見出し画像

あーちゃろは猫が嫌い!#4「急接近ってま?!」


あれから3日経ったけれど相変わらずウチは猫のまま。
ちなみに家には帰れないのでゆずてゃの家にお世話になる事にした。

――「え?!ゆずてゃの家?!無理無理無理無理!」
「大丈夫ですよ、うちは母と二人暮しでして。その母も夜勤が多くてあまり家に居ないので遠慮しないでください。あ、あと母も猫好きです。」

じゃあ大丈夫かー、ってなるわけない!
絶対無理だって!だって……

その後も断ったけれど、他にも手立てはないし、しょうがなく長谷川家でお世話になることになったちゃろである。

てか、今更思ったけどほぼ二人きりじゃん……
「二人きりってヤバくない?!」
「え?」

あ、声に出てた。

絶対ヤバいって危ないって!
(何がって感じだけど。)

でもここからが大変だった。
最初はマイナスな感情があったら猫になって、ドキドキしたり喜んだりプラスな感情があったら人間に戻ってたんだけど……

だんだんそれも無くなってきて、ほぼ猫の状態が続くようになった。

「あーちゃろさん、中々元に戻りませんね。」
(ゆずてゃ、ウチこのままだったらどうしよう……)
「もしそのままなら、僕が一生守るので安心してください。」
「ニャッ!?」

ゆずてゃはたまに冗談なのか、本気なのか分からない事を言うからびっくりする。

でも一生かぁ……
ゆずてゃとなら、悪くないなぁ。

ボーッとして話を聞いていなかったせいか、ゆずてゃに顔を覗きこまれた。
「あーちゃろさん?」
その瞬間ぼふっと猫に戻った。
相変わらずゆずてゃには弱いらしい。

長谷川家でお世話になって五日ほど経った頃、ちゃろは初めてゆずてゃママに会うことができた。

――だけど、そこで衝撃の事実を知ることになりました。

その日はたまたま人間に戻っていた日で、お昼頃にゆずてゃママが帰ってきた。

「ただいまー。ってまぁ、誰もおらんよ……?!ひぃ!」
「……こ、こんにちは。ははっ。」
「何なん?!誰やあんた!泥棒?!ゆずの服まで着て!変態か?!」
警察に通報しようとするゆずてゃママを必死で止めて事情を説明した。
(授業中のゆずてゃにも電話して説明してもらった。)

「わかった、ゆずがそう言うなら信じたるわ。」
(良かった……)
「でも……」

うあ、絶対怒られる!ワンチャン追い出される!そう思った瞬間……

「ゆずに同性の友達ができて良かったわ、ほんまに嬉しい!そうかぁ!そうやったんかぁ!」
……ん?

「あの……ウチ女の子なんですけど……」
「ん?そんなん見たら分かるやろ。」

あれ?話が噛み合わない。

お互いハテナが浮かんだところでゆずてゃママが察した。
「あー!いややわー。よく勘違いされるんやけど、あの子女の子なんよ。」

ガハハと笑うゆずてゃママにウチはびっくりしすぎて声が出なかった。

え?!ゆずてゃ……女の子だったの?
へ?女の子って、ま?!

「じゃあ、ゆずるちゃんってことですか?!」
「んまぁ、そうなるなぁ。でも学校ではズボンやし、あの子小ちゃい頃から愛想もなくてな。
だからよう間違われるんやけど一応女の子!まぁ、今のご時世どっちでもええんやけどねぇ。ガッハッハ!」

ちゃろは、なんと言うかショックというか、良かったというか……複雑な気持ちになった。

「あれ?でも、ゆずてゃ『僕』って……」
「あー、あれは多分美少女戦士のうちの一人で『僕』言うてる子が居ってな、その影響やと思うわ。あの子物心ついたときから僕やってんか。」
「そうなんだ……」

てか、ゆずてゃ小さい頃そんなアニメ見てたんだ。そういうの興味無さそうだから意外だなぁ。

「そうかぁ、ゆずに女の子の友達かぁ。初めてのことやからなんか嬉しいなぁ。仲良くしてくれてありがとう。」
「いえ、全然そんな。」

あー……そうか。ゆずてゃ、女の子だったのか。でもなんでだろ、ゆずてゃに対する気持ちは変わらないや。
これってやっぱり……

ウチはその日初めてゆずてゃのことが好きなんだって気づいた。それは友達としてではなく。

その日以降、なんかだかゆずてゃと上手く話せなくなっちゃった。

――そしてその日から一週間が経とうとしていた。
ウチはどんどん人間に戻るのを諦め、猫でもいいかなぁなんて思い始めていた。
だって、人間てめんどいじゃん?
猫はゴロゴロして、毛ずくろいするのが仕事だし。

そんな思いのせいか、人間に戻る回数がどんどん少なくなっていった。
前は一日に一回は人間に戻っていたのに、今は二・三日に一回程度だ。
そんな日常を過ごして居るせいか、ときどき自分が人間だったのを忘れるようになってきた。

その間ゆずてゃは心配して毎日声をかけてくれた。

「あーちゃろさん、もう人間に戻らなくなって三日目ですよ?人間だったこと忘れていませんか?」
「ニャー。」

「うーん、どうしよう……全然戻ってくれないや。洋子さん、僕どうしたらいいですか?」
「そうやなぁ。あーちゃろちゃんは人間に戻りたいん?戻りたくないん?」
「んー……僕、猫語は分からないのでどちらかは判断しかねます……。」

正直ウチはこの時、ほんとに脳みそまで猫になっていて人間だったときの記憶なんてほぼ無かった。
だから戻りたいとか、戻りたくないとかそういう感覚じゃなかった。

「分からんねやったら、あんたはこの子が好き?」
「え?はい、大好きです。」
「戻って欲しいと思ってる?」
「もちろんです。」
「ほんなら最後まで守らなあかんで。約束したんやろ?」
「はい……」

そんな会話なんてつよ知らず、ウチはのんきに欠伸をして眠りについていた。

そしてどんどん日が経ったある日、ウチとゆずてゃは買い物を頼まれスーパーへ買い出しに行った。

そこで事件は起きた。

道を渡ろうと、歩行者信号が青になったところで進んでいくと

「あーちゃろさん、危ない!」

車が猛スピードで走ってきたところでゆずてゃが手を差し伸べたが、間に合わず私は車と――。

と思いきや、車は私をすり抜けて走っていった。

「……え?」
その瞬間、ウチはある出来事を思い出した。今まで忘れてる事さえ忘れていた出来事。

(そう言えばウチ、事故に遭ったんだ。)
――ってことは……

今のウチってもう死んでるの?
幽霊?!
でもなんで猫になって……もしかしてこれが生まれ変わりってやつ?!
え、やだよそんなの……

「ゆずてゃ!ウチって……」
「……そうですね。やっぱり説明しないといけませんね。」

そう言ってゆずてゃは私を病院へ連れていった。

すると、そこには――。


他でもないウチが確かにそこで眠っていた。
人工呼吸器をつけて頭は包帯でグルグルだった。

これ……ウチなの……?
じゃあ、ここに居るウチは何?

「あーちゃろさん、猫を助けようとして事故に遭ったんです。そこからずっと眠り続けていて……」
「でも、ウチここに存在してる。どういうこと?」
「それがどういう訳か、あーちゃろさんは猫になって現れまして。
僕なりに考えたんですが、助けた猫とあーちゃろさんは入れ替わったのではないかと。」

なにそれ……
ウチの体の中には猫が居るってこと?

「そんな漫画みたいなことあるわけないじゃん!」

すると、病室のドアがガラガラと音を立てて開いた。
そこにはママが立っていた。

「あら、ゆずるくん来てたのね。いつもありがとう……」
ママは涙目だった。
「いえ、様子が気になってしまって……」
ウチには全然気づいていない様子だった。

「ママ?!」
呼んでみても反応が無い。
ウチは目の前に居るのに……なんで?

「さっき先生と話したんだけれど……この子、もう目覚めないかもしれないんですって……日が経つにつれてどんどんその可能性が薄くなってるらしくて……。」
「そうですか……でも、まだ希望はあるはずです。何ができるかは分かりませんが、僕があーちゃろさんを守ります。」
「……ありがとう。その気持ちだけでも嬉しい。」

「ねぇ、ママってば!」
ウチはまたママを大きな声で呼んだ。
でもやっぱり気づいて貰えなかった。

――病院を出た後、ウチとゆずてゃは夕日を見ながら帰っていた。
(綺麗だな……)
「綺麗ですね。」
同じことを思ってたのが嬉しかった。

でも……
「ママに気づいて貰えなかった……」
涙がボロボロ流れてきて止まらなかった。

「実は……もう一つ言わないといけないことがありまして。」
「ふぇ?」
「あーちゃろさんは、人間に戻ってるとき僕と洋子さんにしか見えてないんです。」

だから車には轢かれずに済んで、ママには気づいて貰えなかったのか。
「そうなんだ、ウチどうしたら……」

しばらく無言が続いた後、ゆずてゃが口を開いた。

「あーちゃろさん、今のうちにあーちゃろさんに伝えたい事があります。これからどうなるか分からないので……」

「伝えたいこと?」

「えっと、あの……僕色々考えて気づいたんですが……あーちゃろさんのことが好きみたいです。
失うかと思ったとき怖くなって、その時にやっぱりと思って気付きました。
あの、その……友達としてではなく。」

え?

「ごめんなさい、こんな事言って……変ですよね。」
「そんなことない!だってちゃろだって……ウチだってゆずてゃのことが好きだよ。」

するとゆずてゃびっくりした表情で、笑顔になってくれた。

もう暫く人間に戻れていなかったし、これが人間に戻れる最後のチャンスかもしれない。
そう思ったウチはゆずてゃの名前を呼んで

「ねぇ、ゆずる。」
「何ですか?」
そしてそっとほっぺにキスをした。

ゆずてゃは少し戸惑ったあと、ウチを抱きしめてくれた。

「ゆずてゃ、今までありがと。」
「こちらこそ。」

その瞬間、真っ白な光が私を包んだ。

そしてウチは――

#4「急接近ってま?!」
-終わり-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?