あーちゃろは猫が嫌い!#3「羽ばたきすぎじゃね?」
――「つまり、誰かに触ってもらうと人間に戻れると言うことですか?」
「うん、多分。どれくらい戻れるかは分かんないけど、そういう事じゃないかなって。」
ゆずてゃはなるほどと眼鏡をクイッとしながら考えを整理してる。
「あれ、でもさっきお友達に触られていた時は戻っていませんでしたよね?」
あ、確かにそうだ。
りるちゃむとららたゃに触られたときは何も起こらなかった。
じゃあなんで……?
考えても考えても分からない。
その時、大きな音を立ててウチのお腹が鳴った。
ぽふっとなって猫になる。
あー、そういえばご飯食べてないし走り回ってお腹すいたわ。ぴえん。
突然ゆずてゃが「ちょっと待っててください」と言ってどこかに行ってしまった。
ちょっと待っててくださいとは言われたけれど、このまま帰って来なかったらどうしよ……。
ひとりぼっちやだ、不安すぎる、泣きそう。
猫って涙出るのかな?
不安でうずくまりながら待っていると、ゆずてゃが走って戻ってきた。
……ゆずてゃ、走るの下手くそだわ。
ふっ、ふふふ。走り方おもろ。
「すみません、遅くなりました。」
ずっと走っていたのか、息を荒らげている。
手にはコンビニの袋を持っていた。
(んえ、これって……)
「あーちゃろさんにご飯買ってきました。」
ハァハァしながら袋から馴染みのない缶詰を取り出した。
缶にはこう書かれている。
“柔らかジューシー、猫のお腹にも優しいキャットフード”
(え、キャットフード?やだよ!ちゃろお米食べたい!)
そんなウチの気持ちが届くはずもなく、缶詰めの中身が紙皿に盛られていく。
はいどうぞと差し出されたそれは見た目は美味しそうだけれど……。
とりあえず一口食べてみた。
ん?なんだこれ!キャットフードってこんなに美味しいの?ガチか。どんどん食べれる!
「あ、そんなに急いで食べる必要ないのに。」
ゆずてゃの言葉を聞く余裕もなく一心不乱に最後まで食べきった。
満腹になったウチは一つ欠伸をして寝てしまった。
寝ぼけながら覚えているのは、ゆずてゃが膝の上に乗せてくれて寝落ちてしまったということ。
そしてゆずてゃが優しく撫でてくれたこと。
もしかしたら気のせいかもしれないけれど。
――目を覚ますと、ゆずてゃの顔が近くにあった。
「ほえ?!」
思わず声が漏れる。
ゆずてゃはウチが寝た後、釣られて一緒に寝たみたいで頭が下に下がっていた。
ウチは何を思ったのか、顔に少しかかるサラサラの髪を耳にかけて、頬を触った。
「うわー、つよ。羽ばたきすぎじゃね?スキンケア何してんの。」
思った通りの感触にドキドキした。
透明感がありふんわりモチモチの肌。
暫く見蕩れていると、ゆずてゃの体が一瞬ビクッとして目を開けて起きた。
ウチとの顔の近さに驚いたのか、ゆずてゃは焦って顔を上げた。
「あ、うあ、あーちゃろさん。すみません、陽だまりが気持ち良すぎて思わず寝てしまいました……。」
「おはよー。」
クスクスと笑っている私を見て、ゆずてゃは少し気まずそうな顔をした。
そういえば、気になっていた事がある。
「ゆずてゃ、今日学校は?病気がちなんだっけ?」
学校でも有名なくらいトップの成績を誇る長谷川柚琉様が学校サボりまくりのウチみたいな奴と一緒にいるなんて。
そんなことがあって良いんか?
「……それはですね、正直体調不良ではなくて、ちょっとした理由がありまして。」
それってなんだろうか……?
「時々ですが、思うんですよ。
あ、これは自分自身で勝手に思っていることなので気にしないで欲しいんですが、授業って四分の三くらいは無駄な時間だなって。
最高で十五分もあれば、授業の内容は完璧に理解できるのに、それを五十分間も行うのがよく分からなくて。」
なので、たまにこうしてサボっているんです、
だそうだ。
「それさぁ、頭良いから分かるんじゃね?ちゃろなんか何時間勉強しようと理解できないもん。
てかあれだね、ゆずてゃ意外とヤンキーじゃんっ。」
「え?!そんな、まさか!一応学校には体調不良ということにしているのでセーフです!」
なにそれとクスクス笑い合った。
一息ついたところで、本題が出た。
「そうだ。とりあえず、早いとこ猫から人間になれる明確な方法を見つけましょう。」
「確かにー、それが先だよね。」
ふむ……。と暫く沈黙が続いた。
「やっぱり、ある特定の人が必要なんでしょうか。」
「特定の人?例えば?」
「んー、そうですね。猫が特別好きな人……とか?」
確かにゆずてゃは特別に猫が好きだ。
……あれ?でも待って。
「ちゃろさ、ゆずてゃに触られたら人間に戻れた。離れられると猫に戻った!つまり特定の人ってゆずてゃなんじゃないかな?」
「それはこじつけでは……。そんな大層な人間でもないですし。」
とりま実験の為に一旦ちゃろから離れてもらった。
「……じゃあ、離れますね。」
「うん、お願いします!」
ゆずてゃが一歩、また一歩と離れていく。
……あれ?
猫に戻らない。どうして?
「ゆずてゃ、見えないとこまで離れてみてー!」
「分かりましたー!」
公園の外へ出てもらった。
……変わった感じはしない。
んんん?なんでだ?
ゆずてゃがひょこっと顔を出し様子を伺っていたが、変わってない様子を見て何か思いついたらしい。
「あーちゃろさん、もしかしてなんですが。
猫になっているとき、マイナスの感情だったりしませんか?」
ん?どういう事だ?
「つまりですよ、悲しかったり、怖かったり、緊張したり、お腹が空いてイライラしたり。」
「……最後のはいらないなぁ!」
うーん、でもマイナスな感情……
それは確かにそうだ。当たっているかもしれない。
つまり、マイナスな感情になってみればいいってこと?
「ゆずてゃ、これからちゃろが言うことに対して全部嫌ですで答えてね。」
「嫌です。」
「早い早い。」
何個かテストしてみた。
「ちゃろと今度カラオケ行こー?」
「てか今度二人で勉強会しようよー」
「これからタピるー?」
――こんな質問を十個ほどしたところで精神が削られた。
「んもぉ!一個は良いですよって言ってよ!」
「嫌です、ルールなので。」
「ゆずてゃはちゃろのこと嫌いなわけ?!」
ぽふっとして猫になった。
両手を見る、肉球だ。
(うわーん。)
猫になる実験よりも、ゆずてゃに遊びを断られるのがめちゃくちゃ辛かった。
「あーちゃろさんのことは好きです。」
(へ?!ガチ?!)
またぽふっとして人間に戻った。
「ゆずてゃ、今の本気?!」
「え?」
「好きって本気?!」
「あ、いや、ああの、その。これから友達になれたらなと……。」
なんだそういう意味か。
「もちろんだにゃ!」
え、ニャーニャー語になっちゃった恥ずっ。
#3「羽ばたきすぎじゃね?」
~終わり~
*おまけ小説*
「ギャルにお題出して話し合ってもらった!」
えー……
今回こそちゃんとディベートしていただきます。
りるちゃむ「今日こそって言うけど、りる達いつも真面目に話してるくね?」
あーちゃろ「それなそれなー。」
話がズレていってるの自覚してください!
ららたゃ「え、どの辺がズレてんの?」
りるちゃむ「マジでちゃんと話してるっつの。」
あーちゃろ「サイトウっちさ、ちょっとイケメンだからってウチらのこと手のひらコロコロできると思ってね?」
りるちゃむ「やだー、ガチありえなーい。」
ららたゃ「そんな人だと思わなかったわ、マジ絶望ー。」
そんなに関わってないでしょ!
いつも五分でインタビュー終わってますからね?!
あーちゃろ「ウチらのせいじゃなくね?」
りるちゃむ「サイトウの力不足。」
ららたゃ「キャッキャッキャ!ガチおもろー!」
あーちゃろ「ねぇ、ららイルカみたいな笑い声マジやめて。釣られる。」
ギャル怖い。圧怖い……。
サイトウもう帰りたい……。
ららたゃ「え、てか今日サイトウっちもプリらん?」
りるちゃむ「それガチいいわぁー!」
あーちゃろ「らら天才。」
待て待て待て、サイトウの気持ち考えてくれ。
「いくべー!!」
「「おー!」」
――こうしてサイトウはギャル達に拉致されて戻って来ることは無かったのである。
おまけ小説
「ギャルにお題出して話し合ってもらった!」
~終わり~
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