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コケティッシュなジェームス・ディーン

 ビデオにとっておいたジェームス・ディーンの『エデンの東』を見る。二度目だったが、最初に見たときは、父親に対し、反抗的な息子、キャル(ジェームス・ディーン)が、父親が事業のために貯蔵している氷を倉庫から蹴落とすとか、そんな場面しか覚えていなかっので、改めて見て、一体、何を見ていたのだろう、と思った。
 ことあるごとに、息子に聖書を読ませて説教する父親のアダムは、キリスト原理主義者というわけではなく、要するにケチな凡人に過ぎない。妻のケイトは、そんな夫を見限って家を出てしまう。アダムはそのケイトを死んだものと思い、二人の息子にもそう言っている。アダムは、アロンとキャルの二人の兄弟のうち、自分に似た善人だという理由でアロンを偏愛、キャルを毛嫌いしている。

アロンとキャル、そしてケイト……


 そのアダムが何をしている人なのか、よくわからないのだが、レタスを氷づけにして市場に運ぶというアイデアに熱中している。、そのためには、大量のレタスを集める必要があるが、キャルは、炭鉱で石炭を選別するための「木の樋」を使って成果を挙げるが。ところが、もともと、石炭を運ぶためのものであることを知った、父親は激怒するが、捨てられていたんだというキャルの言葉を受けて、しぶしぶ、納得……大量のレタスを貨物列車に積み込むが、その列車が、事故に遭遇、氷漬けにしたレタスは全て、水浸しになってしまう。

持ち主に返せとキャルに迫る父親

 キャルが、どれくらい損をしたのかと聞くと、父親は、だいたい五千ドルくらいだと答え、もし、アメリカが第一次大戦に参戦したら、糧食用の大豆の価格が急騰すると、言う。
 キャルは翌日、母親のケートが経営している酒場を訪ね、五千ドル貸してくれという。実は、父親から母親は死んだと言われていたが、実は、汽車で数駅を隔てた町で、酒場を経営していたことを知っていたのだ。ケートはキャルの計画を聞いて、五千ドルの小切手を切る。キャルは、大豆畑を買った直後、アメリカの参戦が決まり、大豆畑を政府当局に売却、父親に、誕生日のプレゼントだと言って、五千ドルを渡す。「どうやって手に入れたんだ?」と聞く父親に、「大豆畑を売った」いうキャルに、「不当な手段で得た金だ。農家に返せ」と言う。キャルは「買ったのは農家じゃない、政府だからそんなことはできない」と言うと、父親は札束を床に投げ捨てる。

五千ドル投げ捨てられて……


 一方、アロンは、自分のプレゼントとして、恋人のアブラを連れてくる。父親は大喜びし、キャルに「こういうプレゼントこそ、私が望んていたのだ」と言う。絶望したキャルは、アロンに「真実を見せてやる」と言って、母親の経営する酒場に連れて行き、これがお前の母親だ、と言って、酒場の事務所に放り込む。アロンは、自暴自棄になって、それまで拒否していた第一次大戦の志願兵になる。地方の名士として、徴兵委員会の会長をしていた父親はショックで脳梗塞を起こしてしまう。その父親を看護するのはキャルと、アロンの恋人で、今はキャルに心を寄せているアブラで、父親は「アブラに看護してもらいたい」と、キャルに伝え……キャルは、故郷を離れ、アブラと「エデンの東」で暮らすことを決意するというお話。これはキャルとアロンの兄弟がいがみ合っていることを懸念した保安官が、聖書のカインとアベルの例をひいて話したことで、実際にはアブラがキャルを抱きしめてなだめるというシーンでエンドマークが出たのだと思う。。
 内容はむちゃくちゃ深いわけだが、父親のアダムを演じているレイモンド・マッセイが、どうも……家庭外では、徴兵する若者の選別に関わっていることにふさわしいしっかりした人格が感じられるのに、家庭内のあり方があまりにも陳腐だ。例えば、それまで反発していたキャルが、態度を一変、レタスで大損した父親を救おうとするわけだが、その変化がいつ、どこで生じたのか、よくわからない。兄のアロンも、その点、父親に似て、頑固な右翼の若者という感じだが、実際は平和主義者で、アメリカの参戦後、息子の死亡届を持った母親かドイツ人の家に押しかける場面があるが、その時、アロンが割って入り、群衆から小突き回される。その様子を、近所の遊園地の観覧車でアロンの恋人のアブラと話し込んでいたキャルが見つけ、群衆の真上からダイブしてアロンを救出する。その後、アブラを誘っていたことを知ったアロンと殴り合いになるのだが、もみ合っている群集の上にダイビングする闇雲な様子が、まるで知的障害者みたいで、『ギルバートグレイブ』のディカプリオみたいだと思った。

ジョニーデップとデカプリオの兄弟
ちょっと牽強付会すぎたかも


 ところが、そんなキャルに対して、母親のケートが「ハンサムになったわね」とか、女の子にモテるんでしょ」と、アブラが、自分がアロンの恋人であることを自覚しながら言う。それに対して、普通だったら、「よせやい」とか、要するに、含羞を込めた反応をするのが普通だと思うけど、ジェームス・ディーンは、それもしない。男性に対しては、普通、使わない言葉だがコケティッシュだと思った。この辺りについては小森のおばちゃまに聞いてみたいと思ったけど……要するに、『エデンの東』のジェームス・ディーンはスタニラフスキーのメソッド演技法の嚆矢にして、その絶頂の演技だったのだと思う。ジェームスディーンはまさに、メソッド演技法の申し子だったのだ。ただ、その演技についていけない役者もいるわけで、『エデンの東』の場合は、父親のアダム(レイモンド・マッセイ)で、アダムが関わる場面でしばしば、ストーリーがわからなくなる。『ジャイアンツ』の場合は、主人公のロック・ハドソンだ。ロックハドソンの妻、エリザベス・テイラーは、案外、いい。映画そのものは、わけがわからなかったが、ジェームス・ディーンの存在感は『エデンの東』以上と言っていいと思う。

『ジャイアンツ』の影の主役というべき、ジェット。ジェームス・ディーンは役名がカッコいい。

 ……というわけで、アダム役としては、カール・マルデンなんかの方が、深みが出ていいのではないか……とか、思ったのだが、ウィキに、アダムは、日本人の移民の田島某がモデルという説があるという。いてばかりいやがって……ということなのだろう。ヨタ車をアメリカの労働者がハンマーで叩きつぶすテレビ画像が有名になったけど、そういうイメージがあったから起きたことのかもしれない。反省してどうのこうの……という問題ではないけど……そういう働くしか能のない父親は、日本人にとっても魅力ある父親像ではないと思う……実際、個人として魅力的な日本人も多いはずで、私の知っている限りでは、池内紀さんなんか……と思っていたらNHKのBSPで、蒸気機関車の操作をしている日本人がいて、こんな人だな……と思っていたら、ドイツ語を話している。あれれれ、池内紀さんかも……思ったら、機関士の制服を着ていたが、池内紀、その人だった。個人的に人となりを知っているわけではないけど。

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