小説 恋人のコピーロボット

 恋人に振られたショックでなにも手につかない。ごはんを食べる気にもなれなくて毎日泣き暮らしていると、元恋人によく似た人がやってきて、

「こんにちは、あなたの恋人のコピーロボットです」という。

「わかんないわかんない。なに?」

「以下伝言です。『あなたはきっとわたしがいないとだめになってしまうだろうけれども、それはそれとしてわたしがあなたの世話をするのはもううんざりなので、代わりにコピーロボットを送ります』とのことです」

「えええそれは、倫理的になんか問題があるんじゃないの? あとコピーロボットったって本人とはぜんぜん別なんじゃないの?」

「倫理的な問題はないみたいです。あと特殊な技術で本人の人格をコピーすることに成功したほぼ同一のロボットだそうです」

「都合がいい~」

「はい」

 それで元恋人のご厚意に甘えてロボットと一緒に生活をすることにした。

 コピーロボットはコピーロボットというだけあって元恋人とほぼ一緒でちっとも違和感はないのだけれども、でもたまにちょっと違うなというようなところもあって、そういうときは、

「恋人はそんなことはしないと思いますけど……」と言ってロボットを悲しませてしまった。

 わたしだってそんなことは言いたかないけれども、でもどういうわけか言ってしまうのだ。言ってしまわないと気がすまないのだ。たぶんまだわたしは元恋人のことが好きだから。

「すみません。もっと本物らしく振る舞えるように努力します」と甲斐甲斐しく言ってくれるロボット。そんなことはしなくていいんだよという気持ちとそうそうそうでなくちゃなあ、という気持ちがある。心が二つあり、いずれも筋が通っていることがわかるだけにやりきれない。

「でも一番はわたしがダメ人間だからだよなあ」とロボットに甘える。

「本当はきみなんていなくても一人で頑張らなくちゃいけないのにわたしがダメだから」

「でもそうするとわたしがいらなくなってしまいますからね」とロボット。

「ああもうおしまいだ。自殺の名所に行こう。お土産を買ってくるね」

「冥土の土産ですか?」

「『冥土に行ってきましたまんじゅう』とか、ご当地キティちゃんの冥土版とか、そういうの」

 わたしはなにかため息を吐きたい気持ちになりながら、

「誰かがダメになるのをずっと手助けするためだけに生まれたロボットって今さらだけどなんかひどくあれじゃない?」

「でも仕方ないんです。わたしはそういう存在なので。あなたが立ち直るか立ち直らないかぎりぎりのところを攻める感じです」

 もうどうしたらいいのかぜんぜんわからない。ちっともだ。わたしは今日もロボットに甘えてしまって、そこに元恋人の面影を投影し続ける。元恋人とは少しずつ違うロボットに、元恋人のイデアを見ようとし続けてしまう。おしまいだね。でも人間だねという気がする。ことごとく人間だねという気がする。

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