宇城悠人(MELT/エビチリ)

宇城悠人(MELT/エビチリ)

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  • 宇城悠人の文章図鑑

    なにもやる気が出ないとき、小説や雑誌の文章を何も考えずキーボードで書き写す。普通に読むときの10倍ほど時間がかかる。でも、義務みたいに読んでいるときに読み飛ばしてしまう名文や悪文に気づくことができる。「文章図鑑」は、「写経」と呼んでいるその時間のかかる読書のなかで見つけた名文や悪文や珍文を保存し、宇城がリアクションする図鑑。たまに見る、ホームビデオに外国人がリアクションするショート動画みたいなもの。

最近の記事

【パラレルニュース】地面をすべて布団にする法案が可決

第一報 C国議会は、国土全域の地面をすべて布団にする法案を可決した。 国土交通省は、全土を布団で覆うことは十分に可能であるとの試算を示しているが、科学界からは環境への影響を懸念する声も上がっている。 法案は今後、S大統領が署名することで正式な法律となる。 続報 C国の地面のうち約9割が布団となった。 どこで眠ってもよいという新たな生活の結果、C国民の平均睡眠時間は倍増。 国民全体の健康レベルが大幅に上昇し、保険料の引き下げにつながった。 史上類を見ない大規模公

    • 「嘘をつくための臓器を摘出しました」

      医師は、銀色のバットにのった赤黒い臓器を見せた。 「これは嘘をつくための器官です。摘出が成功した以上、旦那さんが嘘をつくことはもうありません。」 それはまだわずかに脈動しており、収縮するたびに表面に貼り付いた細い血管の端から内部に残った微量の血液を絞り出していた。 女は医師に丁寧に礼を述べると、ベッドに横たわる夫に一枚の写真を突きつけ、そこに映っている女は何者かと詰問した。 麻酔による酩酊が尾を引いているのか、なかば虚ろな目で夫は答えた。 「妹だよ。」 女は、ふん

      • 「あちらのお客様からです」

        「どうぞ」 「これは?」 「すじこです。あちらのお客様から」 美しい女がバーカウンターの奥に目をやると、理知的な空気を着こなした男が一人。 静かな熱視線とともに、男は誘う。 「すじこ、いかがですか?」 すこし俯く女。 きらめく黒髪がひとすじ肩をこぼれた。 まるで彼女の憂いが、水滴となってしたたり落ちたかのように。 女は微笑み、口を開く。 「私、痛風なんです。」

        • 2024年3月の文章図鑑

          しばらくぶりに実家に帰った。実家の犬はもうおばあちゃんだから、帰るたびにどこか体に不調はないが気になるが、今のところまだしっかりした顔色をしている。足や腰を痛めたときは、たいてい物言わずじっとしている。犬はどこかが痛くても、言葉で訴えることができないから、そんな姿は気の毒だ。(そんなことを言ったら、猫だって、ていうかカマキリだってそうだけど) 今月は手持ちで持ち帰った本と、実家にあった本を読んだ。 気になった文章をいくつか書き留めた。 吉本ばなな『アムリタ(上)』(2002

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          私時々残酷な映像を探すんだけど

          私、時々、すごく残酷な映像を探すんだけど。インターネットで。すごく残酷な、人が人の身体を切って、喜んでいるような映像を見るのね。そういう気分の時、最初は事故や災害の写真を見てるんだけど、いつも最後は、人が人を切って、喜んでいる映像を見てしまうの。勘違いしないでほしいんだけど、私はそれを見て悦んでいるわけではないんだよね。 高校生の時に、どこで手に入れたのか知らないけど、死体の写真集を持ってくる子がいてね、「死体を見ると落ち着く気がする」って言ったんだよね。で、完璧に共感した

          私時々残酷な映像を探すんだけど

          本当のもち米を食べた人間はいない

          本当のもち米を食べた人間はいない。 と兄は言った。 おもちというのは普通、もち米を潰すことで完成する。 つまりそこには、もち米の輪郭の破壊と、おもち特有の粘りの創造という二つの要素が含まれている。 しかし、本当のもち米というものは、破壊も創造も経由せず、はじめからおもちとして完成しているんだ。 本当のもち米は、はじめから完結した存在として、ただ存在する。 それはおそらく、この世界を始める前の、神様に似たもち米。 俺は、それが実在すると信じるに足るいくつもの証拠を持っているん

          本当のもち米を食べた人間はいない