が聞いたら「とんだ勘違い」と笑い飛ばされそうなのだけど。
それは、彼女が実は「もともとぼくに渡そうとしていたのではないか」ということ。
何か根拠があるわけではない。でも、イケメン男子に渡すのが恥ずかしいからといって、近くにいる男子に突然渡す必要があるだろうか。
大体こういうのってドラマとか漫画だと、一日持ち続けて、結局渡せず持って帰ってしまうものだと思う。
まだまだチャンスのある早朝に、ぼーっとしている男子に突然渡す必然性がないようにぼくは思うのだ。
だからもしかして、本当はぼくに渡そうと思っていたけど、少し回りくどい演技をしたという可能性も、1%くらいはあるのではないか、と思うのである。
99%違うけど
もちろん、99%はぼくの妄想だと思う。でも、もし1%でも可能性があったのであれば、あの時「ありがとう」と、受け取っておくべきだったのかな、と今でも思う。
というのも、あの7歳の時の決断によって、結局ぼくは、「学生時代、バレンタインチョコをもらったことがない男子」として一生を過ごすことになってしまったから。
あの時受け取っていたら、もしかしたら、ぼくの人生はもう少し変わったものになったいたのかもしれないと、時々思うのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?