「嘘をつくための臓器を摘出しました」
医師は、銀色のバットにのった赤黒い臓器を見せた。
「これは嘘をつくための器官です。摘出が成功した以上、旦那さんが嘘をつくことはもうありません。」
それはまだわずかに脈動しており、収縮するたびに表面に貼り付いた細い血管の端から内部に残った微量の血液を絞り出していた。
女は医師に丁寧に礼を述べると、ベッドに横たわる夫に一枚の写真を突きつけ、そこに映っている女は何者かと詰問した。
麻酔による酩酊が尾を引いているのか、なかば虚ろな目で夫は答えた。
「妹だよ。」
女は、ふんと鼻で笑って医師の方を向き直る。
「先生、まだ嘘つけてますけど。」
「えっ、嘘なんですか?」
「すみません。嘘です。僕には兄と弟しかいません。」
少しの沈黙ののち、女はハンドバッグを取り上げて病室をあとにした。
「くそっ! どうして僕は、見苦しい嘘をついてしまうんだ…!」
拳を握り締め自らを責める夫。
その様子を見ていた看護師が一言。
「じゃあこの臓器、なんなんですか?」
ピクピクと脈動する臓器。
「なんなんだろうね。」
その臓器、意外とでかいのである。