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京都でまた一つ美しい町家がなくなる事について

京都でまた一つ美しい町家が失われる。たった一つの建物であるが、こうやって徐々に京都の貴重な文化が失われていく姿を皆さんに伝えておきたい。

悲しい白い看板

六角通を歩いていたら、たまに寄る古い町家のおかき屋さんの塀に白い看板が出ているのを見かけ、体が固まってしまった

外国人観光客の急増(いわゆるお宿バブル)以降、白い看板はつまり、解体建替のサインであることは京都人の常識だからだ。

このおかき屋さんは、妻が大好きでたまに寄っていたのだが、ぼくはおかきよりもその建築の素晴らしさにいつも感動していた。特に、入口から見える売り場奥の中庭の新緑の美しさや横の門扉を入ったところにある、庇下に設置された腰掛けの可愛さが何とも大好きであった。

しかし、そんな町家が間も無く潰される。

4階建の鉄筋コンクリートの建物になるそうだ。

あまりにも悲しくて、立ち止まって何度も建物を見上げて、写真を方々から撮影して、すぐにぼくの友人の京町家が大好きな仲間に情報を共有した。

でも、どうしようもない。もう営業は8月16日までと書いている。

収支上の理解はするが

店の中も外もきれいに手入れがされているように見える。利用者の目には見えない、雨漏りなど古い町家ならではの大変さはあるとは想像できるが、それでも店を一時的に閉めて建て替えるぐらいならいくらでも改修はできるはずだ。

これまで知らなかったのだが、この店舗は大阪の会社が経営するようになっていたようでだ。その会社の説明ページを見ると、この建物について「京町屋」と書いてあった。残念ながら京都の町家は「京町家」と書く。おそらく京町家のことはよくご存じではないのだろう。

ぼくも昔商業施設の開発をしていたので、事業収支上の考え方はよくわかっている。土地の価格はその土地に建築できる建物の最大の床面積(各階の大きさ)で決まる。だからおそらく大阪の会社がこの土地を買った時には、4階建分のお金を支払っているのだろう。そうであれば、リターン(売上/土地価格)から考えたら、とても1階だけの売場の今の店では収支が成り立たないのだと思う。

でも、それを理解した上で、あえてぼくは言いたい。

「建替えはやめてほしい。」

なぜなら、この建物にはそれ以上の価値があるからだ。

どこにでもある建物に魅力あるか

鉄筋コンクリート4階建の建物は、いつでも、どこにでも、いくらでも建築可能である。でも今ある2階建のこの京町家は、今、ここに、一つしかない

建築にそれほど詳しくない人でも、この町家に入って買物をしたら、すごく心地よい気持ちになるはずだ。そのくらいこの建物には素晴らしい価値があるのだ

経営者をしたことがないので、勝手な発言であることは理解している。しかし、たくさんお店をお持ちの中、一つぐらい収支が合わない店を持ってくれてもいいのではないか。お金持ちの社長が、社長室に美術品を飾っているのと同じである。もしくはCSRと言うべきか。とにもかくにも、この建物を残すことは社会的な意義があるのだ。


最初に「伝えたい」といっていたのに、いつの間にか少し感情的になって「止めたい」話になってしまっていた。でも、そのぐらいぼくは悲しんでいる。

もし、事業収支上そうしても建替がいると言うことであれば、最後に、一つだけ、建替計画を知った近所の人のコメントを紹介したい。

「あの店は町家やからええねん。鉄筋コンクリートの店に誰がいくんやろか。それやったら(そこから徒歩5分の)大丸でええやん」

実際、このように京都で町家を建て替えて大きなビルにした途端お客さんが来なくなったお店を何度も見たことがある。そう言う意味で、お店が本物の京町家であるということは、実は事業収支には現れにくいが、大変なプラスの影響があると思うのだ。

だから、お店が本当の古い京町家であるということは、売り場面積が4倍あるよりもよっぽど価値があり、その活用次第で、事業性が十分あると言える

何とか再考いただけないものだろうか。

心からお願いしたい。

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