小説 一緒に住んでるデスクラブ(殺人カニ)
一緒に住んでるデスクラブ(殺人カニ)がフランス料理の店に行きたいと言いだした。
わたしが渋い顔をしていると、
「カニがフランス料理を堪能してはいけないというのかい? 『おまえはデスクラブだからみんなをハサミで八つ裂きにするに決まってる』とでも言いたいのかい? おれのハサミは悲しみを生むためだけに付いているのかい?」
「きみのハサミが悲しみを生むためだけに付いているかどうかは、これからの振る舞いで決まるってもんさ」
それでフランス料理の店に行くことにした。
席についたカニは物欲しそうにあたりを眺めていたので、
「いいかい、くれぐれもきみのハサミでお客さんやシェフを八つ裂きにしてはいけないからね。絶対にしてはいけないからね」
「そんなことするもんか!」とカニ。「だけど突発的な事故ってやつが起こらないとも限らんだろう?」
「そんなことしたらなにもかもおしまいだぞ。いいかい。絶対に八つ裂きにしてはいけないからね。わたしははばかりに行ってくるよ」、と席を立とうとすると、カニの目がきらりと光った。
「いま目が光ったでしょ」
「光ってないよ。よしんば光ったとしても、それはこれからでてくるであろうフランス料理に打った舌鼓だよ」
「怪しいもんだ。いいかい。絶対にシェフやお客さんを八つ裂きにしてはいけないからね」
それではばかりに行ってのんびりとお花を摘んでいると、表の方から激しい剣戟の音が聞こえてきたではないか。