小説 天井裏の忍者 つみたてNISA編
天井裏に忍んでおれの命を狙っている忍者が、
「つみたてNISAを始めようと思うのでござる」とほくほくしながら言ってきた。
「忍者でもつみたてNISAに興味を持つことってあるんだ」と呆れていると、忍者は眉間にしわを寄せて威厳を作りながら、
「人生百年……今日の常識が明日通じなくなってしまう激動の時代、忍者の生活もライフシフトというわけでござる。いざというときに泣きを見ないためにも、拙者もつみたてNISAを積み立てていこうというわけでござるよ」
「なんだか詳しくは知らなそうという雰囲気だけは伝わってくるけど、そもそも忍者みたいな仕事をしてたら、百歳まで生きるのは難しいんじゃないの?」
と突っこみを入れると、忍者は露骨にテンションを下げながら、
「正論はいつも人を傷つけるばかりでござる……拙者は老後は月に一度は旅行に行くことを楽しみに生きているでござるのに……」とこぼす。
「わかったわかった悪かったよ。それじゃいったん百歳まで生きるという前提で話を進めようか」とフォローをしてやると、忍者はぱあっと顔を明るくして、
「それではつみたてNISAについてお主にもわかりやすく説明をしてやるでござる」
「えっおれも一緒に始める流れなの?」
「どうせお主は老後のことなんか考えてないだろうから、拙者が親切にも教えてやろうというのでござるよ」
「おれの命を狙ってるやつが常に天井裏に忍んでるのに……?」
「そこは一旦おいておくでござる。大切なのは未来を見据えようとする意思でござるよ」
なにやら腑に落ちないものを感じるものの、忍者のほうでは気にしないでフリップを出して説明を始めた。
「まずそもそもNISAとはなにかというところからでござるが」
「少額投資非課税制度だろ」と横やりを入れると、忍者はいやそうな顔をしながら、
「拙者が気持ちよく説明しようとしているところに割ってこないでほしいでござる。お主は『へー』と『すごーい』と『さすがー』を無限に言い続けるでござるよ」
「なぜそんなお前に気持ちよく喋らせてやらなくちゃいけないんだ……」
それからも忍者が意気揚々とつみたてNISAの説明をしてきたので、だんだんおれも途中から面倒くさくなってきて、
「……というわけでこの口座を開設しておけば年額いくらまで非課税になるという制度がこのつみたてNISAという制度でござって」
「へー。すごーい。さすがは忍者。テレビつけてもいい?」
「だめでござる」
「『ダーウィンが来た!』を見たいんだよ」
「話を聞くでござる! ダーウィンはどうせ今週も来ないでござる!」
と言いながら忍者が懐から取り出した忍者ドスでおれを切り捨てようとしてきたので、さっとかわして強めにはたくと、
「……いまのはお主を殺ろうとしたのではなく、ふつうに怒って切りかかったので、できればかわさないでほしかったのでござる……」と面倒くさいことをいう忍者。かわさなかったらおれが死んじゃうだろうがと思いながら、
「はいはいわかったから、ほら、ダーウィンが来たを見ようぜ。お前も好きだろ」
「好きか嫌いかでいえば好きでござるけど……不承不承でござるよ?」
それで忍者と一緒にテレビを見た。つみたてNISAがなんだったのかは結局よくわからなかったけれども、忍者のお陰で別につみたてなくてもいいんじゃないかという気持ちにはなれたので、その点はよかったな。